23話 交換条件②
身だしなみを整え、落ち着いた雰囲気の格好で現れたプリシラ。
事情をかいつまんで説明すると、彼女はすんなり受け入れてくれた。
「……で、私の将来の旦那さんは困ってると。ロメオ、あんたはしっかり協力しなさい。いいわね?」
「もちろん、そのつもりだよ。……姉貴の性格だと、もう少し抵抗すると思ってた」
「こーんな美味しい話、見逃すはずないでしょ! あのクソ親父から、ようやく離れられるんだからさ。……でもスタリオン卿は……いいの? 自分でいうのもアレだけど私……こんなだし」
プリシラは平然とした様子で、服の上から自分の腹肉を両手でつまんでみせた。
マリカがごほごほと咳き込む。
そんなマリカを肘で小突いてから、正直な気持ちを伝える。
「君さえ良ければ結婚の話、このまま進めさせて欲しい。書類仕事なんかは手伝ってもらう事になるけど、ちゃんと自由な時間は用意する。それに──」
一度、言葉を切る。
繊細な話だ。怒らないといいが……。
「俺の友達に、料理に詳しい奴がいる。もし君が自分の体型を気にしてるなら、そいつに健康志向の飯を作らせる。それなら少しずつ、痩せられるはずだ」
「……跡目争いに負けてさ。気付いたら、食べてばっかになってたんだよね。……私、ちゃんと痩せられるかな?」
「うちの屋敷は女も多いし、色々と協力してくれると思う」
「そっか。……じゃあ、頑張ってみる」
姉の背中に手を添えるロメオは、優しい眼差しをしていた。
俺の視線に気付いたロメオは、気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「結婚の話は、このくらいにしよう。ノヴァリスに潜入する手段として、ロメオの劇団の力を借りたい。それは可能か?」
「劇団の方は、すぐにでも動かせますよ。……具体的に、いつパルティーヤを出国する予定ですか?」
「明日だ。マール国内に潜伏していたノヴァリスの間者が、俺達に追いつく前に」
「だねー。怪しまれないように、ある程度出国は遅らせるだろうけど……その分、かなり無茶しながらパルティーヤに来るんじゃないかな?」
俺とマリカが持ってる人能、《感応》。
強敵や怪しい人物を探すのに有効な能力だ。
ただ、欠点もある。
(……戦闘能力を持たなかったり、ただ命令を受けただけの一般人に対しては、《感応》は効果が薄い。あらゆる可能性を考えると、素早い行動が最優先だ)
「ああ、そういうのも考えないといけないのね。……じゃあ、二人と背格好が似た人間を用意しといたら? 変装させて、たまに窓際に立ったりして」
「……時間稼ぎも含めて、そこまでやった方がいいかもしれないな」
「僕と一緒にソウマさん、マリカさんは変装してノヴァリスに行くけど、その間も二人に似せた人物を別邸に置いておく……?」
「つまり外から見ると──ロメオが仕事で別邸を空けている間も、俺とマリカは休暇か何かで留まっている──ように見えるはずだ」
パルティーヤに潜伏するノヴァリスの間者が既に存在するなら、この小細工はあまり意味が無い。
俺達がダランテ家に入る現場を、見られた可能性が高いからだ。
ただ、その辺りが未知数であるなら、どちらにせよやっておいた方がいい。
今回の救出作戦を成功させる為に──そして、俺とマリカの生存確率を上げる為にも。
「なんだか、推理小説っぽい流れですね! 今後の流れも決まったことですし、使いを出して劇団の座長を呼んできます。彼女は、化粧や変装が得意なので」
「助かる。変装姿を確認したら、俺とマリカで街に出かけてもいいか? ちょっと、会っときたい奴がいるんだ」
「ええ、構いませんよ。……ご友人ですか?」
「そんな感じだ」
朝倉匡仁。
《詐欺師》の神能を持つ、パルティーヤ評議会の一員になったクラスメイト。
折角だし、顔見せに行くか。
クラスメイトの屋敷を訪ね、俺とマリカは豪勢な夕食を食べていた。
屋敷の外見は当然、内装や調度品も些か下品。
当の本人は、俺達の視線を気にすることなく振る舞っていた。
「よく来てくれたなあ、二人とも! さあ遠慮せず、どんどん食べて飲んでくれよ」
「悪いなアサクラ、急に押しかけて。美味いよ、どれも」
「ほえ、ほいひー! ふぉうひゃんも、はえへはえへ」
使用人も下げて、三人の食事。
久し振りに会った俺達は、それぞれの近況を報告し合った。
これからパルティーヤに行ってくる、とは言えないが。
「そういえばソウマ、前に会った時は髭生やしてたよな? 気分転換ってやつ? マリカも結構、ばっさり髪切ったなあ」
「あー……まあ、そんな感じだな」
「そうそう! イメチェンだねー!」
付け髭を付ける為、邪魔な髭は剃った。
マリカは髪色の違うカツラを被るので、長かった髪をボブカットに。
このくらいは、やらないとな。
「へえ、そうかあ。……ところで、二人がここに来た理由は? ……金か!? 金の動く話か!?」
人が変わったかのような態度で、こちらの様子を窺うアサクラ。
……ああ。やっぱこいつ、神能の力に溺れてるな。
今まで通り、付かず離れずの関係でいいか。
「いや、ちょっとした休暇だよ。しばらく、ダランテ家の別邸で過ごす予定だ」
「ちぇっ! なーんだ、金の話じゃないのかあ。……もし儲け話があったら、俺にも一枚噛ませてくれよな! 俺たち、友達だろ?」
「勿論さ。俺達、クラスメイトだしな」
アサクラの濁った目に、俺はどう映っているのか。
そんな事を考えながら、彼の屋敷を後にした。
次の日。
ロメオの護衛に扮した俺とマリカは、劇団と共にパルティーヤを出た。
賑やかな劇団員に囲まれ、二日の旅路。
ダランテ家の威光は存分に発揮され、あっさりと入国は叶った。
まずは第一関門、突破だな。
──『白百合亭』。
あの女が、最後に残した手がかり。
そこに行けば、リヒトブリックの協力者に会えるはずだ。
とにかく仲間。そして情報。
焦るな。迅速に。冷静に。
(ロメオから、ノヴァリスの体制に不満を持つ有力者を紹介すると言われたが……どんな相手だろう)
美しいサンクト・ノヴァリスの街並みに圧倒されながら、テントの設営を手伝う。
……芸の一つでも、覚えとくんだった。




