26話 ローザ・カルミナ館、その地下で②
私たちは闘技場へと続く扉の前で、手足の枷を外された。
すぐ側の壁に、武器と防具が掛けられていた。
「好きな物を選んでいいぞ」
ここまで随伴してきた警備兵に見張られながら、簡素な皮鎧を身に付けていく。
私は……槍にしようかな。
あまり使い慣れてないけど、敵の方が数は多いだろうし。
剣が欲しくなったら、奪えばいい。
手傷を負わずに、素早く一人倒す。
それが最善だと思う。
「……私はやっぱり、これかしら」
イライザはメイスと盾。
盾で受けて、隙が出来たところを叩き潰す。
腕なら骨折、頭ならそのまま終わり。
いつものイライザに合わせればいいから、安心して戦えそう。
「よし。準備出来たようだな」
警備兵はさっさと闘技場内に連れて行きたいみたいだけど、そうはいかない。
私はしゃがみつつ、槍を置いた。
「うわわ、靴紐がー」
「あら、ほんとね」
「ちっ。……さっさと結べ」
もちろん、事前に緩めておいた。
靴紐を結びつつ、警備兵たちの視線をそれとなく確認。
……いけそうかな?
そこへ、イライザが助け船を出してくれた。
「ねえ、あなた達。皮鎧に問題が無いか、確かめてくれない?」
「はあ? なんで俺たちがそんなこと……」
「ほら……胸の辺りとか。少し、窮屈なの」
「!! ……ま、まあ、確認は大事だからな」
「へへっ、そうそう。しっかり調べてやろうぜ」
警備兵たちはイライザを囲み、その結果私への注意が逸れた。
私たち、相変わらず薄着だからね。
(見つかりませんように……!)
胸元に指先を突っ込み、谷間から小石を取り出した。
牢屋の中で他の小石と削り合わせたから、いい感じの丸さになってる。
それを指の付け根に挟んでから、槍を持って立ち上がった。
「今度こそいいな。ほら、さっさと歩け」
「はーい。もう、せっかちさんだなあ」
イライザと目配せしてから、闘技場へと入場する。
虐殺の残り香が漂う。
「ひゅうーっ! あの二人、やっぱいい体してるぜえ!」
「たまんねえなあ、おい!」
「やっぱあれか!? 押し倒されたら、そのまま……!?」
野次を適当に受け流していると、対戦相手も入場してきた。
──四人か。
体付きを確認する。やれなくもなさそう。
「さあさあ、本日最後の三戦目ッ!! まずは闘技場に現れた謎の美女たち──アルマ、イライザーーーーッ!! どんな戦いを見せてくれるのでしょうッ!!」
剣奴たちの歓声は、一際大きくなった。
お金持ちの皆さんも、興味津々って感じ。
「対するこちらの四人はなんと──婦女暴行の常習犯だあっ!! 王都の牢屋に空きを作りたかったらしく、ここへ送られてきたそうです! まさに女の敵、なんと恐ろしいっ!!」
にやにやと薄ら笑いを浮かべ、目の前の四人は私たちを品定めしている。
……最悪。変なとこおっ立ててるのもいるし。
(ま、それならそれで。遠慮無くやれそうなのは助かるかも)
「両者、配置について!」
開始位置まで下がり、息を吐いた。
──心臓がうるさい。
でも、頭は冷えてる。
「……アルマ、私の手傷はある程度無視して。あなたが素早く数を減らせば、私たちは問題無く勝てるわ」
「うん。分かってる」
イライザが盾を構えた。私はその後ろに。
相手の一人が、弓を持ってるからね。
「試合……開始いいいいいいっ!!」
開始早々、矢が飛んできた。
それをイライザが盾で受ける。
先手は取られた。──けど!!
「アルマ、突っ込むわ!」
「了解!」
私たちの行動に面食らったのか、相手の動きが止まった。
走りながら槍を左手に持ち替え、右手の親指で小石を弾いた。
「ぎゃっ!!」
可能な限り近づいたおかげ。
弾いた石は、一番近い相手の顔に当たった。
目一杯腕を伸ばして、槍を腹に突き刺す。
「お、ごっ……」
膝を付いた男が剣を取り落とす。
その剣に片足を乗せたイライザは、そのまま足を私の方向へずり下げた。
メイスで頭を潰し、止めを刺すのも忘れない。
これで剣は確保。
「なっ……何しやがった、テメエら!!」
三人は動揺して、体が固まってる。
んじゃ、もう一人っと。
槍を構え、弓使いに向けて放り投げた。
──命中。
胸に刺さった槍を見つめながら、血を吐いて倒れる強姦魔。
これで二対二、だね。
「何という早業ッ!! この二人、強いぞおーーーッ!!」
ジュスティーノが何か早口で捲し立ててるけど、黙ってて欲しい。
剣を拾い、イライザの背後で構えた。
「流石ね、アルマ」
「どういたしまして。……これでも私、近衛侍女のまとめ役だからね」
本当は、イライザの隣で戦いたい。
でも盾が無いし、万が一の可能性もある。
だったら、慣れた方法で戦うのが一番。
「落ち着けっ!! 数は同じ、なら男の俺らが勝つ!」
「ああっ! このまま引ん剥いて、ヤっちまおうぜ!!」
男二人からの剣の攻撃を、イライザがメイスと盾でいなす。
私はその背後から隙を窺い──剣を突き出した。
「うぐっ……ごっ!?」
右腕を剣で切りつけられた男に対し、イライザはメイスを振り下ろした。
頭が潰れ、眼球が飛び出す。
これであと一人。
「こっ……降参だっ!! 頼むっ、許してくれ!! もう悪いことはしねえ!!」
剣と盾を投げ捨てた男は、膝を付いて命乞いを始めた。
聞こえてくる剣奴たちの罵声。
(……どうすればいいんだろ?)
別にこいつ、反省してないだろうし。
見逃したって、別の誰かに殺されるだけだよね。
ジュスティーノに視線をやると、首を掻き切る仕草をした。
ま、そりゃそうか。
私は手早く最後の一人の首を刎ねた。
これで少しは、被害に遭った女の人たちの気も晴れるのかな。
「試合ッ……終ーー了ーーッ!! 勝ったのはアルマとイライザだあーーーーっ!!
見事な戦いを見せてくれて二人に、どうか割れんばかりの拍手をッ!!」
両側の観戦部屋から沸き起こる拍手。
別に、嬉しくはない。
私とイライザは警備兵に連れられ、牢屋へ戻った。
とりあえず、初戦は無傷。
これをいつまで──続けられるんだろう。




