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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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27話 無価値な優しさ、その果てに③

「そう警戒しないでくれ、君たち! ただ壁になってもらうだけだからさ」


 ジュスティーノの言葉を聞いても、安心は出来なかった。

 やがて、一人の剣奴が警備兵に連れられてやって来た。


 といっても、ごく普通の男の人。

 やつれてるけど、力仕事をしていたのか体全体に筋肉が付いている。

 くたびれた剣を引きずるように、のろのろと歩いている。


 優しげな顔で、こんな場所にいるのは似合わない……そんな人。


「本日最後の試合ですが……予定を変更させていただきます! まず、こちらの男性は──妻となった女性の処女をとある貴族に奪われ、その貴族に手を上げました! その結果、妻は死亡! 夫である彼は、こんな場所に連れてこられてしまう……なんという悲劇っ!! ねえ皆さん、可哀想ですよねえ!!」


 闘技場は、笑い声に包まれた。

 悪意で溢れかえっていて、気持ち悪い。

 

「ぎゃははっ! 結局、誰も得してねえじゃねえか!」


「いやいや、貴族に結婚を報告した村長とかは!?」


「確かに村長、金はもらってそうだな!」 


 嘲笑や憶測が収まってきたところで、ジュスティーノは対戦相手の紹介を続ける。

 彼からこれ以上、何を奪うつもりなのか。


 ──もう、命しかないのに。


「ところが、本日はなんとっ……彼の全てを奪った貴族が、ここに来ております!! 全てを失った男にとって、これが最後の復讐の機会!! さあ、ご登場を!!」


 剣奴と同じ扉から入場した貴族は、仮面を付けていなかった。

 痩せていて、例えるならずる賢い狐みたいな男。

 服装は貴族服のままで、きらきらした剣を持っている。


 そいつを見て、被害者である男性の目つきは変わった。

 ただの絶望から、胸に燻り続けていた怒りに火を灯すような──そんな顔。 


「やあ、久しぶり。……ええと、名前はなんだったかな?」


「……フランク」


「ああ、そうそう。それで……妻の名前は?」


「リネットだ!! お前が犯して、殺したんだろう!!」


 ありきたりな挑発。

 でも当事者からしてみれば、絶対に許せないから乗ってしまう。

 怒らせて、冷静さを奪うつもりなんだ。

 自分が勝つ可能性を、少しでも上げるために。


「まあ、そう怒るな。──約束しよう。君が私に勝てば、ここから出られる。罪に問われることは無いし、好きに生きたまえ。……もっとも、ここの存在を話すのだけはお勧めしないが」


 フランクさんは、疑うような眼差しをジュスティーノに向けた。

 それに対し、ジュスティーノは高らかに宣言する。


「何の気兼ねも無く戦ってくれて結構! 支配人も了承しているし、問題は無いぞ。もし、勝てたなら──残りの人生を妻の弔いに捧げるも良し、新たな伴侶を見付けて生きるも良しだ!」


 多分、本当なんだろう。

 悪い貴族の、ただのきまぐれ。


 二人を広く囲むように、私たち六人は円になった。

 この中で、お互いの命を賭けて戦う。

 フランクさんに勝って欲しい。


「さあっ、本日最後の戦い!! 勝つのは貴族か、はたまた全てを失った男か!? それでは──試合、開始っ!!」


 盛り上がる観客。

 興奮の度合いは最高潮だ。


 私は両手を握りしめながら、勝負を見守る。

 手伝ってあげたい。でも、それは無理。

 だからせめて、心の中で祈ろう。


 この世の中に、正義はあるんだって。

 ……そう、信じたいから。


「ほら、どうした!? 妻の仇が目の前にいるぞ!」


「……っ!!」


 腕力では、フランクさんが上。

 でも、それ以外の面では貴族が圧倒していた。

 手足を切り刻まれながら、フランクさんは懸命に戦う。


(──イライザ!? 駄目っ、それは……!!)


 胸元を掻くふりをしながら、私の親友は人差し指と中指で小石を取り出した。

 手を下ろした彼女は、拳を握りながら機会を待つ。


 止めないと。

 ……でも、どうやって?


 全身を嫌な汗が伝う。

 普通を装え。もうそれしかない。


「そろそろ……終わりにしようか!」


「まだ……俺はっ……!」


 フランクさんは押され始め、体勢が崩れかける。

 そして、そこに──


「うぐっ! なっ、なんだ!?」


 イライザが親指で弾いた小石は、貴族の顔に当たった。

 ……当たってしまった。


 目の近くに当たったのか、貴族は剣を振り回しながら後ずさる。

 フランクさんが体勢を立て直すには、十分な時間だった。


「死ねえええええええっ!!」


「なっ……に……?」


 全身を赤く染めながら、腰だめに剣を突き出すフランクさん。

 突き刺さした場所は胸。


 口から血をこぼしながら、貴族は膝を付く。

 剣を引き抜いたフランクさんは、そのまま両手で振りかぶる。


「ぽぎゅっ」


 頭を割られた貴族は、奇声を上げて倒れた。

 闘技場は一瞬、静まりかえって──


「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」


 熱狂。

 檻が鳴り、割れんばかりの拍手。

 これが、観客の見たかった光景だった。


 でも、この結果は……。


「ちょーーーーーーっと待ったあーーーーーー!!!!」


 ジュスティーノの良く通る叫び声で、歓声は止んだ。

 リョウヘイくんたちは、何がなんだか分からないという顔をしている。

 イライザは目を閉じて、その時を待っているようだった。


 ……うん。

 あなたのそういうとこ、やっぱ好きだよ。

 尊敬してる。


 警備兵の一人がジュスティーノのもとへ歩み寄ると、ジュスティーノは何かを囁いた。

 お金持ち側の観客席に続く扉に消えた警備兵は、しばらくすると護衛を連れた誰かと共に戻ってきた。


 仮面を付けてても分かる。

 あれはアマンシオだ。


 ざわつく観客に囲まれながら、支配人である彼は事情の説明を始めた。


「皆様、先ほどの試合ですが……どうやら、不正があったようです! そこのイライザという女が、石で貴族を妨害した──そうだな、ジュスティーノ?」


「はいっ、支配人! 彼女が指で石を弾いて、試合結果を操るのを見ました!」


 闘技場全員の視線がイライザに集まる。

 目を開けた彼女は、アマンシオに真っ直ぐな視線を向けた。

 それで十分とばかりに、アマンシオは両手を広げながら肩をすくめる。


「……剣をよこせ」


 アマンシオは警備兵から剣を受け取り、イライザに向かっていく。

 ──私も、すぐ行くからね。


「うーん……やっぱり、こっちかな?」


「……えっ?」


 困惑するイライザを置き去りにして、フランクさんの前に立つアマンシオ。

 そしてそのまま、フランクさんの喉を切り裂いた。


「……お前えええええええっ!!」


「おいっ! 取り押さえろ!!」


 激昂したイライザは、警備兵に足を払われて拘束された。

 それを眺めてから、アマンシオは裁定を下す。


「ただ今の試合は無効!! そしてこれより一週間後、アルマとイライザによる一騎打ちを行います! 本日のところは、それでご容赦を!!」


 再び沸き起こる歓声。

 立ち尽くす私の肩を叩いて、アマンシオは去って行った。


 リョウヘイくんたちが何か話しかけてきたけど、耳に入らなかった。


(……試合になったら、お互いに胸を刺して終わろう。こいつらの娯楽になんか、なってたまるもんか)


 出来るのは、それくらいかな。

 姫様、ごめんなさい。


 でも私、イライザのことは責められないです。

 だから──大好きな親友と、一緒に死なせてください。 

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