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【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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20話 囚われの侍女②

 リヒトブリックからノヴァリスへは、馬車で二日足らずの距離だ。

 アルマ達はパルティーヤを経由せず、途中の村で馬を休ませながら三日かけて入国した。


 二国間の仲はあまり良くないが、ここ十年ほどは特に小競り合いも起きていない。

 王族の関係者ということもあり、すんなり門をくぐる事が出来た。


「久しぶりに来たけど、相変わらず景気良さそうだねー」


「そうね。……姫様やウルスラ達へのお土産、何がいいかしら」


 御者に手綱を任せた馬車の中で、二人はのんびりと会話していた。

 サンクト・ノヴァリスの格式ある街並みは、風情と華やかさがあった。


 まずは一日遊べと、姫様から命じられた。

 アルマとイライザは宿を取ってから、王都の外れにある酒場へ足を運んだ。

 

 『白百合亭』は、表向きは何の変哲もない酒場だ。

 だが王女の影にとっては、ノヴァリス国内に点在する連絡地点のひとつだった。

 立地と時間帯もあり、客はほとんどいなかった。


 二人がカウンター席に着くと、変装済みの《鴉》と《揚羽》が隣に座った。

 格好からするに、年の離れた夫婦という設定らしい。


「ようこそ、ノヴァリスへ。今日は我々がお二人を案内しますよ」


「うん、よろしく。二人とも、この国は結構来るの?」


「はい、アルマ嬢。近頃は割と平和ですが、この国は動く金も大きいですからね。怪しい動きが無いか、いつも注意深く諜報活動をしています」


「そっかー。お互い大変だねえ」


 酒場のマスターである老人が、水の入ったグラスを四つ置いた。

 長くリヒトブリックに仕えている男だ。

 

「それで、この国の観光場所といったら?」


 イライザは水を一口飲んでから、頬杖をついた。

 遠慮がちな視線を向けながら、《揚羽》は答える。


「えっと、イライザさん。やはりノヴァリスといえば、闘技場ではないかと」


「闘技場……仕事以外で、血生臭いのはちょっとねえ……」


 敬愛する女性の機嫌を損ねてしまったかと、《揚羽》は狼狽える。

 そんな年相応の態度を見せた彼女に、アルマは助け船を出した。


「いいじゃん、闘技場。せっかくだし、行ってみようよ」


「ははっ! じゃあ、行ってみましょうか。ちょっと見物したら、無難な観光場所にも連れて行きますので」


 《鴉》に先導され、闘技場を目指した。

 この国の国教である、ノヴァリス教。

 主神である《柱神(はしらがみ)》に捧げる催し物として、闘技場は存在する。




 王都中央にある、『ヴァニタス大闘技場』。

 石造りの、巨大な建造物。

 建設では勿論のこと、使用目的から無数の汗と血が流れている場所だ。


 観覧席はかなり埋まっていて、四人一緒に座る席を探すのも一苦労だった。

 中央では二組の剣奴達が名誉と命を懸け、見世物になっていた。


「こういうのも、お客さんを楽しませる工夫ってやつなのかな!?」


「はい! 近頃は一対一で戦っても、なかなか盛り上がらないとか!」


 かなりの歓声が上がっていて、声を張り上げながら話す必要があった。

 戦いが終わり、死体が片づけられる。


 次の試合は、二十人の剣奴と戦車の戦いだった。

 剣奴達は死に物狂いでまとまって戦うも、車輪に付いた刃と戦車からの矢によって数を減らしていく。


 最後の一人が倒れ、切断された頭部が槍によって掲げられる。

 しかめっ面をしたイライザは、もはや興味を無くしているようだった。


「ま、こんな感じです! そろそろ出ましょうか!」


 歴史書を紐解くと、《柱神(はしらがみ)》が血を好むというのは単なる金儲けの為のこじつけという主張もある。

 そんな説を唱えたこの国の学者は、いつの間にか姿を消すそうだ。


 


 血みどろの戦いを見た後の昼食は、イライザの希望で肉料理になった。

アルマに呆れられながら大振りのステーキを平らげた彼女は、今度は観光地巡りへと三人を急かした。


 ノヴァリス王国からノヴァリス神聖王国へ国名が変わった経緯はあるものの、三百年の歴史がある国だ。

 《鴉》は仕事柄、ノヴァリスの歴史に精通していた。

 様々な逸話と共に、侍女二人に講釈交じりで饒舌に語りながら案内した。


「すごいですね、《鴉》さん。お仕事辞めた後は、観光関係で食べていけますよ」


「ははっ、楽しんでいただけたようで」


 すっかり機嫌が直ったイライザは、高台の上で気持ちよさそうに風を受けていた。

 時計台の針を確認したアルマは、護衛の二人に感謝の言葉を伝える。


「二人とも、今日はありがと! 私たちは宿に帰るけど、明日のお昼過ぎくらいにヴァルゲス家に向かうつもりだよ」


「了解です。引き続き、お二人を護衛します。まあ、流石に屋敷から離れた場所で待機になりますが」


《揚羽》は何も言わずに頭を下げ、懐へ忍ばせている短剣へと手を伸ばした。

 明日の護衛に向けて、気を引き締めているのだろう。


「うん、頼りにしてる。……いつも思うけど、なんで王都に屋敷を建てなかったんだろうね?」


「さあ……? 先代のマルセロ様は、物静かな人だったらしいですからね。あまり、王都の雰囲気が好きじゃなかったとか」


「普段は静かだけど、気心が知れた相手には冗談も言うお方だった。……亡くなられたのは、本当に残念」


 イライザの言葉で、しんみりした空気になる。

 宿まで送られた二人は早めに夕食を済ませ、入念に汗を流してから眠りについた。

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