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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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34話 過大な対価と、合縁奇縁⑤

 アルマとウルスラがこの国に滞在する最後の日。

 今日は、屋敷の周りでのんびりと過ごした。


 二人を生産拠点に連れて行って、クラスメイトと交流してもらった。

 高校時代の俺についての話題が出た時は、必死に話題を変えようとしたが無駄だった。代わりに俺もみんなの黒歴史を思い出させてやった。

 それと、アルマとマリカがいつの間にか仲良くなっていた。


 時折こちらを見ながら、小声で話すアルマとマリカ。

 何があったのかは知らないが、わだかまりは消えたみたいだ。


 屋敷に戻って昼食を済ませた後は、農場に行った。

 ミドリとターニャ、それとトビアスに農作業を教えてもらったり、ミレイユ達と鍛錬をしたり。

 侍女二人は獣人けものびとの身体能力に舌を巻いていたが、楽しそうにしていた。良い刺激になったと思う。


 ウェヌスの神殿に連れて行った後は、エリノアの別荘に。

 俺が管理を任されているので、汚れていないか確認したかったらしい。

 当然、その辺りは問題無い。


 アルマとウルスラは、まるで小姑のように別荘中の汚れを探し回った。

 だが、最終的には白旗を上げ、今後も別荘の管理を俺に任せると言ってくれた。


 書庫の本はあらかた読み尽くしてしまったが、あそこにある本には歴史的な価値がある。しっかり管理していかないとな。


 そんなこんなで、屋敷に帰った俺達。

 夕食を食べ、身体を清め、アルマ達と最後の夜を過ごす。


 ちなみに、ウルスラはグラーネの屋敷で寝るそうだ。

 理由を聞くと、同僚の喘ぎ声を聞きたくないとか。

 顔を真っ赤にしたアルマに追いかけ回されるウルスラは、楽しそうだった。




 アルマの泊まっている部屋。

 行為を終えた俺達は、ベッドの上で抱き合っていた。

 ……まあ、無難に終える事が出来たと思う。


 薄暗い部屋の中で、鼻先が触れ合う距離。

 俺の額の汗を指で拭ったアルマは、その指を俺の口の中に突っ込んできた。

 同じ事をアルマにやり返したり、しばらくそんな感じでじゃれ合う。


「私ね、実は……初めて会った時から、ソウマくんのこと気になってたんだよね」


「……それ、本当か? あの時の俺なんか、ただの小生意気なガキだったろ」


 意外な事実。

 でも悪い気はしなかった。

 今回助けたから、ってだけじゃないらしい。


「ふふっ、確かに! 今だって、何考えてるか分かんないしね。それでも……なんか気になるなって。いやらしい力持ってるくせに、女の子にがつがつしてないし」


「それは、まあ……単に俺が奥手なだけだな。向こうの世界じゃ、俺達みたいな世代は恋愛下手な奴が多くてさ。色々な問題が合わさって、子供の数もどんどん減ってたりする」


「そうなの? どこの世界も大変なんだねえ」


「その点、こっちの世界は楽だな。何もしなくても、女の方から寄って来るから」


「ていっ!」


 アルマは俺の額を軽くひっぱたいてから、真面目な顔になった。

 ころころ表情が変わって面白いな。


「……ありがとね、ソウマくん。これで私、お仕事頑張れそう。……さっきも話したけど、もし子供が出来たら産んでいいんだよね? 姫様にはいいよって言われてるんだけど」


「ああ。産んでくれたら、俺も嬉しいよ。……そうなった場合、子供はこっちで育てるのか?」


「どうだろう? ある程度大きくなるまでリヒトブリックで育てて、そのあとはマールとか。考えたくないけど、子供が人質に取られたりするかもだし……」


「マリアンヌやラファエルの他に、子供の護衛対象が増えるとなると大変か」


「うん。……男の子と女の子、どっちがいい?」


「まあ、どっちでも。元気に生まれてくれればいいさ」


「もちろん、それが一番だけどね。……私はどっちかというと、女の子がいいかな? お仕事がお休みの日は、一緒に服とか買いに行ったり」


 そんな風に、二人で将来について話していた。

 アルマが俺の胸に顔を埋めてきたので、そのまま好きにさせてやった。


 だが、少し経ってから、彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。


「……どうした? どこか痛むのか?」


「……ちょっと、考えちゃった。私、こんなに幸せでいいのかなって。やっぱり、気持ちの整理が出来てないのかも。……ごめんね、こんな時に」


「それが普通だろ。今回、お前は色々あったんだ。……ケイタが目の前で死ぬのを見て、俺も考えさせられた」


 ケイタの名前を出した途端、アルマの身体がびくりとした。

 顔を上げた彼女は涙を流し、後悔を滲ませている。


「……私さ……リョウヘイくんたちと戦うかもって考えて……わざとケイタくんにだけ話したの。自分の仕事とか、ソウマくんと知り合いだってこととか。そうすれば、いざって時に決心が鈍る子だって思ったから。……最低だよね、私」


 アルマがそう考えてしまうのも理解できる。

 ケイタの性格を見抜いていた点では、アルマの分析は外れていない。

 結果として、ケイタはあの場所で命を落とした。


 そしてアルマは、自分がケイタを殺したようなものだと後悔している。


「……なあ、アルマ。あいつの友人だった俺から言わせてもらうと、遅かれ早かれだったと思う。それに、あの三人から離れない選択をしたのもケイタ自身だ。そんな風に、自分を責めるな」


「でも……」


 アルマを抱き締め、優しく言い聞かせる。

 俺も完全に受け入れた訳じゃないが、あいつの友人だからこそ言える事もある。

 ──最後、笑ってたしな。


「ケイタの分も生きてくれ、それが何よりの弔いになる。俺もこの先、ケイタを忘れずに生きていくよ。……それと明日、マールを発つ前に《揚羽》の墓に寄っていくといい」


「……ありがとう、ソウマくん。《揚羽》ちゃんのお墓、出発前に連れてってね。ウルスラも一緒に」


「ああ。……このまま、朝まで一緒に寝るか?」


「うん」


 気持ちも落ち着いてきたのか、アルマの顔に笑顔が戻った。

 俺の頬に触れ、感触を確かめている。


「髭、やっぱり無い方がしっくりくるかも。剃らせちゃってごめんね」


「……アルマの意見としては、似合わないって感じか」


「そんなことないけど……やっぱり、最初の印象があるからさ」


「まあ、そんなもんか。そのうち、似合う顔つきになってくると思うんだが……」


 髭が似合うようになってからではなく、先に髭を伸ばして周りを慣れさせる。

 そう、これは先行投資だ。

 よく分からない事を考えながら、いつの間にか二人で眠っていた。




 次の日。

 侍女二人は《揚羽》の墓参りを終えた後、タチバナと共にマールを離れた。

 タチバナとしては、パルティーヤまでの馬車代の節約が主な理由。

 三人に共通するメリットとしては、道中の話し相手が増えた訳で。


 マールからパルティーヤ、リヒトブリックの間は比較的安全だ。

 野盗に襲われたなんて話は、もうずいぶんと聞いていない。

 それでもやはり、少人数は心細い。


 街道の整備が始まれば、もっと早く、もっと安全になるんだろうか。


 三人を見送った後、俺は書斎にグラーネを呼んで話していた。

 ソファにもたれかかる俺と、窓際で外を眺める我が妻。

 アルマ達が無事に帰れるよう、旅の安全を願っているのかもしれない。


「……客人が帰って、ようやくマールの内側に専念出来るな。別に、邪魔だとは思っていなかったが」


 視線を室内に戻したグラーネ。

 あの三人と過ごせたのは良かったが、やるべき事が山積みなのも事実だ。


 今回の件については、事が片付いてから族長達に報告した。

 秘匿性に加え、緊急性のある話だったので事後承諾になってしまった。

 サイモンとオズワルドは渋い顔をしていたが、やはり亜人救出という功績もあり、俺がお咎めを受けることは無かった。


 その代わり、マールの事業に回す金については、使途を族長達へ報告するよう念を押された。


「それにしても……問題は、金貨の使い道をどうするかだ」


 俺はソファに背を預けたまま、腕を組んで考える。

 使い道は山ほどある。

 だが、その中の一つがとても重要だ。


 これに関しては、条件が整わないと金を使えない。

 それに、繊細な話でもある。

 グラーネを含む、マールで暮らす人々に相談するのも難しい。

 

 なので、しばらくは表に出さず胸に留めておく。


「……ソウマ、今のうちに聞いておくぞ。どういう形になるか分からんが、次はノヴァリスとの戦争になる──お前もそういう考えで間違い無いか?」


「だろうな。……ただ問題は、奴らがどういう経路でマールに来るのかって話だ」


 正面にはマール大要塞がそびえ立つ。

 海沿いに進んでも、その先にあるのは足場の悪いマール大森林。


 前者には兵站の問題があり、後者は装備を軽くして兵力も絞らなければ通れない。

 どちらもあまり現実的な話ではない──だが、相手はあのノヴァリスだ。


 恨みは人の思考をおかしくする。

 いずれにせよ、最大限の備えが必要だ。


「……海岸の要所にいくつか小屋を建てて、見張りをさせるか? それなら何かあった時、すぐに狼煙を上げられるだろう」


 グラーネの案は無難だし、悪くないと思った。

 俺は頷き、ソファから立ち上がる。


「何か思い付いたら、何でもいい。俺に伝えてくれ。……ここからが正念場だ」


「ああ、分かっている」


 グラーネと共に書斎を出た。

 屋敷の廊下を歩きながら、気を引き締める。


 ──負ける訳にはいかない。

 俺達はこの国で、ずっと生きていくのだから。 

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