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【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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24話 教皇エリオドロ、種馬と邂逅する②

 ロメオが手土産に持ってきたのは、アドラー産のワインだった。

 まだ昼にもなっていないが、構うものか。

 今日の仕事は終わった。あとは暇を持て余すだけだ。


 折角のいい酒だ。自分だけで楽しむのもつまらない。

 早々に栓を抜き、つまみを並べてロメオと楽しんでいた。


「さあー、ロメオよ。儂が注いでやろう。若きパルティーヤの野心家に──乾杯!」


「ありがとうございます、猊下! ささっ、今度は僕がお注ぎしますよ」


「うむっ! ……しかしまあ、一丁前に護衛を連れるようになってからに。ダランテ家の勢いは止まらんのう」


 ちらりとロメオの護衛に視線をやる。

 護衛の二人は深々と頭を下げた。

 名前も聞いていないが、きっと凄腕なんだろう。


「……猊下、少しお控えになさっては」


「ルシアナ~、硬いことを言うでない。ロメオは儂の、数少ない友人なのだ」


 兄と顔を見合わせ、ルシアナは困ったような表情。

 ──なんだかんだで、この兄妹と出会って十五年か。

 没落貴族の小さな子供達が、立派に育ったな。


 ……さて。酒はこのくらいにして、会話を楽しむか。

 しばらくの間、取り留めの無い話をしてから本題に入った。


「……のう、ロメオよ。お主の今回の入国、劇団の興業が目的らしいが──本当にそれだけか?」


「……猊下は何故、僕にそんな質問を?」


「商いをする者にとって、この国は非常に都合の良い国じゃ。そしてこの国の役人や為政者は、賄賂を好む。……最近、国内で色々あってな。人を見たら、疑う癖が出るようになった」


「なるほど……。盤石と言われるこの国にも、事情があるのですね。……ですが、それなら猊下にとって都合がいいのでは? ──ノヴァリス教の根絶を望む、あなたにとっては」


 以前、酒の席で口を滑らせてしまった。

 迂闊ではあったが、相手がロメオで良かった。


 だが──望んだところで、豚のように肥え太った男に出来る事は無い。

 毎日の祈りを邪教への呪詛に変えたとしても、何も変わらなかった。


「……最近、スタリオン卿と商売の話をしましてね。猊下には前もってお教えしますが、街道の整備をするつもりです。マールとパルティーヤ間の、交通事情改善が出来たらなと」


「ほうー。やはり若い者同士、つるんでおるのか。……あの種馬、どうなのだ? 最近はアドラーの貴族を戦で討ち取ったりと、随分と調子が良いみたいではないか」


 私がスタリオン卿へと抱く感情──それは嫉妬だ。

 不自由な私と違い、仲間を作り家族を作り──自由に生きているように見える。

 もっとも、最初は牢に入れられたりと苦労もしたようだが。


(……まさに不屈の男。私とは大違いだな)


 ロメオは飄々としている。

 私の心情を読んでか、その辺りには踏み込んでこない。

 ただ……何か、楽しげな雰囲気が漏れ出ている。


 何だ、こいつは。

 目の前の不幸な豚野郎が、そんなに面白いのか。


「彼と付き合い始めてから、僕の商会も随分と稼がせてもらってますよ。……宜しければ、スタリオン卿を紹介いたしましょうか?」


 こいつも、所詮はただの若造か。

 ここは一つ年長者として、あの種馬にも助言してやろう。


「ふん、会えるものなら会ってみたいわ。ついでに、種馬に伝えておくがいい。髭を生やすのは十年早いとな!」


 窓から見える景色を眺めながら、グラスに残ったワインを飲み干す。

 視線を戻すと、ロメオは笑いを堪えるような表情をしていた。

 さっきから一体、何なのだ。


「……そろそろ、いいんじゃないですか?」


「くくっ……。ああ、そうだな」


 護衛の一人が言葉を発する。

 ……主従の空気とは、違う。

 背後でラモンとルシアナが剣に手を掛ける気配を感じ、手で制した。


 べりべりと長い髭をむしり取った護衛の男。

 その場で膝を付き、名を名乗った。


「お初にお目に掛かります、エリオドロ教皇猊下。私はソウマ・スタリオン。若造らしく髭を剃り、御身の前に参上仕りました。……ほら、お前も」


「えーっと、その……マリカです。ソウちゃんの護衛です、よろしくお願いします」


「……ラモン、ルシアナは応接室の外へ。絶対に誰も入れぬように」


「「はっ!!」」


 二人の兄妹に見張りを任せ、マールの若造をソファに座らせた。

 ──色々と、言いたい事が有り過ぎる。

 なるべく声と感情を抑えながら、真意を問う。


「……おっ、お主……気は確かか!? 何の用でノヴァリスへ参った!? ロメオと一緒に、単に儂をからかいに来たという訳ではないのだろうが……」


 噂に聞いていた種馬は、思った以上に男前だった。

 スタリオン卿を含む、数年前に神柱石で召喚された者達。


 食生活の影響で顎が細く、この世界の食事に慣れるのに苦労したという話をロメオから伝え聞いていたが──なるほど。

 この見た目なら、神能や貴族の地位が無くとも、女には困らないだろうな。


 全く、腹立たしい。

 ……いやいや。今はそんな事、どうでもいい。


「私の所に、エリノア王女の使いが来ました。ノヴァリス国内にて、侍女二人が誘拐されたと。……猊下は、何かご存知でしょうか?」


 スタリオン卿の言葉で、合点がいった。

 国内で起きた騒ぎの理由。

 事態は、思った以上に深刻だ。

 

「……そうか。フェリクス将軍は、エリノア王女の配下に殺されたのだな。落ち度はノヴァリスにあるが、リヒトブリックも表立ってこちらを非難出来ない。……なんとも、厄介な事よ」


「何やら複雑な状況らしく、私が乗り込む余地はあるかなと。侍女二人を救出次第、速やかにマールへ帰国します。……どうか、お力添えを」


 情報源はどこだと聞かれたら、リヒトブリックは我が国に潜伏させている間者の存在を認める事になりかねない。そこを突いて、ヴァルゲスの現当主は行動を起こしたのだろうが……。


(……現当主の名前は確か、アマンシオだったか。エリノア王女とスタリオン卿の関係を知らなかったのか? ……いや、知っていたとしてもだ。まさか本人が直々に来るとは……)


 エリノア王女とは、何度か会っている。

 彼女の聡明さと、底の見えなさ。

 恐怖を感じた。


 同時に、アレと対峙する我が国の為政者の苦悶を考えると、胸のすく思いもある。

 ……だが。

 エリノア王女と同種の存在がもう一人現れるなど──完全に想定外だ。


 たかが侍女相手に、何故自らの命を懸ける?

 理解出来ない。

 

 殺せる。今なら。

 殺すべきだ。


 膨れ上がる警戒心とは裏腹に、私は目の前の男に惹かれ始めていた。

 彼とエリノア王女なら──ノヴァリス教を叩きのめしてくれる。

 教皇になった事を後悔してから長年、思い描いてきた宿願。


 ……なら、協力すればいい。

 簡単な話だ。

 惨めな人生を送ってきた私に訪れた、最後の機会。

 絶対に、手放してはならない。  

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