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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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28話 奈落を眺める者②

 潜入した屋敷を出てから、南に10分くらい走った。

 大きな森。真ん中くらいの位置に生えてる木が、周りより背が高くなってる。

 手入れをさぼってるのか、森周辺は草が伸び放題。


 おおっ、いいね。

 これなら伏せながら進んで、森の中に入れるじゃん。

 森へある程度まで近づいてから、アタシは芋虫みたいにゆっくり地面を這った。


(そんで? 見回りの数はどのくらいかなっと)


 手前で止まってからの《感応》。

 ……んー、なるほど。

 まだ入り口だけど、とりあえず二人引っかかったね。


 立ち上がって、木に張り付く。

 森の中を観察すると、それはすぐ見つかった。


 人がたくさん歩いて出来た道。

 石とか枝が綺麗に取り払われていて、歩きやすそう。

 お金持ちのお客さんが通ったりするから──だと思う。

 女の人とかはどうしてるんだろ。ヒール履いてる人もいるよね。

 

(……そこは今、どうでもいっか。さ、お仕事しましょうねー)


 気を取り直して、潜入第二弾。

 道なりにゆっくり進みながら、周囲を警戒。

 時たま木に隠れながら、茂みに隠れながら。


 森の中は真っ暗で、じめじめしてる。

 でもなんか安心。

 本当はこういう暗い場所の方が落ち着くんだよね。


「おう、お疲れ」


「お疲れさん。ここには慣れたか? お前確か、暗いの苦手だったよな。ははっ、漏らすんじゃねえぞ」


「うるせえ。そっちこそ、野良犬のクソでも踏んじまわないようにな」


 すれ違う見張りの人たちが、軽く世間話したり。

 でも多分、ソウちゃんたちがここに潜入する時。

 ──この人たちのこと、殺さなくちゃいけないよね。


 それについては、もう割り切ってる。

 それでも、その日はこの人たちが非番だったらいいねとか。

 ちょっとだけ、思うようになった。


 良い変化なのかは分からない。

 この世界に来たばかりの時と比べたら、今は幸せ。

 だからその幸せを、手放したくない。


 歩き回る見張りをするするかわしながら、森の真ん中に辿り着いた。

 開けた場所にある、小洒落た建物。

 これがローザ・カルミナ館かな。

 月明かりを跳ね返すみたいな、ぎらぎらした赤色の屋根。


 なんか、大きな生き物の心臓に見えるかも。

 

 そのすぐ近くに、また別の建物。

 あっちは多分、使用人とかが寝泊まりする場所?

 でもそれにしては、ちょっと大きいような。


 ぱっと見、どっちも潜入は厳しそう。

 あちこちに見張りがいるし。


(……ん? なんだろ、あの場所)


 ローザ・カルミナ館の後ろ。

 丘になっていて、その上には四角い壁があった。

 それを隠すように生えた、たくさんの木。

 怪しい。めっちゃ怪しい。


 裏側からなら、行けるかな?

 よし。あっちを調べよう。

 時計回りに迂回して、見張りをやり過ごしながら丘を登っていく。


 その途中、ついでに《感応》も使いながら、周囲の見張りの数も確認しておいた。

 帰りは反対方向から回って、あっち側も調べよう。


 あの怪しい壁に近づくと、見張りが二人いた。

 大きくて頑丈そうな門の前に立っている。

 壁の高さは、3メートルくらいかな。


(うん、これなら中に入れそう)


 とりあえず、門はスルーで。

 森を利用して、壁の側面に移動した。

 助走を付けたいけど、足音に気を付けないと。


 正面にいる見張りからなるべく離れた場所で、森の中から壁に向かって走る。

 そのまま──ジャンプ!!

 成功。壁上に手をかけて、こっそり中を確認。

 人はいない……けど、なんだあれ。


 音を立てずに中に着地して、問題の場所に近づいた。

 大きな金網、だよね。その下は──


「……わーお」


 思わず声が出ちゃった。

 金網の下には空間が広がっていて、赤黒い地面が照らされていた。

 これかあ! ここが闘技場なんだ!


(ふんふん……なるほど……)

 

 金網に顔を近づけて、中を観察してみる。

 うわ、観覧席っぽいのもあるし。本格的だなあ。


「なあ……椅子、欲しくねえか?」


「あー? まあ……あったら助かるよな」


 後ろを振り向いて、姿勢を低くした。

 いつでも逃げ出せるように。


 ……良かった、バレてない。

 見張りの二人が、世間話を始めたみたい。

 じゃあちょっと、盗み聞きさせてもらおうかな。


 門に近づいて、聞き耳を立てる。

 お酒とかギャンブルとか、女の人とか。

 すーっごいどうでもいい話ばかり。

 なんか、なんか無いの? お二人さん。


「そういえばお前、聞いたか? ここの支配人に逆らった剣奴の話」


「ああ、知ってるぜ。女二人組だろ? ……確か、アルマとイライザだっけか」


 嫌な汗が流れる。

 ──間に合わなかった?


「貴族と平民の一騎打ちを邪魔して、平民に勝たせたんだとよ。根性あるっつうか、なんつうか……」


「でもそのせいで、支配人は怒っちまった。五日後に、女二人で一騎打ちだってよ」


「うへえ……。建前としては、神聖な決闘を踏みにじった罰ってとこか?」


「だろうなあ。ま、客も呼べるしな」


 五日後かあ。ちょっと、時間的にキツいかも。

 でも、必要な情報は最低限集まった。

 急いで帰ろう。


 あとは一応、ローザ・カルミナ館の後ろ側の造りを見ておこうかな。

 ここからだと、丁度見下ろせる位置にあるし。

 門の反対側から壁を乗り越えて、森の中から様子を伺う。


 ──あの部屋、カーテン開いてる。明かりも付いてるし。

 アタシは中にいる人物に目をこらして、腰が抜けそうになった。


(ちょっとお!? アンタたち、なんでここにいんの!?)


 赤井涼平。

 久慈蓮司。

 田上伸幸。

 矢代啓太。


 クラスメイトの四人が、テーブルを囲んでお酒を飲んでる。

 軽いおつまみも食べながら。


 ……ええー? どういうこと? アイツら敵なの?


 意味分かんない。

 頭をかきむしりたくなったけど、今はかつらだった。

 《感応》を使って、四人の強さを調べてみた。


(いやっ、普通に強いし! でもケイタくんは……まあ、弱くはないのか)


 他の三人に付き合わされて、そのままずるずるって感じかも。

 最悪の場合、アタシたちと戦う? それとも、ただのお客さん?


 ここにきて、一気に話がややこしくなった。

 とりあえず、ソウちゃんの所に帰って報告しないと。

 アイツらのことは、ソウちゃんの判断に従えばいいよね。


 疲れが一気に溜まったような感覚。

 それを振り払いながら、アタシは森を後にした。




「お疲れ様っす! 流石っすね、ジェナさん!」


「ええ。凄いわ、本当に。……ただまあ、フィネスキ子爵の手紙を持ってきたことについては──正直、評価が分かれるかもしれないけど」


 無事に帰って、みんなにもちゃんと報告出来た。

 へへっ、頑張ったもんね。


「そう言ってやるなよ、《梟》。事後処理の為に──フィネスキって奴は生かす。それなら、この手紙も役に立つだろ?」


 《梟》さんは何か言いたげだったけど、諦めたみたい。

 ありがとね、ソウちゃん。

 ここじゃ、クリフさんだけど。


「……まあ、そうね。クリフさんはこれからどう動くべきか、考えはあるかしら?」


「一応はな。その前に確認したい。王女の影、どのくらい動員出来る?」


「もちろん、全員よ。数日前にリヒトブリックに連絡役を送ってるから、こっちに向かってると思うわ」


 それから、ロメオさんも混ざって作戦会議が始まった。

 難しいことは分かんないけど、アタシはやれることをやればいっか。


 ……あっ。


 いざとなった時、あの四人とは戦わないってさ。

 それ、向こうはどうなんだろうね?

 だって高校時代、ケイタくん以外の三人──ソウちゃんのこと嫌いっぽかったし。

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