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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 1節 巨人討伐依頼編

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第2話 当たり依頼のようだ

 荷馬車の荷台というのは、慣れた者には最高の寝床だ。

 揺れのリズムが心地よく、いつの間にか眠りに落ちる。

 ワシは今まさにそういう状態で、最後尾の荷台に背を預け、揺られながら目を細めていた。


 いい依頼を拾った、とワシは思う。


 移動中の食費はクライアント持ち。

 護衛対象は素直で話の分かる圃矮人《ハーフリング》。

 おまけに道中の飯が腸詰と来た。


 腸詰というのは旅の食い物じゃない、本来は。

 ミンチ肉に香辛料を詰めて燻製にしたものだが、香辛料が高い。

 ワシですら滅多に口にできない代物だ。

 それを「道中の昼飯」として当然のように出してきた時は、正直驚いた。


 さらに、あのコッフェとかいう黒い液体も中々だ。

 南の豆を煎って粉にしてお湯を注ぐ——なんとも手間のかかる代物だが、あの苦味と香りはワシの好みだった。

 ミルクも砂糖も要らん。あのまま飲むのが一番旨い。

 ガルは「市場展開したら絶対売れる」と言っていたが、ワシも同感だ。


 代表のピュートという圃矮人もなかなか面白い奴だった。

 ワシらが腸詰やコッフェについて好き勝手言う端から、全部メモしていた。

 客の反応を逃さない。いい商売人の目をしている。


 顔合わせの時も、ワシがギルドの受付の付き添いを断って直接乗り込んだ事を、笑顔のまま「契約違反ではないですか」とやんわり釘を刺してきた。

 正論だ。あの時のガルの「確かにそうだな、申し訳ない」という素直な謝り方も珍しかったが、それだけピュートの言い方が上手かったのだろう。

 商売人というのは、怒鳴らずに相手を動かす術を心得ている。


 ——そんな事を考えている内に、いつの間にか眠りに落ちていたらしい。


 気づけば、辺りはすっかり暗くなっていた。


†


 夜の街道というのは、昼間とは全くの別物だ。

 日光の届かぬ森の中では、闇そのものが生き物のように息をしている。

 ワシはそれをよく知っている。170年も生きていれば、嫌でも知ることになる。


 今、ワシは野営地を見下ろせる大木の上に陣取っていた。

 眼下には三台の荷馬車が円陣を組み、中央の焚き火がぱちぱちと爆ぜている。

 ピュートたち商団の連中は、テントの中で静かに眠りについているように見えた。


 そう、「見えた」だけの話だがな。


 森の暗がりに、赤い眼が幾つも光り始めたのはそれからすぐのことだ。

 茂みの向こうで矮鬼《ゴブリン》どもが蠢く気配。昼間に逃がした顎砕きが、仲間を引き連れて戻ってきたというわけだ。

 数を数える。十……二十……五十は下らんな。

 装備も揃っている。王国軍の正規品と見紛う歩兵槍まで持ち出してきおった。


「ギ、ギギッ!」


 隊長格らしき一匹が湿った合図を漏らした。

 それを受けて矮鬼どもが一斉に茂みを飛び出す。


 さて、ここからだ。


 種を明かせば単純な話だ。

 ピュートの商団が持っていた「周りの風景を映し出す水晶」——これを使って野営地全体を偽装し、本物の荷馬車とテントをとっくに安全な場所へ移してある。

 矮鬼どもが今見ているのは、現実から数メートルずれた場所に投影された虚像に過ぎん。

 中央に置いてあるのは、水晶が一つだけだ。


 ワシはその一部始終を、木の上から眺めていた。


 矮鬼どもがテントへ槍を突き立てた瞬間、何もない空き地が現れる。

 連中がキョロキョロと辺りを見渡す様は、なかなか滑稽だった。


「——ここまで上手くいくと笑いも出んの」


 ワシは木から飛び降り、矮鬼どもの前に降り立った。

 五十匹以上の赤い眼が、一斉にワシを向く。


 構わん。


「主ら、ここで終わりだ」


 ワシは片膝をつき、無造作に地面へ手のひらを押し当てた。

 練り上げた魔力を、一気に足元の土へと流し込む。

 鉱矮人《ドワーフ》の魔法は理屈じゃない。地を読み、地を操る。それがワシらの本領だ。


「墜ちろ」


 轟音と共に、矮鬼どもの足元が内側から砕けた。

 地下五メートルまでの土を一瞬で消し飛ばす。

 五十余匹は抗う術もなく、巨大な穴の底へと折り重なって墜ちていった。


 穴の壁面には既に石化の魔法を仕込んである。爪を立てようが槍を突こうが、這い上がることは出来ん。

 そして底には、商団から仕入れておいた灯油をたっぷりと撒いてある。


 矮鬼どもが気づき始めた頃には、もう遅い。


「そろそろ良いかの」


 ワシは灯していた松明を、奈落の底へと無造作に放り投げた。


 爆炎が夜の底を焼き払い、断末魔の叫びが森に響き渡る。

 ワシはそれを完全に無視した。

 これが仕事だ。綺麗事も、慈悲もありはしない。


 焼け焦げる臭いを背に、ワシは静かに歩き出す。


 ガルの奴、今頃どうしておるか。

 昼間の話では、逃がした矮鬼を追って巣の奥へ潜り込んでいるはずだ。

 ……しかし、あの歩兵槍。あれだけの正規装備、矮鬼どもが自力で揃えられる代物ではない。

 巣の奥に何かおる。

 夜の森に立ち昇る火柱を背に、ワシは足を速めた。

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