第33話 しっかり生きろ
「ふむ、お前のお迎えが来た様だな」
「な!?俺、死ぬのか!?」
「違う、逆だ。肉体に戻る頃合いという事だ」
肉体に戻れるのか。
方法を聞かなくて良かった様だ。
「ウラグ、アンタには世話になったな」
「何、集合思念に取り込まれるまでいい暇つぶしになった。礼を言うのはこっちだ」
「普通に出会ってれば、アンタとはいい酒が飲めそうだったんだが、残念だ」
「仕方あるまい、世の流れには逆らえん。私も、お前と話が出来て良かった。そうだ、これを受け取れ」
ウラグは右手を差し出した。
掌の上に見た事のない紋章が浮かび上がっている。
「それは?」
「闇魔術の基礎中の基礎だ。本気で修行すれば使えるようになるぞ」
「おい、王国では禁忌だって言ったのはアンタだろ?」
「使い処は考えろという事だ」
「ったく……」
「もう会う事はないが、達者でな。しっかり生きろ、ガル」
「おう、ありがとよ」
俺はゆっくりと目を開いた。
†
「ガル!起きたか!」
グローが俺の顔を覗き込んでいた。
「なんだよグロー、顔が近い……」
俺はグローの顔を手で押しやりながら上体を起こした。
「なんだよではない!」
「呼吸も心臓も止まっていたんですよ!?」
サリィンとコフィーヌも泣きそうな顔で俺を見ている。
呼吸も心臓も止まっていたのか。
肉体と魂が離れるのは中々危険な様だ。
「悪い悪い、心配かけたな」
「何処もおかしい所はありませんか?」
コフィーヌが近付き、脈などを調べてくれている。
「コフィーヌは医学の知識もあるのか」
「実家が薬草を扱っていたので、衛生兵課程に進みました。異常はなさそうですね」
「なんじゃい、心配させおって」
「俺は寝てただけのつもりなんだがな」
「心配して損したわ」
グローはそう言って俺に背を向けた。
魂世界でウラグと会った事は伏せておいた方がいいだろう。
とりあえず、煙草を吸うために俺は立ち上がろうとした。
「あ!まだダメです!」
コフィーヌが俺を止めようとする。
コフィーヌの手が俺に触れる前に、俺の身体はユラリと傾いた。
「あら?」
俺はコフィーヌを下敷きにする形で倒れた。
「悪い……」
「まだ動くのは危ないかと……」
コフィーヌは顔を赤らめながら言う。
「それと……、手をどけてもらえないでしょうか……?」
そう言われて見ると、俺の手はコフィーヌの胸を鷲掴みにしていた。
手にはかなり控え目ながら、柔らかい膨らみを感じる。
……、膨らみ?
「コフィーヌ……、アンタ、女だったのか……?」
「……はい」
俺は何かに弾かれたようにコフィーヌの上から飛び退いた。
これは完全にやらかした。
†
翌日、俺達は無事に木こりの町へ到着した。
ほぼ丸1日を坑道で過ごしたお陰で、外に出た時の眩しさと言ったら、目が焼けるかと思った程だった。
「臭いはまだ残ってるな……」
ここは木こりの町ではあるが、ウラグ率いる約1100と、トールズ率いる2500がぶつかった戦場だ。
死体の処理は既に完了しているが、地面はその時に流された血を吸い、元の土の色が分からないくらいに黒く変色している。
「こりゃ、土の入れ替えからやる必要があるのぅ……」
「町は石畳で完全舗装される予定なので、入れ替えの必要はないとの事でした」
「石畳にするにしても、何か嫌だよな……」
俺はしゃがんで地面に触れた。
乾燥した赤黒い砂が手に付着する。
「ここで寝泊まりするって、抵抗あるよな」
「なんじゃ、ガル。怖いのか?」
「怖くはねーけど、気味悪ぃ……」
「意外な弱点だの」
「俺は一般人だぞ?戦場慣れした軍人と一緒にするな」
「私もちょっと、抵抗あります……」
サリィンとコフィーヌも俺に同調する。
戦後配属組なのだ、戦場慣れなどしている訳がなかった。
「なんじゃい!そんな事より、調査するのだろ?さっさと終わらせて帰るぞい」
グローはドカドカと歩き出した。
俺達はその後に続いた。
「調査ってどれくらいの範囲でやるんだ?」
「盆地内の全てです」
ニッコリと笑うサリィン。
「……はぁ?」
「ですから、盆地内の全範囲です」
俺は無言のまま頭を抱えた。
「どれくらいかかる?」
「グロー殿の地質調査の速度なら……10日ほどかと」
「10日!?」
「早い方ですよ?通常は1ヶ月以上かかります」
確かにグローがいなければ、地面に穴を掘って地質を調べる必要がある。
それだけで途方もない時間がかかるだろう。
「10日か……。俺、何すりゃいいんだ?」
「護衛と記録の補助をお願い出来ますか?」
「まぁ、それくらいなら」
「あとはそうですね……、料理をしてもらえると助かります」
「飯炊きかよ」
「ガル殿の飯は美味しいですから」
やけに素直に言われると悪い気はしない。
俺はため息を吐きながら、グローの後を追った。




