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【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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25話 白百合亭②

 しばらく待っていると、老人が男を連れて戻ってきた。

 中肉中背の、見た目はごく普通の若い男。

 20代ってとこか。


「お二人さん、どうも初めまして。俺っちは《土竜(もぐら)》。潜入、罠、破壊工作が仕事っすね」


「ああ、よろしく頼む」


「よろしくー」


 適当に握手を交わすと、《土竜》はカウンター席に座った。

 彼は老人から水を受け取り、一気に飲み干した。


「なあ、じいさん。悪いけど、ちょっと外の見張りしててくれないっすか?」


「勿論だ。念には念をだな」


 老人の背中を見送って、俺達三人は再び話し始めた。

 《土竜》は気安い感じで俺の肩を叩いた。


「さーてっと。とりあえず……クリフさん、ジェナさんって呼べばいいっすよね? その辺りは、じいさんから聞いてるんで」


「そうしてくれ」


「後は、えーっと……敬語の方がいいっすか?」


「いや。別にそのままで構わないよ。ジェナもそうだろ?」


「うん。そっちの方が話しやすいし」


「了解っす」


 本題に入る前に、少し世間話をした。

 表向きは花屋で、同じ仕事をしている女と夫婦を装っているらしい。


「長く一緒に暮らして、やりにくくなったりしないのか?」


「多少はあるっすけど……いざって時は、お互い切るって決めてるんで」


 そういう判断が出来ないと、こんな仕事出来ないよな。

 他に気になる事もあるし、それも聞いとくか。


「……王女の影、だったか? お前達のまとめ役って、どんな奴なんだ」


「えーっと……つい最近まで、《鴉》って人が。でも《揚羽》と一緒に死んじゃったんで、臨時で新しいまとめ役になった人はいるっすね」


 なるほど。急ごしらえでも、頭を立てなきゃ回らないよな。

 ……さて。そろそろ本題に入るか。


「なあ、《土竜》。今後についてだが──」


「待つっす、クリフさん」


 俺の言葉は、両手を突き出す《土竜》によって遮られた。


「一度、解散しましょう。二人とも眠そうっすからね。どこの宿屋に泊まってるんすか?」


「えっとね、『翡翠館』ってとこ!」


「おお、そりゃ助かるっす! そこはうちらの仲間が経営してるんで」


 宿は色んな人間が利用する。情報を集めるには、悪くない場所だ。

 偶然とはいえ、事が上手く運ぶならそれでいい。


「夜になったら俺ともう一人、変装して行きますよ。新しい王女の影のまとめ役と」


「そうか。寝させてくれるのは助かるよ。……でも変装されると、なんだか怖いな」


「ははっ! こういうのは、可能な限り慎重にやらないとっすからねー。合い言葉、決めときましょう。……ちょっと待ってくださいね」


 《土竜》は腕を組み、しばらく考え込んでいた。

 なんかこういうの、スパイ映画みたいだな。


「よし、決めた。俺たちがドアをノックしたら、『お前は翡翠か、それとも狐石か?』って尋ねてください。『ただの狐にございます』って答えるんで。覚えました?」


「ああ、覚えた」


 確か、翡翠に似た石で狐石ってのがあるんだったか。

 なかなか洒落た合い言葉じゃないか。


 宿の部屋番号を教えて、白百合亭を後にした。

 《土竜》も変わった奴だが、新しいまとめ役ってのも気になるな。

 まともな人間がやる仕事じゃないし、あまり期待しないでおくか。




 たっぷり睡眠を取り、夕食を食べた後。

 マリカと共に、部屋で待機していた。

 ロメオは隣の部屋。俺とマリカは相部屋だ。


 金は気にするなと言われたが、やはり他人に出してもらうのは気が引けてしまう。

 罪悪感を和らげる為に必要だと力説すると、ロメオは引き下がってくれた。


 俺は部屋に置いてあった本を読み、マリカは短剣の素振りをして時間を潰す。

 そうして過ごしていると、ドアがノックされた。

 念の為、音を立てずに忍び寄る。


「……お前は翡翠か、それとも狐石か?」


「……ただの狐にございます」


 うん、《土竜》の声だな。

 ほっと息を吐き、ドアを開けた。

 部屋の前で世間話は出来ない。さっさと中へ入ってもらい、二つのベッドを椅子代わりに向かい合って腰を下ろす。


 《土竜》が連れてきた新しいまとめ役は、女だった。

 長い黒髪を後ろでまとめた、黒いドレスの糸目の女。

 貴族服に身を包んだ《土竜》と並ぶと、なかなか調和が取れていた。

 

「ども、こんばんは。おめかししてきたっす。そんで、こっちが《(ふくろう)》。……一応、俺たちの新しいまとめ役っすね」


「なあに、《土竜》。なんだか、言いたいことがありそうじゃない。……まあ、それは後回しね」


 彼女は立ち上がると、優雅に一礼してみせた。


「初めまして、私が《梟》よ。変装と情報収集が得意なの。クリフさん、ジェナさん、どうぞよろしく」


 俺とマリカも立ち上がり、握手を交わす。

 ……指の付け根の皮が硬い。

 こいつも戦えそうだな。


「早速だが、こちらから情報提供だ。教皇によると、侍女二人はローザ・カルミナ館という場所にいるらしい」


「……あの場所かあー。俺たちなりに、調べてたんだけどなあ」


「あの太っちょの教皇が情報源なのね。……クリフさんは、彼を信用しているの? 現状、お飾りみたいなものだけど」


「少なくとも、侍女二人の情報は信じて良いと思う。彼のハーレムの女達が、実質的に間者のような存在になっている。その上、彼はノヴァリス教を良く思ってない」


「なるほどね……。それじゃあ、ローザ・カルミナ館の地下──そこに裏闘技場があるという前提で、話を進めて行きましょうか」


 二人からローザ・カルミナ館について、軽く説明を受けた。

 表向きは、広大な森に囲まれた寂れた迎賓館。

 だが実際には、森の中を見張りが巡回していて、近づくだけでも難しいらしい。

 しかも少し離れた場所には、貴族の屋敷が数軒並んでいるとか。

 交通の便が悪い場所に、そんなものが集まっているのは不自然だ。


(裏闘技場の補給施設と考えれば……辻褄は合うか)


「──問題は、どうやってローザ・カルミナ館に潜入するかっすね」


「そうね。今まで、私たちも何度か試そうとしたの。……でも、無理だった」


「……アタシがやってみようか?」


 何気ない、軽い一言。

 俺達の視線がマリカに集まる。


「……あの場所、めちゃくちゃ厳しいっすよ?」


「そうよ、ジェナさん。何か他に、安全な方法を考えましょう」


 二人は長年、この国で諜報活動をしている。

 プロの判断としては、潜入は不可能。

 ……でもそれは少し、こいつの事を見くびっているな。


「お前達の意見は分かった。……どうする、別の方法を探すか?」


 俺の挑発的な視線に、マリカはにやりと笑った。


「いやいや、ここは潜入っしょ! ……時間も限られてるんだよね? 《暗殺者》の神能、舐めてもらっちゃ困るんですけど」


「……悪い貴族や商人を殺し回ってたって話、本当なんすよね? そりゃ腕は信用してますけど……」


「……もしやれるなら、携行食や水、動きを阻害しない装備を用意させてもらうわ」


 クラスメイトに、危険極まりない事をさせようとしている。

 それでも、ここまで来て失敗は考えられない。

 あってはならない。


 ……ならせめて、俺の判断で。

 俺の命令で。

 これくらいしか、今の俺には出来ないが。


「お前だけが頼りだ。生きて情報を持ち帰ってこい」


「……うん! アタシに任せといて!」


 街が寝静まった後、マリカは宿を出て行った。

 俺は足を引っ張らないよう、しばらく宿で待機だな。


 ──そういえば。

 この国には、別のクラスメイトがいるんだった。

 あいつら、今どこで何をやってるんだろうか。

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