表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/95

26話 ローザ・カルミナ館、その地下で①

 天井の金網から伝わってくる、夜の空気。

 ……寒いなあ。

 二の腕をさする私の気を遣って、隣のイライザが体を寄せてくれた。

 私たちがいるのは、粗末な造りの観戦部屋。


 鉄格子の先にあるのは、月明かりと無数の松明に照らされた闘技場。

 中央には十二人の剣奴がいる。今回は八対四の戦い。


 剣奴たちを挟んで反対側の観戦部屋は、金網付きのしっかりした造り。

 豪華なソファに座った貴族や神官たちが、楽しそうに談笑してる。

 舞踏会で使うような仮面を付けているから、顔は分からない。


 こっちはこっちで、お仲間の剣奴たちが座りながらお喋り。


「なんだ姉ちゃんたち、緊張してんのかい? 今日が闘技場初参加らしいが、あんたら弱くねえだろ。……俺としちゃ、対戦相手に同情しちまうがな」


「そりゃあ、緊張もするでしょ。“大斧”さんと違って、か弱い女の子だし。だよね? イライザ」


「そうね、アルマ。ねえ大斧さん、代わりに戦ってくれない? その逞しい腕で、私たちを守ってくれたら助かるんだけど」


「けっ! 夜の相手してくれるワケでもねえのに、俺に何の得もねえだろうが。こうやってあんたらの側にいて、悪い虫を払ってやってんだ。ありがたく思いな」


 このおじさんはウルバノ。

 派手な戦い方で、裏闘技場の人気者らしい。

 坊主頭に、傷だらけの大きな体。


 主催者に言われて、私たちを守るように言われたんだって。

 ……あのアマンシオとかいうクソ野郎かな?

 私たち、まだ戦ってもいないし。


 でもそのおかげで、夜も安心して眠れてる。

 ──あっ。

 そろそろ、始まるみたい。

 

「さあっ、今宵も始まります! 実況はいつも通りわたくし、ジュスティーノが務めさせていただきますっ!」


 闘技場の壁際にある、正方形の金網付きの小部屋。

 ジュスティーノはその中で、優雅に一礼した。


「まずは第一戦目! 常連の方はご存知っ……リョウヘイ! レンジ! ノブユキ! そしてケイタの四人だあーーっ!!」


 上がる歓声。反対側の観戦部屋は静かなものだ。

 まあ、あっちはお上品な方々の席らしいし。


 どうやら私たちは、戦いの他に賑やかし役もやらされるらしい。

 ……ていうか、その名前。


「さっさと死んじまえー!」


「いつまで生きてんだ、てめえら!」


(あの子たち、ソウマくんの友達なのかな? なんでこんなとこにいるんだろ)


 イライザと顔を見合わせる。

 でもその辺りはまあ、後回しか。

 

 「そして……彼らと戦うのは、この無名の八人だあっ! 数は十分、下克上に期待しましょう! それでは、始めっ!」


 数の不利は、あまり関係無いみたい。

 怯えた表情の八人とは違って、落ち着いた表情の四人。

 ──正確には、三人だね。頑張れ、弓使いの子。


「ケイタ、いつまでもビビってんじゃねえ」


「こっちはお前のこと、頭数に入ってんだ! 後ろから敵の位置、報告頼むぞ!」


「わっ……分かってるけど! でも今回、数が多いから……っ!」


「へいへい。んじゃ、俺がまず一人減らすわー」


 両手剣を使うリョウヘイくん。

 メイスと盾のレンジくん。

 片手槍と盾のノブユキくん。

 そして、弓を使うケイタくん。


 戦闘中の掛け声で、誰が何の武器を使うのかが分かった。

 私たち、あの子たちと戦うかもしれないし。

 ちゃんと見ておかないと。


「……ぐっ! ……うぅ……っ」


「そーら、まず一人だ」


 槍を持ったノブユキくんの、柄の端を握った鋭い突き。

 心臓に穴が空けば、後は死ぬだけ。

 そこから、本格的に四人の攻撃が始まった。


 流れるように一人、また一人と倒れていく。

 神能と人能を持ってるだけあって、四人ともかなり強い。

 イライザは──うん。

 やっぱり、観戦しながら対策を考えてるっぽい。


「ちったぁ根性見せろや、ボンクラどもが!」


「あーあ。いつも通りじゃねえか」


 鉄格子をがしゃがしゃ鳴らしながら、野次を飛ばす剣奴たち。

 最後の一人が倒れたところで、ジュスティーノが宣言した。


「そこまでっ! 試合っ、終了~~!! 勝ったのはこっちの四人だあっ! お次の試合はもう少し楽しめますので、暫しの間お待ちを!」


 死体が片づけられていくのを眺めていると、観戦部屋の扉が開く音が聞こえた。

 鎧と槍を持った、五人の警備兵が入ってきた。

 手足に枷があるとはいえ、荒くれ者の集団が相手だからね。


「ウルバノ、出番だ」


「おう! んじゃ嬢ちゃんたち、行ってくるぜ。……いいかてめえら! 俺がいない間、この二人に変なことしやがったら──頭、叩き割るからな?」


 大斧さんを見送ってから、周りからのいやらしい視線を受けつつ。

 準備が整ったらしく、剣奴が入場してきた。


「さあ、注目の二試合目っ! まずは我らが人気者、ウルバノの登場だああああああっ!!」


 沸き上がる闘技場。

 向こう側のお金持ちのみんなも、手を叩いてはしゃいでるみたい。

 

「だんなーー!! 今日も血の雨見せてくれーー!」


「たまには死んでくれてもいいんだぞーー!」


 防具は、右腕部分を覆う鎧のみ。

 ただ──その右腕の太さが凄い。左腕の倍近くはありそうだ。

 巨大な片手斧を振るうには、十分すぎる筋肉量だと思う。


「そして対する相手は……借金のカタに連れてこられた、王都の平民が十人ッ!! ウルバノを殺す事が出来れば、晴れて自由の身!」


 平民たちは、がたがた震えている。

 中には膝を付き、祈る人もいた。

 武器は持たされている。でも、あれで勝てるようには見えなかった。


「それでは……試合、開始いいいいいいいッ!!」


 開始の合図と同時に、散り散りになって逃げ惑う平民。

 そんな彼らに対して、大斧さんは容赦が無かった。


「おらおら、どうしたっ!? 逃げ回らなくていいのかい!?」


「たっ……助けてっ……!」


 両手を広げて、あっという間に一人の男を追い込んだ。

 腰が抜けてしまったらしく、その場にへたり込んでしまった。


「おおらっ……よっとおおお!」


 斧による脳天への一撃。

 文字通り真っ二つになった男は、闘技場に血と内臓をぶちまけた。

 歓声と悲鳴。ここには、享楽と恐怖がある。


「やだっ!! 嫌だああっ!!」


「ああ……あなたっ……!!」


 夫婦らしき二人が抱き合い、泣きじゃくる。

 そんな彼らを見て、笑う者たち。


 こんな場所、あっていいはずがない。

 助けたい。でも、何も出来ない。

 なんて無力なんだろう。

 

「おいお前ら、泣いてばっかじゃなんも変わんねえだろうがっ!! その手に持った武器で、ちったぁあがいてみせろよ!!」


 大斧さんの檄に奮い立たされたのか、平民はそれぞれ持った剣と槍と弓を構えた。

 一カ所に集まり、小声で話し合っている。


(ああ……そんな……)


 私は鉄格子を掴み、歯を食いしばった。

 奇声を上げながら、走り出す平民たち。

 それでも──結果は変わらなかった。


「うぎゃああああああああああっ!!」


「ひぎいいいいいいい!!」


「ああ゛ーーーーーーっ! ああ゛ーーーーーーっ!!」


 闘技場を包む、血と贓物と排泄物の匂い。

 さっきまで感じていた肌寒さは、観戦者たちの熱気でかき消されていた。


「勝者は……ウルバノーーーーっ!! 皆さん、彼に惜しみない拍手を! そして次の三戦目は、新顔の女二人組っ!! 今しばらく、お待ちを!!」


 観戦部屋の扉が開く。

 私とイライザは顔を見合わせ、頷いた。

 卑怯な手も使う。まずは──生き残る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ