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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 3節 軍令:調査依頼編

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第32話 訳の分からん場所

 何も灯りのない、真っ暗な空間。

 ここはどこだ?

 俺はグロー達と坑道の中で寝た筈だ。

 しかし、ここは坑道の中ではない。

 真っ暗だが、違う。

 グロー達がいないのだ。

 閉鎖された空間特有の息の詰まる感じがない。

 何処までも果てしなく空間が続いているようだ。


「ここは何処なんだ……?」


 俺の声は反響する事もなく、空間に消えていく。

 とにかく歩いてみる事にした。

 とは言っても、前も後ろも、上下左右も全く分からない。

 歩いている感覚すらまともにない。

 まるで肉体を失ってしまったようだ。


 しばらく歩くと、微かに何かの気配を感じる。

 その方向へ進む。

 気配が次第に大きくなる。

 何かいる。

 俺は警戒しながら近付くと、向こうから声を掛けてきた。


「誰だ、お前」


 低く唸るような声だ。

 敵対心を剥き出しにしている訳ではないが、友好的でもない。


「俺はガルだ。人間《ヒューム》のガル」


「人間だと?」


 声の主が近付いてくる。

 俺は度肝を抜かれた。

 現れたのは身の丈3メートル弱はある、大きな食人鬼《オーガ》だった。

 やらかした、完全にやらかした。

 まともに剣も振れない身で、不用意に食人鬼に近付いてしまった。

 逃げなくては。


「待て、ガル。そんなに警戒するな」


 食人鬼が俺を制する。


「私はお前とやり合うつもりもない。それに、ここでは戦闘など出来ん」


「どういう事だよ……?」


「私の手に触れてみろ」


 食人鬼は右手を俺の前に差し出した。

 俺は恐る恐る掴もうとする。

 しかし、掴めない。

 俺の手は空を切るばかりだ。


「どういう事だ?」


「ここは『魂世界(アーラヤ)』という場所だ。お前も私も霊体になっている」


「……はぁ?」


 全く意味が分からない。

 霊体?魂世界?

 そもそもここがどういう場所なのかすら分からないのに、説明されても頭に入ってこない。


「頭の悪い俺でも分かるように説明してくれよ」


「よかろう」


 食人鬼はうんうんと頷きながら、魔法と魔術の違い、魂と肉体と精神の関係を丁寧に説明し始めた。

 なんだ、コイツ。

 食人鬼の癖に親切と言うか、面倒見がいいと言うか……。

 正直、調子が狂う。

 俺は適当に相槌を打ちながら一通り話を聞いた。


「つまり、俺は今、魂だけでここにいるって事か」


「そういう事だ。そして、ここに降りてこれるのは闇魔術の素養がある者だけだ」


「闇魔術……?」


「今ではほとんど失われた、古代の魔法とも言うべきものだ。そして、ここは『闇の魂世界』。お前には闇魔術の素養があるという事だ」


「俺に?」


「素養はある。しかし、王国では闇魔術は禁忌だ。使えると分かれば問答無用で処刑台行だ」


「マジか……」


「元々、闇魔術は暗黒種族のみが使えるものだ。人間が素養を持つなど、私も知らなかった」


「へぇ~、俺って案外レアなんだな」


「むしろ、異常だ」


「ハハハ、かもしれねーな。てか、アンタ親切だな。食人鬼なのに人間の俺に色々教えてくれて」


「同じ『闇の魂世界』に降りれる者同士だ、これも何かの縁だ」


「そういや、アンタ名前は?」


 このふとした質問はしない方が良かったと、俺は後悔する事になる。


「私か?私はウラグ。魔王軍の再興を夢見、潰えた食人鬼だ」


†


「ウラグ……だと?あの千人長のウラグ?」


 俺は焦った。

 ウラグと言えば、俺達が捕え、王都へ移送した食人鬼だ。

 そいつが今、目の前にいる。

 霊体の姿だが。


「何だ?私を知っているのか?」


 俺は言葉に詰まった。

 元々敵なのだ。

 告白したら殺されるかもしれない。

 いや待て、霊体だと殺す殺されるなど関係ないのでは?


「俺はアンタを捕まえた部隊の1人だった。アンタが塒(ねぐら)にしてた坑道に斥候(スカウト)として入ったのも俺だ」


「単眼鬼《サイクロプス》から逃げ果せた人間《ヒューム》とはお前だったのか!」


 ウラグは怒るどころか、何故か嬉しそうだ。


「アンタ、俺が憎くないのか?計画を潰した張本人だぞ?」


「既にそのような感情はない。結局は全て私の不手際だ。誰のせいでもない」


 何ともあっさりとした奴だ。


「アンタ、随分と印象が違うな。もっと寡黙で冷酷なのかと……」


「私は元々こういう性格だ。しかし軍を率いるとなると、このままではいかん。でなければ烏合の衆になってしまうのでな」


「アンタも大変だったんだな」


 俺はその場に腰掛けた。

 元は敵だが、今はちょうどいい話し相手だ。


「つーか、アンタまだ生きてたんだな。てっきり処刑されたと思ってた」


「あぁ、肉体はもうないだろう」


「……はぁ?」


「拷問も受けていたが、魔王軍の情報など王国に渡す気などない。早々に肉体から魂を切り離してこちらへ退避したのだ」


「そんな事が出来るのか……」


「私は魔術師(ストライゴン)の中でも上位だ。それくらいは出来る。ただ、問題がある。魂とは不安定なモノでな。肉体を失えば、いずれ集合思念に吸収され、ウラグという名も忘れ、記憶も曖昧になり、何も認識出来なくなる」


「……肉体を失えばいずれ消えると言ってたのはそういう事か」


「そういう事だ」


 何とも不思議な気分だ。

 まるで昔からの友人と話をしているかのような居心地の良さだ。

 しかし、何故こんなにも面倒見がいいのか。

 元は敵だ、種族だって違う。


「それにしても、アンタはい(・)い(・)人(・)過ぎないか?元は敵だぞ、俺は」


 俺の問いに、ウラグは目を丸くした。

 そして豪快に笑いだした。


「なんだよ!」


「いや、お前もお前でい(・)い(・)人(・)だと思ってな!」


「俺の事、馬鹿にしてるだろー」


「いやいや、すまん。ここに降りれるのは暗黒種族だけだ。人間が降りれる様な場所じゃない。闇魔術の素質がある人間など、もうこの世にはいない筈だからだ。お前は異(・)常(・)なんだ。若い頃の環境のせいやも知れん。その辺はお前自身の方が分かるのではないか?」


「……」


 若い頃の環境。

 俺には心当たりが、ある。

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