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【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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22話 平穏と血の報せ②

 ジョエルの村の近くには、ユヅルの希望で診療所を建てている最中だった。

 本当はそっちに運びたかったが、まだ使える状態じゃない。

 なので、大森林から一番近いこの村に女を運ぶことにした。


 新しい入居者の為に用意されていた家。

 掃除もしていて、ベッドも清潔だった。


 マリカと共に到着したユヅルに、女を看てもらった。

 だが──いくらユヅルが《医術》の神能を持っていたとしても、あの容体に対して出来る事はほぼ無いだろう。


 俺とマリカは、家の前で待っていた。



「……ソウマ、お前は中に。話がしたいそうだ」


 ドアから顔を覗かせたユヅルに、声を掛けられた。

 あの女、意識を取り戻したのか。


「……助かるのか?」


 ユヅルは首を振るだけだった。

 ──まあ、そうだよな。


「どうしても、伝えたいことがあるのかもね。ほらソウちゃん、行っといで」


 マリカに背中を押され、家の中に入る。

 ベッドの前の椅子に座り、女を見つめた。


 俺の視線に気付いたのか、女は目を開け、僅かに顔を傾けた。


「あなたが……スタリオン卿ですか……?」


「ああ。何か俺に……言いたいことがあるのか?」


 女は、絞り出すように言葉を紡ぐ。

 これが最期。ただ、彼女の言葉を聞こう。


「お願いです……どうか……アルマさんとイライザさんを……助けてください……」


 予想外の人物の名前──俺は目を見開いた。


「君は……リヒトブリックの人間なのか……? だが、なぜ俺に……」


「お二人はノヴァリスで……恐ろしい場所に囚われています……姫様が動くことは……難しいのです……」


「……政治的な理由、か」


 ノヴァリス神聖王国という国については、ある程度調べている。


 色々と、面倒な国である事。

 かの国の国教において《種馬》の神能を持つ俺は、悪魔のような存在である事。

 そんな事情を、彼女は多分知っている。


 それでも、俺を頼った。

 頼る以外、方法が無かった。

 多くの犠牲を払い、ここまで辿り着いたんだろう。


「ノヴァリス王都にある……『白百合亭』……そこに……私たちの仲間が……」


「……」


 言葉の代わりに、彼女の手を握った。

 それだけ。

 それだけなのに、何故か彼女は微笑んだ。


「……良かった……」


 目は閉ざされ、一筋の涙が零れた。

 力が抜けた指先。


 水差しの水でハンカチを湿らせ、彼女の顔を清める。

 家から出て、ユヅルの肩を叩いた。


「ありがとう、ユヅル。助かった」


「……ああ」


 空を見上げ、名も無き彼女を見送る。

 ──良かった、か。

 初対面の俺に、なんともずるい言葉を残しやがった。


(帰ったら、グラーネと大喧嘩だな……)


 屋敷に帰る途中、マリカに“旅行”の計画を話した。

 案の定、乗り気だった。

 ……気楽でいいよな、お前は。




 屋敷に帰ってから、グラーネに何があったか説明した。

 そして、これから俺が何をするつもりなのかも。


 ここ最近、機嫌が良かった我が妻は、今じゃすっかり無表情になっていった。

 現在、俺の書斎には四人。

 

 俺、グラーネ、マモル、マリカ。 


「……」


「……」


「……」


「……」


 誰も言葉を発しない。

 この状況を生み出したのは俺だから、俺がなんとかするしかない。


「なあ、グラーネ。確かに、俺がやろうとしてる事は正直、馬鹿げてる。でも、俺なりに考えて決断した。時間も限られてるし、今日中にマールを出国するぞ」


「……ま、まあ……アタシもついてくから……たぶん、だいじょ──」


 マリカの発言は、テーブルに拳を叩きつけたグラーネにより遮られた。


「駄目だ、許さん。どうしても行くというなら、ソウマ。お前の手足をへし折らせてもらう」


「……はあ。こっそり行けばよかったか」


「ふざけるな!! ……どうしたというんだ、ソウマ。お前らしくもない……!」


 そんな夫婦喧嘩を見かねて、親友が助け船を出してくれた。


「ねえ、ソウマ。もう少し、説明したらいいんじゃないかな。そしたら、グラーネさんも納得すると思うんだ」


「説明といっても……『俺とマリカで、パルティーヤ共和国を経由してノヴァリス神聖王国に入国。協力者と共に、侍女二人を救助』。最初からそう言ってるだろ?」


 俺は両手を広げ、困り果てた。

 これ以上、どう説明すればいいんだ。


「それは手段、目的だろう! 理由を言え! ……まさか、死んだ女にほだされたなどと本気で言うつもりか!?」


「理由は一つしかない。エリノアのを守るためだ」


「……だから、それを詳しく話せと──!」


 荒ぶるグラーネを片手で制止し、息を吐いた。

 俺もこいつも、感情より理屈を重んじる価値観の持ち主。

 時間を惜しみ、その辺りの説明を省略してしまった。


「この国が上手く立ち回っていくには、リヒトブリックの次期女王であるエリノアの存在が必要不可欠だ。あの侍女四人の代わりを見付けるのは、正直難しい。お前もそう思うだろ?」


 そこで俺の意図にほぼ気付いたのか、グラーネは顔を背けた。

 もう少し聞かせてみろという態度だ。

 

 数年前、エリノアの別荘で彼女達の戦いぶりを見た。

 もし他の近衛侍女に代わり、エリノアの護衛に失敗したら。

 この国は、アドラーとノヴァリスによって滅ぼされる。


「今回、俺自身が行く事で、ノヴァリス国内にいる反体制派と繋がりを持てるかもしれない。試してみる価値はある」


「……ふっ。まるで、ボズウェルみたいなやり方だな」


「そうだ。普通のやり方じゃあ、マールは守れない。だったら、なんでもやる。……頼む、行かせてくれ」


 グラーネは髪をかき上げ、ソファに背を預けた。

 唇を引き結んだまま、しばらく窓の外を見ていた。

 やがて、彼女の中で気持ちがまとまったのか、こちらに向き直る。


「最後に、もう一つだけ聞かせろ。……パルティーヤからノヴァリスへは、どうやって入国する? この国にも、ノヴァリスの間者はいるだろう。恐らく、お前の顔は覚えられているぞ」


「パルティーヤの名家ダランテ──そこの長男に力を借りる。劇団持ちだろ? 変装して、一緒に連れてってもらう」


 以前、アドラーのグウィネス女王に対する噂話も広めてもらった。

 あいつは若いが人脈も広く、立ち回りも上手い。

 借りばかり作っているから、そろそろ対価を差し出す必要はあるが。


「相変わらず、よく小細工を考えるな。……帰ってこい、必ず」


 どちらからともなく二人でソファから立ち上がり、抱き締め合った。

 しばらくの間そうして、出国の準備を手早く済ませた。


 俺とマリカを、屋敷の前でみんなが見送ってくれた。

 家族と、ジンバールの家臣達。

 マモルをはじめ、居合わせたクラスメイト。


「ターニャとフィオナには、上手く言っておいてくれ。……あと、オーレリアにも」


「ははっ、女の名前ばかりだな! ……ほら、お前達も」


 寂しげな表情の子供達。

 一旦、馬をマリカに任せた。

 三人の前でしゃがみ、しっかり抱き締めてから立ち上がった。


「……父さん、ちょっと知り合いを助けてくる。いい子にしてろよ」


「そんじゃみんな、行ってくるねー!!」


 屋敷を後にした俺とマリカ。

 マール大要塞を抜け、パルティーヤ共和国へ続く街道をひた走った。


 マリカに気取られないよう、胸に手を当てた。

 不安はある。恐怖も。


(……別に、お前のためじゃない。だから、俺が死んでも気にするな)


 死んだあの女の事は、ひとまず頭の外へ。

 最優先に考えるべきは、アルマとイライザだ。


 恐らく、これが俺のやるべき事なんだろう。

 人としてか、為政者としてかは分からない。

 何かに突き動かされている。


 その何かを──ついでに探しに行く。

 それくらいはいいだろ?

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