28話 奈落を眺める者①
──ごとごと、ごとごと。
すっかり夜中だっていうのに、目的地を目指して荷馬車は走る。
アタシは絶賛、無賃乗車の真っ最中。
ソウちゃんたちと別れた後。
まず、王都の西門を乗り越えて、西へ向かった。
パルティーヤ共和国との国境近くにある村までね。
《土竜》さんと《梟》さんに教えられた、協力者がいる場所。
情報収集のために立ち寄ったんだけど、二日滞在した。
その間、夜中に周囲の地形を調べたりして。
定期的に荷馬車が出ているらしく、それに紛れた方が安全そうだったから。
村から出発する、たっぷり荷物を積んだ荷馬車。
その行き先が、アタシの目的地の一つって感じ。
ローザ・カルミナ館がある大きな森の近くにある、貴族のお屋敷。
確か、ええっとぉ……。
腰の鞄から取り出した、小さな袋。
中には布でくるんだ木炭。それと、一枚の羊皮紙を切って分けたやつ。
メモしといて良かったー。
──アルバーニ。
──フィネスキ。
──グアルディ。
羊皮紙を月明かりで照らしながら、しっかり確認。
うん、ちゃんと書けてる。
この辺りはアタシにいらない情報だけど、ソウちゃんとかは必要だろうからね。
お屋敷で軽く情報収集してから、ローザ・カルミナ館のある森に忍び込もうかな。
見張りがうろついてるらしいから、頑張らないと。
荷馬車の後ろから、定期的に顔を出して現在地を確認。
村を出発してから、今度は南へ。体感40分くらい?
三軒の大きな屋敷が見えてきた。
めっちゃ違和感!
こんな寂れた場所に、密集して建てるのは変だよね。
(……そんじゃ、やっちゃいますか)
馬車から飛び降りて、地面に伏せた。
音なんか立てない。
闇に紛れて参上。
今夜はちょっと月が明るくて、潜入には不向き。
でも、泣き言はノンノン。
愛しのソウちゃんにお願いされちゃったし、成功させないと。
そーっと地面を這いずりながら、屋敷を囲む壁になんとか近づけた。
狙いを付けたのは、荷馬車が入っていった屋敷。
荷物を下ろす作業があるだろうから、その時に何か聞けるかも。
とりあえず《感応》を使って、周囲の人数を探る。
……すっごい多いじゃん。
多分、お客さんとかが泊まってるのかな?
「よし、さっさと荷物を下ろしちまおう。……なんだよ、今日はあんた一人か?」
「へ、へい。いつもは息子を連れてくるんですが、今日はちょっと遠出してまして……」
「はあ? そんなの、誰か他の村の奴に手伝わせればいいじゃないか」
「……みんな、気味悪がってるんですよ。こんな場所に、食料やら何やら大量に運んで。どこに消えてるんだって」
「ま、それは知らない方がいいな。ちょっと他の使用人を呼んでくるから、先に運んどいてくれ」
「わかりやした」
荷馬車のおじさんが作業を始めた。
じゃあ、次は中に潜入。
壁伝いに屋敷の裏側に回って、気配を確認。
壁をよじ登って、近くの窓に。
(はい、開いてません! でもこんなの、アタシには楽勝なんだよねー)
腰の鞄から取り出した、ピッキング用の小道具。
窓と窓の隙間に差し入れて、こうすると~?
──かちり。
そーっと窓を開けて、無事に潜入成功。
また《感応》を使って、空き部屋を探してそこに滑り込んだ。
息を整えてから、部屋を出て二階へ続く階段をかけ上った。
貴族の屋敷には何度も忍び込んだから、なんとなく間取りの想像は出来る。
次に入った部屋は、思った通り書斎だった。
真っ暗だから、明かりが欲しい。
カーテンを少し開けて、お月様の光で中を調べる。
とりあえず、机の引き出しかな。
上から順番に開けていくと、一番下に鍵がかかってた。
小道具を使って手早く開けて、中を調べた。
書類だらけで頭が痛くなりそうだった。
領地の収支とか、使用人の名簿とか、どうでもいい書類ばっかり。
一度、書類を全部引っ張り出してもう一度確認。
空振りかなあ。
(いやいや、待てよー? 確か、こういう場所って……)
引き出しの側面と底の間の隙間。
目をこらしてみると、ある部分が削れていた。
ほら、やっぱりね。
その部分に短剣を差し込んで、くいっと。
底が持ち上がって、一通の手紙が隠されていた。
開封済みだし、早速読んでみる。
……これは、例の裏闘技場に関係する手紙っぽい!
どれどれ、内容は──
(いやいや、ヤバいって! ……でもこれが、この世界ってことなんだろうなあ)
手紙の差出人は、アマンシオ・ヴァルゲス。
宛先は、ビアージョ・フィネスキ。この屋敷の主人。
肝心の内容だけど、このアマンシオってやつがね?
──父親を殺して、当主の座を奪った。
裏闘技場の運営権を奪いたいから、お前も協力しろ。
上手くいったら、今まで以上に稼がせてやる──
そういうこと、らしい。
こんな手紙、どうして残してるんだろう。
見つかったら、自分だって不利になるのに。
(……あー、だからか。いざとなったら、このアマンシオって人に脅されたんだって言うため?)
アタシは少し迷ってから、その手紙を鞄に突っ込んだ。
そして、引き出しにまた鍵をかけた。
これでまあ、なんとか。
ワンチャン、自分で隠した場所忘れたって勘違いしてくれる……かもしれない。
他の屋敷も探りたいけど、今回は時間が勝負。
つーわけで、お次は本命のローザ・カルミナ館。
裏闘技場、だね。
そーっと書斎から出てから、素早く一階に下りた。
潜入に使った窓から屋敷の外に出て、鍵をかけておく。
壁を乗り越えて、またまた《感応》を使った。
──周囲に人影無し。
じゃあ、一気に森の近くまで走ろう。
ま、元陸上部なんで。
万年補欠だったけど、フォームは綺麗って言われてたよ。
軽く体をほぐしてから走り始めて、少しずつスピードを上げていく。
風の影響を受けたくなかったから、外套は無し。
夜中に高速で走る人影は、ちょっとしたホラーかも。
アタシの神能は《暗殺者》。隠密能力と身体能力が上がる。
《身のこなし》、《短剣使い》、《感応》の人能も合わせれば、こういう仕事にはぴったりだ。
(……でも、ちょっと後悔してるんだよねー。アタシも《農耕》の人能、欲しかったなあ。虫歯になりにくいとか、お菓子いっぱい食べられるじゃん)
ソウちゃんとかマモルくんとか、他のクラスメイトは《農耕》持ち。
ふんだ、いいもん。
このお仕事成功したら、褒めてもらえるし。
──おっと、いけないいけない。
今は余計なこと考えずに、目の前の仕事に集中しないとだね!
次の目的地を目指して、アタシはちょっぱやで草むらを走った。
アルマさんと、イライザさんだっけ。
実は昔、一度だけ見たことあったりして。
エリノア王女のことが知りたくて、王宮に忍び込んでさ。
お姫様も、侍女の人たちも可愛いし綺麗だったなあ。
……生きてるといいね、うん。




