表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/95

21話 影は見ていた②

 深夜のサンクト・ノヴァリス南門。

 民が寝静まった時間帯とはいえ、兵士達は夜も街を守っていた。

 緩みきった空気の中、彼らは今日も職務に励む。


「冬が終わったばかりだと、流石にこの時間は冷えるな」


「だな。もうちょっと薪を足すかあ」


「……ああっ! くそっ、また負けかよ!? 強すぎだろ、お前……」


「へへっ、毎度!」


 兵士達は焚き火に当たりながら、絵札を使った賭け事に興じていた。

 そんな彼らに、交代の時間を告げる四人の兵士が歩み寄る。


「お疲れさん。あんたらは休んでいいぞ」


「お? ああ、そうさせてもらうが……少し早いんじゃ──」


 四つの剣が閃き、門を守る兵達は倒れた。

 死体は素早く隠され、開門作業はすぐに終わった。


「……なあ、《鴉》さん。あんたの後輩って、正直どうなんだ?」


「《揚羽》か? 腕は悪くないと思うぜ。その証拠に……ほら、な」


 仲間の質問に対し、《鴉》は王都を指差した。

 街の各地──厩舎から火の手が上がっている。

 最寄りの厩舎は無傷で、脱出の際に必要な馬の数は足りている。


「なるほど、確かにいい手際だ。……若い奴らも、ちゃんと育ってんだなあ」


「だろ? ……悪い、ちょっと鎧脱ぐの手伝ってくれ」


 身軽になった《鴉》の元に、ノヴァリスの鎧に身を包んだ《揚羽》が合流した。

 鎧を脱ぎながら、現状報告をする。


「お疲れ様です、《鴉》さん。破壊工作は成功しました。後はここから二手に分かれて、時間稼ぎの組と関所突破の組で別行動ですよね」


「そんな感じだな。それじゃあ、とっとと……ちっ、意外に対応が早いな」


 こちらに向かってくるノヴァリス兵が十人ほど。

 住宅街を駆ける彼らに、頭上から矢が降り注ぐ。

 足を止めた兵へ、《鴉》たちが下から襲いかかった。

 上と下からの連携により、こちらは軽い手傷だけで済んだ。


 屋根上から降りた数人の仲間。

 白百合亭の主人もそこにいた。


「じいさん、やるねえ!」


「若いもんにはまだ負けんさ。ほら、嬢ちゃん。持って行きなさい」


 《鴉》のお世辞を軽く流した老人は、持っていたクロスボウと矢筒を《揚羽》に渡した。


「ありがとうございます。……でも、いいんですか?」


「儂はここまでだと、皆に説得されてね。……老人らしく惨めに生き残って、今後もリヒトブリックの為に働かせてもらうさ」


「……それも、立派な仕事だと思います。どうか、お元気で」


 老人が去った後、脱出する側の人員は無事集まった。

 合計九名、欠員無し。馬に跨がり、影と協力者達は門をくぐった。


 夜風を切り裂きながら、《鴉》は呟いた。


「……ちょっと、上手く行き過ぎだな。こういうのは、反動が怖いぜ」


「何か言いましたか? 《鴉》さん」


「いや、何でもない! お前ら、馬の体力には気を配れよ!」




 疲労で走れなくなった馬を乗り捨ててからは、ひたすら走った。

 全員、滝のような汗を流し、体力の消耗も激しかった。

 《鴉》とその一行は離れた場所から、関所の様子を窺う。


「はあ……はあ……ようやく、ここまで辿り着いたぜ……流石に、少し休むか……」


 ノヴァリス神聖王国から、マール連邦にもっとも近い関所。

 長く平和が続いたこの大陸では、関所ですら警備が甘くなる。

 ましてや、ノヴァリスから見て軍事的脅威の低い場所となれば、なおさらだった。


 といっても、膨大な量の金貨と宝石を所有するノヴァリス。

 石造りの丈夫な関所は、素通りを許してはくれなかった。


「……あるのは壁と門、兵舎と厩舎。持ってきた爆薬を上手く使えば、突破出来なくもないか……」


 《鴉》は建物の大きさから、敵の規模を推察した。

 恐らく、多くて十五人。それなりに現実的な数だ。


「……《鴉》さん、あの背の高い男が見えるか? もしかしたら……っ!」


 仲間の中で一際、夜目が効く男。

 彼の興奮した様子を見て、《鴉》は目をこらした。


 門を照らす松明の側で、兵と談笑する男。

 確かに、見覚えがあった。

 ノヴァリス軍で一、二を争う武力と人望の持ち主。


「フェリクス将軍……っぽいな。僻地で勤務する兵への慰労ってか? 最後の最後に大仕事が舞い込んできたぜ……!」


 今までの疲れが吹き飛ぶような驚き。

 他の兵と違い、フェリクス自身は鎧を身につけていなかった。

 彼の象徴である、双剣を腰に下げてはいるが。


「……鎧無しなら、やれるでしょうか?」


 緊張した面持ちの《揚羽》。

 皆の視線が《鴉》に集まる。


「決めた、やるぞ。《揚羽》は俺について来い。他の奴らはゆっくりと散開。いいか? 闇に溶け込め。こっちが合図するまで、気取られるなよ」


 荒い息が止む。

 各々は下げていた黒布を引き上げた。

 即席の部隊。だが、仕える国は同じ。


 地面を這うように進み、奇襲の機会を狙う。


 それぞれが配置に付くと、《揚羽》はクロスボウを構えた。

 他の者達は弓を引き、合図を待つ。


 月明かりの下、《鴉》は手を振り下ろした。

 

「ぐあっ!」


「がっ!」


「てっ、敵襲!! 敵襲っ!!」


 放たれた八つの矢。

 二つ逸れ、六つが兵の喉と胸を貫いた。


 影達は立ち上がり、前進しながら次の矢を番える。

 《鴉》は目まぐるしく視線を動かし、攻めどころを探った。


「突っ込むぞ、《揚羽》!」


「はい!」


 狙ったのは、三人の弓兵。

 飛来する矢を躱し、剣と短剣で喉を切り裂く。

 戦況を確認しようと、二人は振り向いた。


「……化け物かよ」


「……」


 油断は無かった。

 奇襲も上手くいった。


 転がっているのは、七人の仲間。

 しかし、仲間達は倒れながらも、確かに敵を削っていた。

 残る敵はフェリクスと、一人の弓兵。

 


 二人の影は弓兵に向け、同時に暗器を放つ。

 しかし、双剣がそれを打ち落とす。


「……どこの鼠だ、貴様ら」


「さあな。頑張って捕まえてみろよ」


 目で合図し、作戦は決まった。

 二人で斬りかかる──そう見せかけて、《揚羽》はフェリクスを横切った。


 弓兵の胸に短剣を突き刺す。

 同時に、腹のあたりに熱を感じた。


 《揚羽》は顔をしかめながら、視線を落とす。

 弓兵は矢を番えるのを諦め、手にしていた矢をそのまま脇腹へ突き立てていた。


 ──問題、無い。残るはフェリクスのみ。


「……強えなぁ……あんた……」


 全身を切り刻まれた《鴉》は、膝から崩れ落ちた。

 フェリクスが右手を閃かせ、《揚羽》はそれを受ける。

 手の痺れと共に、短剣は弾き飛ばされた。


「自害しろ、女」


 《揚羽》の足元に、銀の短剣が投げられた。

 フェリクスなりの慈悲。

 そんな彼の背後で、影が膨れた。


「……《鴉》さん!」


 フェリクスの背にしがみつく《鴉》。

 硫黄の匂いが鼻をつき、《揚羽》はその行動の意味を理解した。

 即座に距離を取り、門を開けに走った。


「離せ、鼠」


「へへっ、硬いこと言うなって。……ところでよお、なんか……焦げ臭くねえか?」


「……あの第一王女の手下か……お前達が羨ましいよ。そこまでの忠義、私も持つ相手が欲しかった。良ければ、名を教えてくれないか」


「……俺は影。ただの影さ」


 爆発音が鳴り響き、《鴉》とフェリクスは血煙の中に消えた。

 その光景を見届けた《揚羽》は腹部に刺さった矢を折り、布できつく縛った。

 こみ上げた血を吐き出し、ふらつきながら厩舎へ向かった。

 鞍に跨がり、関所を越える。


 馬が走るたび、震動で顔が歪む。

 それでも、手綱は離さない。


「……このまま、海岸沿いにマールへ入国。その先のマール大森林を抜ければ、スタリオン卿に会える……はず……」


 会わなければならない。

 会う。絶対に。


 アルマさんとイライザさん。

 二人を、取り戻す。


 《揚羽》は前へ進む。

 夜明け前の空が、うっすらと白み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ