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【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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24話 教皇エリオドロ、種馬と邂逅する①

 午前十時。鐘の音と共に、礼拝堂にて祈りを捧げる。

 今の儂に任されている、数少ない仕事の一つである。


 真面目……というか、拘りである。教皇となってから、毎日欠かさず行っている。

 民の前でやるのは年に何回かあるくらいなので、それさえこなせば問題は無い。


 ろくに仕事もさせてもらえない立場。

 ならばせめてこれくらいはと──日々、自分を納得させている。


「……うむ。では行こうか。ラモン、ルシアナ」


「「はっ」」


 数少ない忠臣の二人を伴い、執務室へ。

 遠く離れたヴァニタス闘技場から、歓声が聞こえる。

 ……相も変わらず、賑わっておるな。


 ノヴァリス首都に煌然と佇む、カンデラ・ディヴィナ宮殿。

 それが儂の住まいだ。


 執務室のバルコニーから、街を眺める。

 この国なりの──平穏な光景が広がっている。

 少し前の事ではあるが、とても騒ぎが起きたとは思えぬ。


(……フェリクス将軍……なぜお主が? お主の代わりに死ぬべき者など、この国にはいくらでもいるというのに……) 


 一週間ほど前の話だ。

 深夜の首都各所から火の手が上がり、戦闘が発生した。

 鎮圧は無事成功──という事になっている。


 実際には首都南門が突破され、マール方面への関所でも戦闘が起こった。

 慰労に訪れていたフェリクス将軍をも含め、警備兵は全滅。あまりに重い失態。

 国内の為政者は原因の究明と対策に追われながら、責任をなすりつけ合っている。


 実に愚かしい。

 ある意味、この国に相応しい者達ではある。


 (……まあ、儂は部外者のようなものだがな。今はただ、フェリクスの──清廉な魂の持ち主であった彼へ、哀悼の念を)


 ──重苦しい話は、ここまでとするか。

 どうせ考えたところで、儂に出来る事など多くはない。

 呼び鈴を鳴らし、紅茶と茶菓子を用意させた。

 カップは三つ。茶菓子も三人分。


 執務室前で待機していた、二人の兄妹。

 世間話の相手として、今日も付き合ってもらうとしよう。


「のう、ラモンよ。何か最近、変わった事はあるか?」


「最近……ですか? やはり最近ですと、フェリクス将軍についてでしょうか」


「うむ。まあ……そうであろうな。ルシアナはどうじゃ? 何か、面白い話など。おお、そうじゃ! 誰か、気になる男が出来たりはせぬか?」


「……猊下。お言葉ですが、無理に若ぶろうとせずとも。恋など不用です。職務が全てですので」


「はっは! 手厳しいのう……それではおっさんらしく、政治の話でもするか」


 だが、そのように接してくれるのはルシアナだけ。

 ……いや、もう一人いるのか。

 あいつはあいつで、色々と落ち着いて欲しいものだが。


「政治の話ですと……ああ、そうだ! エリノア王女に関して、こんな話を聞きましたよ。なんでも、侍女の二人がヴァルゲス家を訪れたとか」


「あの家は、昔からリヒトブリック王家と付き合いがあるからなあ。いつものように、商談目的だろう」


「それが……少し、変なんですよ。ヴァルゲスの屋敷周辺で働く農民の話ですが、もう十日ほど滞在しているとか」


 カップに伸ばそうとした手は、ラモンの言葉により止まった。

 世間話のつもりだったが……思わぬ方向に転がったな。


「……エミリオ様。個人的な意見ですが、あの若い当主──怪しいと思います。放っておくと、何か良くない問題を起こすかもしれません」


 ルシアナが私の本名を呼ぶ時。

 それは──何かを、本気で訴えたい時だ。


 ……有り得るのか?

 一国の姫、それも次期女王に仕える侍女だ。

 そんな存在に、危害を加えようなど──。


「ふっ。私がいくら思い悩んだところで……だな」


 焼き菓子をつまみ、頬張った。

 “そういう意図”があるのかは分からないが、殺人的な甘さだ。

 ……まあいい。どうせまた、腹の贅肉になる。


 この国では時々、人が消える。

 私は消えた人間の行き先を知っているが、口を閉ざしていた。

 大昔から続く、ノヴァリスの悪習。

 身の毛もよだつほどの生き地獄が、この国には存在する。


 ──なら、そんな場所で稼いだ金で建てた城に暮らしている私は……なんだ?

 地獄の大悪魔か、魔王か。

 結局──私もまた、この国の腐敗の一部に過ぎない。


 ドアがノックされたが、こちらの返事を待たずにその人物は入室した。

 グレゴル・エスカバール。

 ノヴァリス教の実質的な最高責任者。それがこの爺さんだ。


 ただの神学者だった私を、金と女と美食で堕落させ、傀儡に仕立て上げた悪鬼。

 慇懃無礼な笑みを浮かべ、書類の束を渡してきた。


「おはようございます、猊下。こちら、ご確認を」


「うむ、おはよう」


 ラモンが机から持ってきた印章を受け取り、手早く押印していく。

 書類をグレゴルに渡し、話題を振る。


「のう、グレゴル。お主、ヴァルゲス家の噂は耳に入ったか? エリノア王女の侍女についてだが」


「ああ、あの噂ですね! 当主のアマンシオに確認したところ、侍女達は数日前の夜中に、屋敷を出て行ったとか。何か、急用があったのでは?」


「なるほどのう。……侍女達が出国しているか、確認はしておるのか?」


「ええ、確認しております。そのような雑事は、こちらで処理しておきますので。……そういえば猊下、ダランテ家の長男が謁見を求めていますよ」


「……ほう、ロメオが儂を尋ねに来たか。久し振りに顔が見たい、通してくれ」


「かしこまりました。それでは、失礼します」


 あからさまに話題を変えられたが、ロメオも気になる。

 商人である彼からは、諸国の様々な話が聞ける。

 私は身だしなみを整え、応接室に向かった。


 今回の手土産は、何だろうか。

 前に食べた、マールの若造の所の燻製。

 あれは美味かったなあ。


 最近は髭など生やして偉ぶっているらしいが──どんな奴なんだろうな。

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