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【更新日は月・水・金・日】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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20話 囚われの侍女①

 ここは地下。

 天井には、網目状のとても大きな金属の蓋がされていて日の光が降り注いでいる。

 でも、どことなく薄暗さも感じる。

 多分ここは、森の中だと思う。


 ──円形の闘技場。

 鉄と土と、血の匂いが混じった空間だ。


 周りから感じるのは、好奇と嘲り、淫らな欲求。

 そんな視線を受け流しつつ、私たちはここにいる。

 ……正確には、連れてこられた、なんだけど。


「じゃあイライザ、適当にやろっか」


「ええ、そうね。アルマからにする?」


「分かった。それじゃ、いくよ」  


 私は右手で剣を振りかぶって、イライザに斬り掛かった。

 それは簡単に受け流される。特に気にせず、攻撃を続ける。

 ある程度体が温まったところで距離を取って、左手で合図する。


(……うわっ! 最近、イライザと稽古やってなかったから驚いちゃった。本気じゃないのは分かるけど、結構キツいなあ)


 今度は私がイライザの剣を受けた。

 二人で軽く打ち合っていると、野次が飛んでくる。


「そっちの背ぇ高い方、いい身体してやがるなぁ」


「もう一人の姉ちゃん、腰の使い方が上手そうだぜ」


 下着の上には長めのシャツが一枚。靴は履かせてもらってるけど、足は丸見え。   

 女っ気の無いこの場所だと、視線が痛いほど突き刺さる。

 鍛錬を終えた私たちは、闘技場の壁を背もたれにして座った。


「……ねえ、イライザ。これから私たち、どうなるのかな?」


 地面に転がっている石をいくつか拾って、さりげない感じで胸元に押し込む。

 体を調べられたのは、牢屋に入れられた時だけ。

 女だから、警備兵も油断してる。どうせ後は、じろじろ見るくらいでしょ。


 今は準備期間だけど、そのうち“実戦”はやらされる。これは避けられない。

 イライザを見ると、私と同じように石を胸元へ隠していた。


「……あまり、期待出来る未来じゃないと思うわ」


「……だよねえー」


 油断していた。だって、相手はうちの国──ううん、リヒトブリック王家と長い交流がある貴族の家だったから。

 とち狂ったとか、そういう感じじゃない。こっちの事情もある程度把握して、私たちを目玉商品にする為に誘拐したんだろう。


「ねえ、アルマ。今回の件、多分姫様は動けない。それはあなたも分かるわよね?」


「私だって、政治の世界で働いてるからね。難しいのは分かるよ」


 ──こんなところで終わりかあ。


 溜め息が出た。

 こういうこともあるって、覚悟はしてた。後悔もしてない。

 ……いや、心残りはあるかな?


(ソウマくん、元気してるかなあ。最後にもう一回くらい、会いたかったかも)


 後悔しても、何も変わらない。

 甘かった。


 王族の元で働くということは、常に危険と隣り合わせなんだ。

 分かっていたつもりだった。

 けれど、まさか自分たちがこうなるなんて。



 ◇◇◇



 数日前。

 リヒトブリック王国にある、エリノア王女の私邸。

 普段はあまり使われない場所だが、使用人達は欠かさず手入れをしている。

 その日、屋敷には珍しく主の姿があった。


「久しぶりね、《(からす)》。それと《揚羽(あげは)》も」


「お久しゅう御座います、姫様。大人の女性になられましたね」


「お久しぶりです、姫様。私どもの顔を覚えて頂き、光栄です」


 応接室には、六人が集まっていた。

 エリノアと、近衛侍女のアルマとイライザ。護衛隊長のライエル。

 そして、王女を影で支える者たち。


「数日後、アルマとイライザがノヴァリス神聖王国へ行くわ。あなたたちには二人が無事に帰ってこられるよう、護衛を頼みたいの。こっそりね」


「なるほど、そういうお話でしたか。我ら《王女の影》、しかと拝命致しました」


「同じく。《王女の影》の一人として、任務を遂行させていただきます」


 二人の態度が何か気に障ったのか、エリノアは額に手を当てていた。

 そんな様子を見て、アルマは主を気遣う。


「あの、姫様。どこか体調が悪いとか、あったりしますか?」


「……大丈夫よ、アルマ。ねえあなたたち、その《王女の影》っていうの、どうしても使いたいのよね? なんだか、恥ずかしいわ……」


「この王女の影という名前、我らが勝手に付けた名では御座います。ですが、今や我らの誇り! 姫様が与えて下さった通り名と共に、大切なものですから」


 主に対し、《鴉》は身振りを大きくしながら訴えた。

 隣に並ぶ《揚羽》も、静かに頷いている。


「ふふっ。忠誠心も厚くて、いいじゃありませんか。ね? 姫様」


「……そうね、イライザ。ねえ《鴉》、ノヴァリスの情報収集は問題無いかしら?」


「はっ、問題無く。侍女のお二人が向かうヴァルゲス家についても、現地の仲間によく調べさせました。今の所、怪しい動きは無いようです」


 《鴉》の返答に、エリノアは満足そうに頷いた。

 側で控えていたライエルは、腕を組みながら首を回した。


「まあ流石に、古くからリヒトブリック王家と商談してるしな。確か最近、代替わりしたんだろ?」


「ええ、ライエル隊長。よくご存知で」


 数ヶ月前に当主が代替わりしたヴァルゲス家。

 現在、一人息子のアマンシオが跡を継いでいる。


 エリノアは大陸の情勢を鑑みて、今のうちに付き合いの長いヴァルゲス家と商談をしておこうと考えた。

 国家運営には、何をするにもお金が必要だから。


「いつか、新しい当主とは顔合わせをしないとね。アルマとイライザは、折角だし旅を楽しんできて」


「了解しました! このアルマ、全力で楽しんできます!」


「なるべく、早く帰ってきますので」


 先に《鴉》と《揚羽》がリヒトブリックを離れ、商材を積んだ馬車と共に侍女二人も出発した。


エリノアは聡明だった。だからこそ、この判断が誤りになり得る可能性を、完全には否定できなかった。

金と欲に魅せられた人間は、やがて刺激を求め始める。

ノヴァリスという国が、そうした欲の受け皿になっていることを、彼女は知っていた。 

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