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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 2節 狗鬼討伐依頼編

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第20話 戦略的撤退

 グルグルと喉を鳴らす単眼鬼(サイクロプス)。

 足元に置いてある巨大な棍棒を拾い上げた。

 あんなものを喰らった日には、ただの肉塊になってしまう。


「クソ……、逃げるにも出口はあいつの背後か……」


 この先、坑道を進んでも外に出られる可能性は皆無。

 行き止まりに追い詰められて終了だ。

 逃げるには単眼鬼を躱す必要がある。

 人間(ヒューム)単独で倒せる相手ではない。

 単眼鬼は叫びながら棍棒で地面を何度も叩く。

 完全に興奮状態だ。

 言葉で相手に隙を生ませる事が出来ない分、バズグルよりもタチが悪い。

 勝機はゼロに等しい。


「等しくても、皆無じゃない……」


 呟きながら、近くに落ちていた壊れかけのピッケルを拾った。

 ヘッドとシャフトの接合部分が腐食している。

 足でヘッドを踏み、思いっ切りシャフトを引っこ抜く。

 ただの棒になった。


「行けるか分からんが……」


 単眼鬼の攻撃をこの棒でい(・)な(・)し(・)、活路を見出すしかない。

 先程の音で狗鬼(コボルド)の数も増えていっている。

 時間を掛ければ事態は悪化するだけだ。

 俺は地面を蹴り、単眼鬼へ向かって走る。

 単眼鬼が大きく横に振りかぶった。

 縦振りよりも横振りの方が有効範囲が広く避けづらくなる。

 頭は悪くない。


(頼む、折れないでくれ……!)


 俺は右手で棒の端を握り締め、左手は拳を握り締めた。

 その拳の上に棒を添わせる。

 棍棒が右から音を立てながら迫る。

 ほんの少しでいい。

 棍棒の軌道を逸らせれば、逃げれる可能性が出てくる筈。

 棒に棍棒が接触する。

 身体中にミシミシと軋む音が響く。

 棒の軋みなのか、俺の骨の軋みなのか分からない。


(頼む!)


 それは一瞬だった。

 棍棒が俺の頭上をかすめる。

 上手くいった。

 しかし、勢いを殺しきれていない。

 大きく身体が揺さぶられる。

 かち合った時の衝撃で、両手は電気が走った様にビリビリと痙攣し、全く力が入らない。

 しかし、これはチャンスだ。

 俺は握っていた棒を捨て、入り口に続く通路へ走った。

 軌道を逸らされ、勢いのまま振り抜く形になった単眼鬼はバランスを崩していた。

 代わりに狗鬼達が雄叫びを上げながら迫って来る。

 目の前に1匹が立ちふさがる。

 俺は力一杯地面を蹴る。

 跳躍しながら、狗鬼の鼻先に右膝を突き入れた。

 倒れる狗鬼を踏みつけながら体勢を立て直し、再び走る。

 狗鬼は四つ足で走る事が出来る。

 すぐに追いつかれる距離だ。

 俺は走りながら自分の所持品を思い返す。

 ア(・)レ(・)があった。

 上手く力が入らない右手を雑嚢に突っ込み、閃光爆弾をなんとか取り出す。

 導火線を角灯(ランタン)の火に近付ける。

 全力で走りながらではなかなかうまく火が点いてくれない。


「クソ!」


 やっと導火線に火が点いた。

 タイミングを合わせないと、狗鬼達の後方で爆発してしまう。

 手から閃光爆弾を落とす。

 地面に落ちた瞬間に炸裂した。

 ちょうど通路が右に曲がっている。

 俺はそのままのスピードで曲がる。

 後方から立て続けに鈍い音が聞こえた。

 視界を奪われた狗鬼達が曲がり切れずに壁にぶつかったのだろう。

 しかし、入り口はまだ遠い。

 閃光爆弾はあと1つ。


「俺にも魔法が使えたら……!」


 しかし大見得を切ったのは俺だ。

 どうにかするしかない。

 もうすぐあ(・)の(・)穴(・)の筈。

 その先はグローの予測では木こりの町に繋がっている。

 行く手に狗鬼がいない事を祈りながら走る。

 穴が見えた。

 それと一緒に1匹の狗鬼がいる。


「1匹なら斬り捨てる!」


 俺は左手で鞘を握ろうとした。


「ぐっ!?」


 左手に激痛が走る。

 単眼鬼の攻撃を受け流した際に、拳にしていた左手を負傷したらしい。

 骨にヒビ、最悪折れているかもしれない。


「クソ!」


 俺は悪態を吐きながら地面を蹴る。

 狗鬼の鼻先に膝を叩きこむ。

 立ち上がってもう一度走り出す。

 追手の狗鬼がすぐ後ろに迫る。

 閃光爆弾に火を点ける。

 カウントして、自分の目の前に落とす。

 左腕で目を覆い、閃光に備える。

 目が眩んだ狗鬼達が転倒して離れるのが分かる。

 しかし、1匹が俺の背中を引っ掻いた。


「ぐっ!」


 俺の影に隠れて閃光をやり過したのだろう。

 今度は飛び掛かってくる。

 倒れ込みながら狗鬼に向き直る。

 右手に投げ小剣(ナイフ)を1本取り出す。

 地面を転がる最中、狗鬼の頭に握り締めた投げ小剣を突き立てる。

 狗鬼の死体を蹴り飛ばし、すぐにまた走り出す。

 外の光が見えてきた。


 あと5メートル。

 しかし、未だに追手は付いて来ている。

 出口まであと2メートル。

 そこで妙な音がした。

 坑道の両脇に大量の石が積み上げてある。

 グローの仕業だ。

 俺が通過した瞬間、石達が追手の狗鬼へ襲い掛かった。


「石礫(ストーンブラスト)……」


 グローの姿はない。

 設置型らしい。俺が通過した後に発動するよう仕掛けてあったのだろう。


「助かったぜ、グロー……」


 坑道の外に出た俺は息も絶え絶えで、その場に倒れる。

 こんなに走ったのはいつ以来だろうか。


「ギルドに……、知らせないと……」


 フラフラと立ち上がった所で、馬の蹄の音がした。


「ガルさん!?大丈夫ですか!?」


 役所の女性が馬を引きながら走り寄って来る。


「なんだ、来てたのか……」


「グローさんが馬を連れて坑道まで迎えに行くようにって……」


 気が利く鉱矮人(ドワーフ)だ。

 今回はグローのお陰で命拾いした。


「その馬、借りていいか?」


「勿論!村の中でも脚の早い馬を選びました!」


「助かる……。それと、全坑道に近付くな。魔王軍の残党が巣食ってる。可能なら村の人たちを全員他の街へ避難させろ。デカい戦闘になる筈だ」


「え!?分かりました!すぐに手配します!」


「俺はこのまま街に戻る。アンタも出来るだけ早く村から離れろ」


 馬に跨り、腹を蹴って走り出す。


「気を付けて!村民の避難を確認してから、私も避難します!」


「出来るだけ急げ!」


 今頃、グローが王国軍にも連絡しているだろう。

 結局、規模までは分からなかった。

 ただ、単眼鬼がいる。

 木こりの町の大きさを考えれば1個大隊くらいは余裕で入る。

 これはかなりヤバい。

 とにかく俺は馬を走らせた。

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