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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 3節 軍令:調査依頼編

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第37話 面倒くさい話だ

「うむ、ご苦労だったな諸君」


 ここは王都の中枢区内、中央司令部の中でも更に中枢——軍司令本部の上将軍執務室。

 簡素な室内に、書類の山積みになった大きな机が一つ。

 大きなソファとテーブルに案内され、俺達は腰掛けた。


「報告を頼む」


「はい、まずこちらを」


 サリィンが調査報告書を手渡した。


「ん?これだけか?」


「いえ、他にも調査地点ごとのデータや、地質を書き込んだ地図もありますが、今ご覧になられますか?」


「あぁ、私が受け取ろう。全てに目を通した後、担当部署に回しておく」


 サリィンが入口近くに固めて置いてある大きな荷物を指差した。

 あまりの量に、台車を借りたくらいの量だ。

 これに目を通すだと?

 このオッサン、どんだけ暇なんだ?


「はっはっは!ガル、ワシを暇人だと思ったな?」


 心を読んだかのように、俺の考えを見抜く上将軍。

 やっぱり只者ではない。


「いや、そういう訳では……」


「ワシは暇ではないが、目を通さんと気が済まんのだ。ところで、お主達の見解を聞きたい。あの場所に東方司令部を移動するのはいい案だと思うか?」


 まるで少年の様に目を輝かせながら聞いてくる上将軍。

 御前裁判での厳しい印象とはかなりの落差だ。


「俺はそう言うのは専門外だからな、グローはどう思う?」


「うむ……。1つ、問うても良いか?」


「あぁ、勿論」


「その前に、人払いを願う」


 奇妙な事を言う。

 部屋にいるのは俺達と上将軍、それに警護兼補佐官が2人。

 補佐官を退出させろと言うのか?


「ちょっと待て、グロー。人払いの必要があるのか?」


「ある。そうだろ、上将軍殿?」


 そう言われた上将軍は少し唸った後、重みのある笑いをする。


「うむ、そうするか。お前たちは下がれ。それと、外の警護官たちも下げさせろ」


「な!?しかし!」


「いいから下がれ。これは軍の中でも最重要機密事項だ」


「……、御意のままに……」


 補佐官たちは不服そうに退室していった。

 4人分の足音が遠ざかるのを確認すると、グローが口を開く。


「ここに、軍司令本部の機能が担える規模の地下基地を作るつもりか?」


 その言葉に驚いた。

 司令本部の機能を担えるだ?


「やはり、お主を出し抜くのは無理か」


「当たり前だ、ワシは鉱矮人《ドワーフ》だぞ。東方司令部の移転にしては、調べる地質深度が深すぎる」


 グローが言うには、岩盤の調査にしては、あまりに深いところまで調べているらしい。

 ただの東方司令部の移転ならば、せいぜい硬い岩盤まで。

 今回の調査はその更に深くまで調べている。


「お主は王都が陥落する可能性を視野に入れておるな?上将軍閣下」


 空気が凍り付いた。

 王都陥落だと?

 そんな事が有り得るのか?


「可能性としてはゼロではない。だから備える。それだけの事だ」


「フン、備えるだけならば、各方面司令部に分散させる案だってあっただろう?何故1カ所移転に絞った?」


 確かに、グローの言う通りだ。

 東西南北の司令部に機能を分散させるのが最も効率的だ。

 これでは、東へ逃げている様に見える。

 ん?東に逃げる……?


「上将軍さん、西に何か懸念があるのか?」


 俺の言葉に、上将軍は一度目を見開き、その後目を細めた。


「グロー、お主の相棒は本当に頭がキレるのぉ。ワシの補佐官に欲しいくらいだ」


「冗談ではぐらかさないでくれ」


「冗談ではない。これは正式な提案《オファー》だ」


「俺は軍人には向いていない。叩けば埃が出る冒険者だ。アンタが失脚したいのなら、補佐官になってやるよ」


 隣であたふたとしているサリィンを横目に、上将軍相手に凄んでみる。


「はっはっは!そいつは困るな!」


 上将軍はあっさりと躱す。

 やはり、このオッサンは只者ではない。


「まぁ、お主のヘッドハントは置いておこう。ガル、何故『西に何か懸念がある』と思う?」


「いや……、まるで東に逃げたい様に見えるからだ……」


「いや、そうじゃない。お主の頭の中には既に、西(・)の(・)懸(・)念(・)の正体が浮かんでいるのではないか?」


 このオッサン、本当に俺の考えている事を見通しているように喋りやがる。


「……、『九龍会《クーロンカイ》』」


「クーロンカイ?」


 グローやサリィンが首を傾げる。

 知らなくても当然だ。

 王国の東側に住んでいれば、絶対に耳にする事のない名前だ。


「王国の西方の裏社会を牛耳る巨大組織だ。簡単に言えばヤ(・)ク(・)ザ(・)だ」


「ヤクザ……?」


「なーぜお主がそんな事を知っておる?」


 グローが俺を見てくるが、今は無視しよう。


「何、風の噂で九龍会に動きがあるって聞いたからな」


「うむ、ガルの言う通り、九龍会で内部抗争が始まりそうなのだ」


「しかし、軍に何の影響がある?所詮、犯罪者《アウトロー》達の喧嘩だぞ?」


「ただの喧嘩で済めばいいのだがな……」


 上将軍は含みのある言い方をした。

 嫌な想像が鎌首をもたげてきた。

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