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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 2節 狗鬼討伐依頼編

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第21話 決定的な数的不利だな

 左手がまともに動かない。

 手綱を握る右手に力を込めながら、俺は馬を走らせた。

 痛みをこらえるよりも、今は時間の方が惜しい。


「サリィン!!」


 王国軍の支所に雪崩れ込むようにして入ると、サリィンとグロー、それと見慣れない女性の3人が顔を上げた。


「ガル!無事だったか!」


「無事とは言えねー。左手が逝《い》った。それより、奴ら単眼鬼《サイクロプス》を引き連れてるぞ!」


「単眼鬼!?」


 その場にいる全員が目を見開いた。


「全体の規模までは把握出来なかった、申し訳ない」


「帰って来ただけで上々だ」


「お前の罠に助けられた。アレがなかったら死んでた」


「簡単な仕掛けだったが、役に立ったようだな」


「村人には他の街へ避難するように言った。夕方までには完了するだろう」


「ありがとうございます。避難民は軍の方で保護します」


「それで、軍はどれだけ出せる?」


「50弱です。援軍の見込みも今の所ありません……」


 再びの沈黙。

 しかし、俺はある事を閃いた。


「軍とギルドの共同作戦にしたらどうだ?」


「なるほど、いいですね」


 目を閉じたまま、艶やかな笑みを浮かべた女性がうんうんと頷いている。


「あんた、誰だ?」


「ギルドの事務長をしています、ブリジットです」


 閉じた目のまま、優雅に頭を下げる。

 なんとも掴みどころのない女だ。


「ギルド関係者か!なら話が早い!」


 王国軍発の依頼で狗鬼《コボルド》及び単眼鬼の討伐依頼を出す。

 人数制限はなし。

 集まった冒険者と王国軍が共同戦線を張るというものだ。


「なるほど……。しかし、ギルドで人を募ってどれくらい集まるかだぞい?」


「現在、我がギルド支部に登録し、この街を拠点に活動している冒険者の数は200弱です」


「合わせても300にはならんか……」


「しかし、それならまだ戦える」


「ブリジットさん、すぐに依頼を貼り出すんだ!報酬は後で東方司令部に払ってもらおう!」


「参加費も出さないとすぐには集まらないでしょうね。必要になった経費は全て王国軍に払ってもらいましょう」


 その時、閉じていた片目がほんの少しだけ開き、サリィンの顔をちらりと見た。

 誰も気付いていなかった。

 サリィンの顔が引き攣る。


「サリィン!これは王国の存亡にも係わる一大事だぞ!軍が動けないならギルドが動く!それだけの事だ!」


「……、分かりました。領収書は全て私の名前にしてください。私が責任を持ちます!」


 見上げた根性だ。

 サリィンのその言葉を合図に、全てが動き出した。


「では、作戦の開始はいつにしますか?」


「グロー、あの罠はいつまで持つ?」


「長く見積もって5日。坑道から村に出ようとする数が多ければ3日かの……」


「では、3日後に設定します。グロー殿、ご一緒願えますか?」


「うむ。ガルはまず左手を医者に診せろ」


「言われなくても。それが終わったらすぐに向かう」


†


「示指《じし》の基節骨骨折、中指《ちゅうし》及び薬指《やくし》の基節骨にヒビ。こりゃ3ヶ月は掛かるかの」


 街の医者に左手を診てもらった。

 やはり折れているらしい。


「しかし、よくこんな所を折ったのぉ」


 眼鏡をかけた老耳長人《エルフ》だが、腕はいい。

 数十年前までは軍医として働いていたらしく、処置も的確で早い。

 名はゼペット。俺とは長い付き合いだ。

 折れた部分を前後から挟む様に金属をあてがい、包帯を巻いていく。


「攻撃を受け流したら折れた」


「どんな攻撃を受けたんじゃか……」


「単眼鬼だよ」


「単眼鬼!?はよ逃げればええものを……」


「逃げれる状態じゃなかった。受け流せたから逃げられたんだぞ」


「逆に、よくこれくらいで済んだの……」


 包帯が巻かれ、二回り程大きくなった左手を見ながら溜息を吐く。


「これじゃまともに戦えないな……」


「大馬鹿者が。治るまで安静にしておれ」


「それが出来れば苦労しない。俺も戦わないと、この街すら危ういんだ」


「ふむ……。痛み止を出しておく。右手は使っても良いが、激しい運動は避けよ。血流が増えると薬も効かんぞ」


「分かったよ……」


 俺は荷物をまとめた。


「ガル」


 ゼペットが俺を呼び止める。


「なんだ?」


「……、ワシも連れて行け」


「は!?」


「分かっておる。だから言っておるんじゃ。戦《いくさ》紛いの事が起きるんじゃろ?野戦病棟の設営だって慣れとる。怪我人すら出さずに終われるような作戦ではないじゃろ?」


「……、3日ある。医者と看護師を集めてくれ。それと、補給の事も頼めるか。食糧だけでなく、医薬品から予備の武具も必要になる」


「任せろ。誰も死なせんようにするぞ」


 俺はその足でフィロー商会へ向かった。

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