第24話 急転直下じゃないか
「忌々しい王国軍め!姑息な手ばかり使いおって!」
2メートルを超える身体の食人鬼が悪態を吐いていた。
右肩の矢傷を手で押さえているが、指の間から紫色の血が流れ出している。
「千人長!この穴を抜ければどうにかなります!とにかく逃げ延び、再起を!」
共に走っていた黒醜人が叫ぶ。
やっと千人長にまでなったのだ。
王国軍の邪魔さえなければ、もう少しで将官にも手が届く所だった。
「クソ共がぁ!」
食人鬼は怒り狂っていた。
怒り狂うあまり、出口付近の異常事態に気付くのが遅れた。
「何だ!?」
出口は狗鬼でごった返し、全く外が見えない。
そこから漂ってくる血と毒と死の臭い。
「回り込まれただと!?」
「どけ!敵の別動隊など蹴散らしてくれる!」
食人鬼は穴から飛び出した。
そして、その光景を目の当たりにして、戦意を喪失した。
†
「出た!指揮官だ!」
両手に異形の斧を持った食人鬼が、惨状と化した広場に躍り出してきた。
しかし外に出た瞬間、すぐに呆然と立ち尽くしてしまった。
砦の上から自らに向けられる無数の矢。
完全な敗北を否応なく受け入れるしかなかったのだろう。
「指揮官は捕縛。抵抗する敵は斬り捨てろ」
サリィンの指示が飛ぶ。
王国軍の兵たちだけが広場に降り、抵抗を辞めた敵を手際よく縄で繋いでいく。
逃げようとする者や不意を突こうとする者もいたが、悉く砦の上の冒険者から射殺された。
「貴様ラ……、ドウヤッテ……」
食人鬼が耳長人語を喋る。
サリィンが食人鬼に近付く。
「名は?」
「千人長・ウラグ」
「いくつか聞きたい事がある。まず、お前達はこの鉱山とその先にある廃墟の要塞化をはかったな?」
「魔王軍、窮地。兵力、要ル」
「狗鬼がこの村を襲い始めていた事は知っているか?」
「村ヲ、襲ウ?」
「知らなかったのか……。お前の敗因はそこだ。配下を御しきれていなかった」
「ドウイウ、事ダ」
「お前達が町で戦っていたのは王国軍中央司令部の直轄部隊。我々は東方司令部所属の王国軍と冒険者の混成部隊。連携などしていない、それぞれ別の作戦で動いていた。それが偶然重なっただけだ」
「武運ガ、ナカッタ、ノカ……」
「違う」
サリィンがキッパリと否定する。
「貴様は隊を率いる器ではなかったのだ。村に狗鬼の被害がなければ、我々は今日ここにいなかった。貴様は逃げおおせた」
「斥候ハ、貴様ガ放ッタ、ノカ……。奴ラノデハナカッタカ……」
ガックリと肩を落とすウラグ。
その表情は、何処か笑っているようにも見えた。
「お前達を東方司令部へ連行する。その後の処遇は王都から追って沙汰がある」
結局、この広場で捕虜になったのは180余。
「はっはっは!コイツは痛快だの!」
グローが笑っている。
「何がだよ?」
「中央司令部は抜け駆けしてウラグ達を攻めたくせに、手柄はサリィンが全部持って行ったんだ。中央の連中、顔真っ赤にして怒り狂うぞい」
言われてみればそうだ。
手柄欲しさに東方司令部への連絡を怠り、勝手に担当地区以外で戦闘を始めた。
手柄は東方司令部所属のサリィンが根こそぎ持って行った訳だ。
「ははっ、確かにそうだな。戦後配属組の伍長が、敵千人長とその部下200弱を捕縛って、大手柄だしな!」
「出世するぞー、サリィン。王都への栄転もあり得る」
グローは笑いながら広場の先、サリィンの背中を見やった。
「サリィン!後は任せて、早く捕虜を連れていけ!中央の奴らにチョッカイ出されるぞ!」
サリィンは頷き、グローのアドバイスを素直に聞き入れた。
「現地の事後処理はコフィーヌに一任します。何かございましたらコフィーヌに仰ってください」
砦は解体せずに坑道の監視用として利用し、街の王国兵が交代で警備にあたる事になった。
俺はぼんやりと広場を眺めていた。
「グロー、捕虜は連行された後、どうなるんだ?」
「9割は処刑だ」
やはりそうか。
「残りの1割は?」
「1割の内、7分が獄死。残りの3分が登用だ」
「登用!?」
「ハハハ、意外か?魔王軍を探るための間者なども必要だろうて。使い方は色々だ」
王国もキナ臭いな。
魔王が倒され終戦したと言っても、実際は今目の前にあるコレが現実だ。
とにかく、今回は何の役にも立たなかったなと思いながら、俺は紙巻煙草に火を点けた。




