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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 3節 軍令:調査依頼編

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第34話 怪我人に指南役をさせるな

 俺は野菜スープを鍋で温めながら、遠くの稽古を眺めていた。


 サリィンが地面を蹴る。

 中々鋭い打ち込みだ。

 しかし、グローはそれを軽く片手で捌いている。

 その間にコフィーヌはグローの背後に回り、突きを主体とした攻撃を加え始めた。

 いいセンスだ。

 斬撃は線状の攻撃だから、剣筋を妨害すれば防げる。

 しかし突きは点だ。

 避けるか弾くしかない上、斬るよりも突く方が剣への負担も軽い。


 グローは双斧《ツインアクス》使いだ。

 2方向からの攻撃には慣れている。

 俺はスープをかき混ぜながら、聞こえる筈もないのに呟く。


「考えたな。だが、あれじゃダメだ」


 トマトベースのスープに干し肉を入れると、いい味が出る。

 そう思っていると、グローの動きが変わった。

 サリィンの縦の斬撃を止めずに避け、同時にコフィーヌの突きを脇下に通して腕ごと抱え込む。

 振り抜かれた斬撃を上から踏みつけ、サリィンを封じながらコフィーヌの剣先をサリィンの喉元へ。

 空いた棒切れをコフィーヌの首元へ。

 見事だ。


「おーい、そろそろ飯だぞー!」


 俺の声に、グローが2人へ向き直る。


「ダメだ!全然ダメだ!」


†


 スープを啜りながらグローの説教が始まる。


「センスはいい。だが、2人の位置関係が同じまま攻め続けるのがダメだ。目が慣れる。同じパターンばかりではすぐに見切られる」


 俺は相槌を打つ。


「タイマンなら斬撃と突きを織り交ぜて、相手にリズムを掴ませない様に戦うのと同じか」


「そうだ。コフィーヌが突き主体なのは、腕力が足りんからであろう?」


「はい。どうしても押し負けてしまうので」


「その判断は良い。しかし、突く場所を見極める必要がある。甲冑の関節部には隙がある。重装兵は機敏に動けない、それを逆手に取れ」


 グローが硬いパンをスープに浸しながら頬張る。

 我ながらこのスープは美味く出来た。

 3人はスープの味が分かっているのだろうか。

 説教を聞きながらでは、味なんてしたもんじゃないだろ。


「腸詰なんか入れたら、もっと美味そうだな……」


 グローの説教を尻目にポツリと呟く。

 その気になれば、野生動物を狩って来るのもアリだ。

 イノシシやウサギのスープを作るのも悪くない。

 そう考えていると、割と楽しくなってくる。


「ガル、聞いておるか?」


「あ?」


 いつの間にか3人の視線が俺に向けられていた。


「なんだ、聞いてなかった」


「剣の扱いについては、ワシよりもお主の方が長けているだろう。1つ、教えてやってやれ」


「俺が!?」


「ワシは斧だからな。体捌きなども違ってくる」


「俺の剣も普通の剣と違うだろ!それこそ身体の使い方が違う!」


「良いではないか、そんなに変わらんだろ」


「勝手な事言うな!」


「ガル殿、どうかお願いします!」


 サリィンとコフィーヌが頭を下げる。

 何とも面倒な事になった。


「……分かったから頭を上げろ2人とも。長剣《ロングソード》でも使えそうな奴なら教える」


「ありがとうございます!」


 グローはガハハと笑いながら酒瓶を煽った。

 コイツ、一番面倒なところを俺に丸投げしやがって……。


†


 正直、俺は最初から刀を使っていた訳ではない。

 最初に使っていたのは何の変哲もない長剣だ。

 とは言っても、槍の方が得意だったのだ。

 武器の扱いに関して、俺は埋もれていた。

 それが変わったのは、師匠が妙な人間《ヒューム》を拾ってきてからだ。

 その人間はどの言語も理解できず、聞いたこともない言葉を話していた。

 行き倒れているところを師匠が拾ったらしい。

 物好きな人だった。

 師匠の元で回復したソイツは、鍛冶場に籠るようになった。

 ソイツが鍛え上げたのが、この刀だった。

 最初に興味を示したのは師匠で、次に俺だった。

 長剣より幾分軽く、独特の反りがある刃渡り。

 ソイツからコツを教わると、妙に俺の手に馴染んだ。

 それ以来、刀を使っている。


「えーっと、教えろと言われても特に教えられる事はないんだが……」


 俺はサリィンとコフィーヌの目の前で頭を掻く。


「まずは素振りをしてくれ」


 2人が剥き身の長剣で素振りを始める。

 ヒュンという、空気を切り裂く音がしっかりと出ている。

 太刀筋も真っ直ぐでブレはない。

 いい振りだ。


「うん、いいな」


「ありがとうございます!」


「だから、太刀筋は良いと言っておろうが」


 グローが横から口を挟んで来る。

 いやいや、丸投げしたのはお前だろうが。


「で、グロー教官殿の意見は?」


「一度手合わせすれば分かる」


「おい、俺は怪我人だぞ?」


「右手で捌けるだろ?ただの棒切れだしの」


「はぁ……」


 仕方なくサリィンと打ち合う事にした。


「殺す気で来い」


「しかし、ガル殿は左手を……」


「遠慮すんな。ここで怪我した所で、任務遂行中の不慮の事故で保証が出るだろ?」


「まぁ、そうですけど……」


「いいから来い」


「では……」


 サリィンが地面を蹴って打ち込んで来た。

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