第34話 怪我人に指南役をさせるな
俺は野菜スープを鍋で温めながら、遠くの稽古を眺めていた。
サリィンが地面を蹴る。
中々鋭い打ち込みだ。
しかし、グローはそれを軽く片手で捌いている。
その間にコフィーヌはグローの背後に回り、突きを主体とした攻撃を加え始めた。
いいセンスだ。
斬撃は線状の攻撃だから、剣筋を妨害すれば防げる。
しかし突きは点だ。
避けるか弾くしかない上、斬るよりも突く方が剣への負担も軽い。
グローは双斧使いだ。
2方向からの攻撃には慣れている。
俺はスープをかき混ぜながら、聞こえる筈もないのに呟く。
「考えたな。だが、あれじゃダメだ」
トマトベースのスープに干し肉を入れると、いい味が出る。
そう思っていると、グローの動きが変わった。
サリィンの縦の斬撃を止めずに避け、同時にコフィーヌの突きを脇下に通して腕ごと抱え込む。
振り抜かれた斬撃を上から踏みつけ、サリィンを封じながらコフィーヌの剣先をサリィンの喉元へ。
空いた棒切れをコフィーヌの首元へ。
見事だ。
「おーい、そろそろ飯だぞー!」
俺の声に、グローが2人へ向き直る。
「ダメだ!全然ダメだ!」
†
スープを啜りながらグローの説教が始まる。
「センスはいい。だが、2人の位置関係が同じまま攻め続けるのがダメだ。目が慣れる。同じパターンばかりではすぐに見切られる」
俺は相槌を打つ。
「タイマンなら斬撃と突きを織り交ぜて、相手にリズムを掴ませない様に戦うのと同じか」
「そうだ。コフィーヌが突き主体なのは、腕力が足りんからであろう?」
「はい。どうしても押し負けてしまうので」
「その判断は良い。しかし、突く場所を見極める必要がある。甲冑の関節部には隙がある。重装兵は機敏に動けない、それを逆手に取れ」
グローが硬いパンをスープに浸しながら頬張る。
我ながらこのスープは美味く出来た。
3人はスープの味が分かっているのだろうか。
説教を聞きながらでは、味なんてしたもんじゃないだろ。
「腸詰なんか入れたら、もっと美味そうだな……」
グローの説教を尻目にポツリと呟く。
その気になれば、野生動物を狩って来るのもアリだ。
イノシシやウサギのスープを作るのも悪くない。
そう考えていると、割と楽しくなってくる。
「ガル、聞いておるか?」
「あ?」
いつの間にか3人の視線が俺に向けられていた。
「なんだ、聞いてなかった」
「剣の扱いについては、ワシよりもお主の方が長けているだろう。1つ、教えてやってやれ」
「俺が!?」
「ワシは斧だからな。体捌きなども違ってくる」
「俺の剣も普通の剣と違うだろ!それこそ身体の使い方が違う!」
「良いではないか、そんなに変わらんだろ」
「勝手な事言うな!」
「ガル殿、どうかお願いします!」
サリィンとコフィーヌが頭を下げる。
何とも面倒な事になった。
「……分かったから頭を上げろ2人とも。長剣でも使えそうな奴なら教える」
「ありがとうございます!」
グローはガハハと笑いながら酒瓶を煽った。
コイツ、一番面倒なところを俺に丸投げしやがって……。
†
正直、俺は最初から刀を使っていた訳ではない。
最初に使っていたのは何の変哲もない長剣だ。
とは言っても、槍の方が得意だったのだ。
武器の扱いに関して、俺は埋もれていた。
それが変わったのは、師匠が妙な人間を拾ってきてからだ。
その人間はどの言語も理解できず、聞いたこともない言葉を話していた。
行き倒れているところを師匠が拾ったらしい。
物好きな人だった。
師匠の元で回復したソイツは、鍛冶場に籠るようになった。
ソイツが鍛え上げたのが、この刀だった。
最初に興味を示したのは師匠で、次に俺だった。
長剣より幾分軽く、独特の反りがある刃渡り。
ソイツからコツを教わると、妙に俺の手に馴染んだ。
それ以来、刀を使っている。
「えーっと、教えろと言われても特に教えられる事はないんだが……」
俺はサリィンとコフィーヌの目の前で頭を掻く。
「まずは素振りをしてくれ」
2人が剥き身の長剣で素振りを始める。
ヒュンという、空気を切り裂く音がしっかりと出ている。
太刀筋も真っ直ぐでブレはない。
いい振りだ。
「うん、いいな」
「ありがとうございます!」
「だから、太刀筋は良いと言っておろうが」
グローが横から口を挟んで来る。
いやいや、丸投げしたのはお前だろうが。
「で、グロー教官殿の意見は?」
「一度手合わせすれば分かる」
「おい、俺は怪我人だぞ?」
「右手で捌けるだろ?ただの棒切れだしの」
「はぁ……」
仕方なくサリィンと打ち合う事にした。
「殺す気で来い」
「しかし、ガル殿は左手を……」
「遠慮すんな。ここで怪我した所で、任務遂行中の不慮の事故で保証が出るだろ?」
「まぁ、そうですけど……」
「いいから来い」
「では……」
サリィンが地面を蹴って打ち込んで来た。




