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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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27話 無価値な優しさ、その果てに②

「さあ、本日は久しぶり──奴隷の競売で御座います!! お集まりの皆様、金貨の用意は十分でしょうか!?」


 大斧さんの言う通り、今日の闘技場はいつもと違った。

 鎖に繋がれた、亜人の子供たちが十五人。

 生気を失った彼らの表情と、手足の枷が痛々しい。

 

 ここだけで、こんな人数を揃えられるわけがない。

 多分、この国にはあるんだ。子供を産ませるためだけの場所が、いくつも。

 母体となる亜人の女性は薬か何かで、自由を奪われる。

 産むだけの存在。


 そんなの、酷すぎる。


「……しっかり見ときな。馬鹿な真似したら、アンタらの子供があそこに並ぶことになるんだからよ。支配人にも言われただろ?」


 多分その言葉は、大斧さんなりの気遣いなんだと思う。

 私とイライザは、ただ目の前の光景を見ていた。


(何も出来ない。……違う、同じだ。同じなんだ。私も、あの子たちと)


 仮面を付けたお金持ちの集団が、闘技場の中央に降りてきている。

 そこなら、近くで品定め出来るから。


 私は闘技場に背を向けて、鉄格子を背に膝を抱えた。


 怒りはある。なけなしの正義感だって、心の中で精一杯叫んでる。

 ……でも、同情したって、何も変わらない。

 だから、ごめんね。


「さて、次の商品はこちら! まずは金貨200枚から!」


「250!」


「300!」


 子供たちが、次々と売られていく。

 イライザは私に寄り添いながら、手を握った。

 真面目で正義感の強い彼女にとっては、耐えがたい光景なんだろう。


(……駄目だ、しっかりしないと。イライザを守って、今日も生き残るんだ)

 

 この後、戦わなくちゃいけないから。

 今は、あなたたちのこと──見ないふり、させてね。




「さあさあ、本日もやっていきます! まずはこちら、リョウヘイとその仲間たちに加え、なんと……アルマとイライザ! 計六人が組んで戦いますっ!!」


 武器と防具を身につけ、対戦相手の登場を待つ。

 気分は最悪。

 それでも、現実は止まってくれない。

  

「はあ!? またつまんねえ試合かよ……」


「強えやつ同士で組んで、どうすんだよー!!」


 それは私も思った。

 かなり強い相手じゃないと、一方的な展開になるよね?

 何か……仕掛けがあるのかな。


「皆様、ご安心ください! 彼らの対戦相手は、まさに人ならざるものっ! それでは、ご紹介します──さあこいつらに、勝てるのかあああああっ!?」


 いつもの扉じゃなく、闘技場内の地面。

 そのある一角が、重い音を立てながらゆっくりと口を開けていく。

 しばらくすると、何かが爪音を立てながら近づいてくる気配がした。


「……マジ?」


「……ははっ、とんでもねえもん連れてきやがった」


 現れたのは、三頭の虎だった。

 リョウヘイくんとノブユキくんも、完全に想定外だったらしい。

 この場にいる全員がそう思ってる。


 そんな私たちの気持ちを無視するように、歓声が上がる。

 虎たちは唸り声を上げながら、周りをうろうろし始めた。


「ちょおっ……!! やべーじゃんやべーじゃん! どうすんだよ、あんなの!!」


「ひいいっ!! も、もう駄目だあぁぁ……!」


「……本当に、最悪な場所ね。お姉さんが躾けてあげないと」


 パニックになりそうなレンジくんとケイタくんを見て、なんとか冷静になれた。

 イライザも、戦意は十分にあるみたい。

 でも例え、冷静になれたとしても──問題は、勝てるかどうか。


「さあ、久しぶりの登場っ!! リヒトブリックより北方に暮らす騎馬民族より購入し、愛情たっぷりに育てた三頭!! エルモくん、セルジュくん、ジータちゃんです!! 無事に餌代を稼ぐことが出来るのか──それでは、はじめっ!!」


 ジュスティーノの掛け声の後、三頭は示し合わせたように短く吠えた。

 偶然だろうけど、見世物としては満点の態度。


(……そんじゃ一丁、やってみますか)


 私は槍を構えて、虎の前で穂先を振った。

 三頭の中で、最初に飛びかかってきそうなやつ。

 どの虎が、どの名前かなんて知らない。


 確実に言えるのは、どの虎も私たちを殺すことの出来る牙と爪がある。

 順番なんて考えてたら駄目。

 出来るだけ素早く、一頭ずつ殺す。


「うおっ……とお! おいレンジ、とりあえず一頭はお前に任せた!!」


「はあ!? 馬鹿か!? こんなのどうしろっつうんだよ!?」


 前足の鋭い一振りを交わしながら、リョウヘイくんは仲間に呼び掛ける。

 それに対し、レンジくんは目の前の虎と対峙しながら怒鳴り返す。


「場所変われ、レンジ。……レスリング部の寝技、猛獣相手にも通用するか見せてくれよ」


「……寝技ぁ? ……いや、確かに背中から組み付いちまえば……いけんのか?」


 ノブユキくんの提案に何か閃いたらしく、レンジくんは後退した。

 メイスと盾を投げ捨てて、手首と足首を片方ずつ回し始めた。

 えーっと……素手で戦うってこと?


「うまくいったら、女の子三人呼んで六人でヤろうぜ! そんとき、お前の武勇伝を俺たちが思いっきり語ってやっから!」


「そうそう。虎を素手で殺す男、レンジ──惚れない女はいないぞ?」


「……うおおおおおおおおっ!! なんかやる気出て来たぜええええええっ!! っつうわけでアルマさん、ちょっとノブユキの横に並んで! こう、虎を包囲する感じにしたいから!」


「わっ、分かった!」


 やる気を漲らせたレンジくんの指示に従って、前に出る。

 その横から、じりじりと虎の側面に回った彼は──


「しゃあっ!!」


 低空姿勢で走り、虎の背中に飛び乗った。

 ……凄い。

 大柄な体型なのに、あんなに素早く動けるなんて。


「はーい、どうどう! 一緒におねんねしましょうねえ……そらよっ!」


 胴体を両足で締められているせいで、虎はレンジくんを振り落とせない。

 横に倒れた瞬間、彼の腕が虎の首に巻きついた。


 そのまま締め上げる。

 じたばたともがいてるけど、レンジくんも大柄だ。

 このまま押し切れるかもしれない。


「他の二頭をやるぞ! イライザさん、盾になってくれ! 俺が隙をついて仕留める!!」


「ええ、任せて!」


 リョウヘイくんの指示で、イライザも前に出る。

 じゃあ、残り一頭は私たちで。


「ケイタ、お前は状況を見ながら弓で援護だ! ……アルマさん、やろう」


「うん!」


「おっ……俺も、役に立つんだ……!!」


 そして、状況はすぐに変わった。

 虎の一撃を盾で受けたイライザ。


「おらあああっ!!」


 隙を突いた両手剣の一撃が突き刺さる。


「ぎゃううううっ!! ……ぐう……るる……る……」


 胴体を切られた虎はお腹の中身をぶちまけて、よたよたと下がっていった。

 手負いどころか瀕死。

 これで、自由に動けるのは一頭。


「俺も一頭殺したいが……ここはまあ、協力プレイってことで」


 ノブユキくんは槍を捨てて、盾を持って突っ込んでいった。

 ……なるほど、そういう感じね。


 盾と爪が何度もぶつかり合って、虎の怒りが増していく。

 上体を起こした虎は、ノブユキくんにのしかかった。


「ぐうぅっ……後は任せた!!」


「危ないっ、ノブユキ!!」


 ケイタくんの放った矢が、虎の脇腹に突き刺さる。

 それでも──止まらない。

 ノブユキくんの喉元に狙いを定めて、虎は大口を開いた。


 私はその口の中へ、槍を突き立てる。

 くぐもった呻き声を出しながら倒れ込んだ虎は、そのまま動かなくなった。


「試合っ……終了ーーーーーーっ!! なんということでしょうっ! 今まで無敗を誇っていた虎ちゃん三頭が、人間に敗れてしまいましたーーーーーーっ!!」


 歓声が聞こえる。

 今だけは、それが心地よかった。


 レンジくんの方に目を向ける。倒れた虎の上に腰掛けて、肩で息をしていた。

 あのまま、本当に絞め殺しちゃったんだ。

 リョウヘイくんがお腹を切り裂いた虎も、離れた場所で息絶えているのが見えた。


 ほっと息を吐いていると、警備兵がやって来て、私たちから武器を取り上げた。

 イライザと目を合わせる。

 ……いつもと違う──まだ、何かある?

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