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【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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22話 平穏と血の報せ①

 気付けば、ボズウェルとの争いから半年が過ぎていた。

 アドラーはグウィネス女王に全権が戻り、体制の再編中。


 マール国内では、ヴォルック家に《親帰り》が生まれた。

 我が妻の家である、ジンバール家との争いが再燃。


 問題は山積みだが、不思議と平穏な日々が続いている。

 その日、俺は朝食を済ませ、書斎で軽く書類に目を通してから休息を取っていた。


(……もう少し休みたいが、そうもいかないか)


 体を起こし、それなりの格好に着替えた。

 雪はほぼ溶けたが、日陰にはまだ少し残っている、そんな季節。


 外に出ると、グラーネと共にレオナルド、ユリウスが朝から稽古に励んでいる。

 あと一年ほど情操教育が必要だと思っていたが、子供達からは日々おねだり。

 結局、親である俺達が折れた。


「ちょっと、ジョエルの所に行ってくる。それと、高炉の現場も確認しておきたい」


「ああ、分かった。一応、誰か護衛を連れて行け」


 護衛と言っても、マモルかマリカのどちらかになる。

 この前はマモルだったから、今日はマリカに頼もう。


「ちちうえ、おきをつけて!」


「いってらっしゃい、とうさん!」


 子供達に手を振り、近くの生産拠点に向かった。

 この時間なら、多分あそこにいるだろう。




 他のクラスメイトから居場所を聞き、アキナのアトリエを訪ねた。


「ソウマだ。ここにマリカがいるって聞いたんだが……」


「入っていいでござるよ、ソウマ殿〜」


 ドアを開けると、室内にはアキナとマリカ──そして、娘のモニカがいた。

 アトリエの中央で、モニカが紙に絵を描いている。

 それを大人の二人が見守るという構図だ。


「あっ、おとうさま!」


 モニカは俺を見るなり、駆け寄ってきた。

 しゃがみ込み、娘を抱き上げてからマリカに話しかける。


「マリカ、悪いが護衛を頼めるか? ジョエルの所と、高炉を見に行きたい」


「おっけー! ……あっ、その前にほら、これ。モニカちゃんが描いたの!」


 マリカが両手で広げた紙には、青い花が描かれていた。

 年相応の……いや、なかなか良く描けている絵だと思った。

 親馬鹿と言われたら、それまでかもしれないが。


「いやはや……元美術部としても、モニカちゃんの画力には驚きを隠せませんぞ」


 相変わらず、変な喋り方を続けているアキナ。

 モニカを腕から下ろしてやると、アキナの元に戻っていった。


「なんというか、お前に懐くとは思わなかったよ。……最初、かなり警戒されてたよな?」


「ふっふっふ。今ではマブダチですからな」


「うん。アキナさん、おもしろいからすき! それと、いいおんなだから」


「……そうか。しばらくの間、モニカを頼む」


 また、変な言葉を教えたな……。

 まあいい。俺は肩をすくめ、アキナに娘を任せた。


「それじゃ、アタシたちはデートだね!」


「はいはい、さっさと行くぞ」




 一度、屋敷に戻ってから馬に乗った。

 ウェヌスの神殿の先の森を抜けると、平原が見えた。


 以前、この場所には火薬の研究施設があるだけだったが、今は違う。

 ボズウェルの私兵と、その家族が暮らす複数の村。

 それと、最新の耐熱レンガを使った高炉が建っている。


 肝心のジョエルは、すぐに見つかった。

 村から集まった兵達と、簡易的に作られた練兵場で鍛錬に励んでいた。


 マリカと共に馬を繋いでいると、ジョエルの方から挨拶に来た。


「おはようございます、ソウマさん! それと、マリカさんも!」


「おはよう、ジョエル」

 

「おはよー!」


 他の兵達がこちらに視線を向けていたので、大声で呼び掛けた。


「俺達の事は気にせず、各自鍛錬に励んでくれ!」


「……おおっ、なんかリーダーっぽいじゃん」


「一応、そういう立場だからな」


 アドラー帝国からやって来た、ジョエル達とその家族。

 心配していたが、今のところ問題は起きていない。

 彼らは最初、マール連邦のゆったりした空気に戸惑っていた。


 しかしこの国に慣れてきてからは、他の亜人達とも少しずつ交流し、自分達の居場所をきちんと作ろうとしている。


「お前達は真面目だし、評判も良くて助かってるよ。最近、何か変わった事は?」


「そうですね……あっ! そういえ今朝、マール大森林の方から馬が歩いてきたんですよ。それも、鞍付きの」


「……鞍付き? それは……確かに変だな」


「はい。なので、少し前から数十人規模で大森林の中を調べています。一応、馬は村で保護しました。鞍と、馬の体に……血が付いてました」


 腕を組み、溜め息を一つ。

 勘弁して欲しいが──すぐに対応が必要だ。


 正直、馬を発見した時点で報告して欲しかった。

 まあ、これは俺の落ち度だ。

 

「……分かった。マリカ、高炉は無しだ。このまま大森林に行く」


「いいね、なんだか面白くなってきた! あそこは足場が悪いから、馬はここに繋いでおく感じ?」


「ああ、そうなるな」


 お気楽な様子のマリカを連れ、馬の主を探しに行く事になった。

 生きていようが、死んでいようが厄介事。

 とりあえず、猪や狼に出くわさないよう願った。




 マール大森林には、何度か入った事がある。

 既に数十人が捜索中の為、森の中は静まりかえっていた。

 動物たちの緊張が、こちらに伝わってくるような感覚。


(……俺とマリカの《感応》のせいか。悪いな、なるべく早く出て行くよ)


 高く伸びた木々が空を遮り、日が昇っても薄暗い。

 足元には石が埋まり、油断すればすぐに足を取られる。


 《豊穣王》オーウェンが残した、天然の要塞。


「……みんな、周囲の警戒をしっかり頼む」


「了解です!」


 もし、相手が生きていた場合。俺とマリカだけで運ぶのは難しい。

 救助を考え、ジョエルとその部下数名を同行させていた。

 組み立て式の担架も用意してある。


 ──だが、見つからなかった。

 先行して捜索していた者達と合流し、話を聞いた。

 血痕も、見当たらなかったという。


「……多分これ、アタシと同業者じゃないかな? 大怪我してて、どっか隠れてる」


「やっぱり、そうだよな。……二手に分かれて、《感応》で探そう。弱い反応に当たったら、そこを重点的にだ」


 マリカと別れる事に若干の不安はあるが、このままじゃ埒が明かない。

 何かあれば持ってきた笛で連絡する事を決め、捜索を再開した。


 しばらくすると、遠くから笛の音が聞こえた。

 俺達は転ばないように気を配りつつ、現場へ急いだ。


「こっちこっちー!」


 手招きするマリカの元へ辿り着くと──いた。

 顔を真っ白にした、痩せた女。背は、女性としては高め。

 腹部が真っ赤に染まっている。


 血の匂いが薄い。

 ここは動物も多いし、匂い消しだな。


「……生きてる、のか?」


「うん、一応。でも……長くはなさそう」


「担架に乗せよう。マリカ、ユヅルに連絡してくれ。この女はジョエルの村に運ぶ」


「分かった、ジョエル君の村だね!」


 見た感じ、出血が酷い。

 俺に出来る事と言えば、上着を被せてやるくらいだった。


(血液型の判別。準備を進めていたが──もう少し早く取り組んでいたら、こいつは助かったんだろうか)


 そんな感傷を抱きつつ、村へ急いだ。

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