27話 無価値な優しさ、その果てに①
「いやあ、二人とも強かった! 久しぶりに楽しかったぜ、ありがとう!」
「だな、そこらの男よりよっぽど強え。……まあ、ワケありなんだろうけど」
機嫌が良さそうなリョウヘイくんとノブユキくん。
鍛錬を終えた私たちは、六人で雑談することにした。
火照った体を日陰で冷ましながら、皮袋に入った水を回し飲み。
この辺りは融通が利くみたいで、警備兵にお願いすると持ってきてくれた。
ろくに動けない奴らの戦いを見たって、面白くないだろうしね。
「ええっと、みんなの名前を聞いて思ったんだけど……多分、神柱石で召喚されたんだよね? どうしてこんなとこにいるの?」
「あー、やっぱそこ気になっちゃいますよね? ……えーっと、なんでだっけ?」
「いやいやレンジ、それありえねえから!」
首を傾げるレンジくんに対して、リョウヘイくんが突っ込む。
何か、悪いことをした──ってわけでもなさそうだけど。
「ケイタ、教えてやれ。俺たちがどうしてここにいるかってさ」
「……俺はただ、みんなに誘われただけで……」
ノブユキくんに背中を叩かれたケイタくんと、一瞬だけ目が合った。
そっぽを向いたケイタくんは、そのまま黙ってしまった。
「んじゃ、俺から言うわ。……まあ単純に強くなりたかったのと、調子乗ってる知り合いをいつかシメに行ってやろうと思って」
「そうそう。あいつ、すっかりでかい顔するようになったみたいだからな」
「ああ、そうだっけか! ソウマかあ……今ごろ、何やってんだろ」
……やっぱ、知り合いかあ。
でも、友達って感じじゃない。
ソウマくん、この子たちとあんま仲良くなかったみたい。
「……俺たち、ここから出してもらえるのかな?」
「あん? なんだよケイタ、いきなりそんなこと言い出して。最初に偉いヤツと約束したし、大丈夫だって!」
俯きながら独り言みたいに呟いた、ケイタくんの言葉。
それを軽く笑い飛ばすリョウヘイくんの顔は、お気楽そのものだった。
でも、本当にそう思ってるのか、自分に言い聞かせてるだけなのかは分からない。
(そこはまあ、抱えてるものの大きさが違うから仕方無いのかな)
ソウマくんも、最初はただのひねくれた子供に見えた。
でも、少し話してみれば違った。
世の中を知らないまま、神柱石に召喚されてしまった。
目の前のこの子たちも、それは同じ。
この世界での始まりは一緒だ。
(それでも今のソウマくんは、家族も、仲間も、国も抱えて生きてる。そういうのが、何となく気に入らないのかな?)
……別に仲直りしろとは言わない。
でもせめて、認めてあげてほしい。
なーんて、余計なお世話か。
「んじゃ俺たち、お先に失礼させてもらいますんで!」
「だな。水浴びでもするか」
「お互い、頑張りましょうねー」
立ち上がった三人に遅れて、ケイタくんも立ち上がろうとした。
そんな彼に対して、私は声を掛けた。
「ねえねえ、ケイタくん! お姉さんたちと、もう少しお話しない?」
「……えっ?」
なんで俺なんかにって顔で、動きを止めるケイタくん。
残ってくれると、助かるんだけどなあ。
「あら、いいわね。ここじゃ薄汚い男どもばかりだし、私も若い子とお話したいわ」
イライザが仕事用の完璧な笑顔で、手助けしてくれた。
うん、やっぱ頼りになる。
「うはっ! いいじゃん、ケイタ! 頑張って口説いてみな!」
リョウヘイくんたちはケイタくんをからかいながら、闘技場を出て行った。
よし、これで──
「……なあ、おじさんも混ぜてくんねえか?」
大斧さん登場。
うん、邪魔。
だけど、いつもお世話になってるからなあ。
「別にいいけど、他の人に喋ったりとかは無しで」
「おう、分かってるって! よしケイタ、俺の隣に座んな!」
「ええ……」
困惑しながらも、ケイタくんは大斧さんの隣に座ってくれた。
他の人に聞かれたくないように、お互いに距離を近づける。
「……私たちさ、ソウマくんの知り合いなんだよね」
「……それ、本当ですか?」
目を見開いて、身を乗り出すケイタくん。
あの三人とは違うんじゃないかって思ったけど、やっぱり。
嬉しそうな顔してるし、仲良かったのかな?
「ええ、本当よ。私たちはエリノア王女殿下に仕えていて、少しの間だけソウマさんと生活していたの。マモルさんもね」
「へえ、マモルも一緒だったんですね」
「ただもんじゃねえと思ってたが、そういう事情とはねえ。……いや、だとしてもだ。あんたら、なんでこんなとこにいる?」
「それはまあ……騙されたんだって。ちょっとした用でこの国に来たら、悪い貴族に薬を飲まされてさ。目が覚めたら、ここにいたって感じ」
大斧さんとケイタくんは顔を見合わせた後、気の毒そうな視線を私たちに向けた。
──よし。これで目的は達成。
しばらく話しているうちに、いくつか分かったことがある。
闘技場で実況をしてるジュスティーノは、元は剣奴側の人間だったらしい。
借金のカタでここに連れてこられた貴族で、ろくに戦えもしなかったけど、ああやって場を盛り上げる役に回って今の地位に収まったとか。
リョウヘイくんたちはかなり自由で、娼館から来た女の人もあてがわれているらしい。
でも、そういう場所にケイタくんだけは行ってない。
あの四人が他の剣奴たちみたいに染まりきってないのは、その辺りも影響してそう。
……うーん、大した情報じゃないかも。
ケイタくんを見送って、今後の事を考える。
(あの四人とは、戦いたくないなあ。っていうか、勝てない)
手を抜かれているのは、明らかだった。
神能と人能で強化された身体能力。
大斧さんでも、まともにやり合えば厳しいかもしれない。
「しっかしまあ、あんたもえぐいことするねえ」
「……こっちだって、必死だから。悪い?」
「いーや、別に? ……ま、狙うならケイタだよな」
「……? アルマ、どういう事?」
意図してやった私と、そうじゃなかったイライザ。
それでいい。こういうやり方は、イライザには向いてない。
だったら、私がやる。
(同情を買って、戦う時に少しでも腕が鈍れば御の字。四人よりは三人の方がいい)
頭の中で、ケイタくんを殺す方法を考える。
──最低だな、私って。
「俺は正直、あんたみたいな奴は嫌いじゃないぜ。普通はここに来ちまったら、とっとと諦めちまうのが殆どだからな」
「はいはい。慰めにもなってないし」
「……それじゃ、慰めにもう一つ情報をやろう。今日はあんたら、あの四人と組んで戦うってよ。近くでしっかり動きを見とけ。普段は三戦だが、今日は二戦。奴隷の売り買いが目玉だな」
それはいい情報かもしれない。
事前に知らされるより、前もってどの動きに注目するか考えておける。
「……ありがと、大斧さん」
イライザと一緒に、頭を下げた。
にやりと笑った大斧さんは立ち上がって、闘技場から出て行った。
あの四人が味方なら、今日も生き残れる可能性は高い。
さっきまで殺し方を考えていたのに、今はとても頼もしく思えた。
……はあ。
やっぱ性格悪いなあ、私。




