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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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34話 過大な対価と、合縁奇縁②

 フィネスキの様子を見た後、午前中は近場の生産拠点を見て回った。

 昼食を済ませた午後は、ミドリの管理する農場で畑仕事に汗を流していた。


「なあ、トビアス。結構日差しが強いけど、大丈夫か? 少し日陰で休んでたって、誰も文句は言わないと思うが」


「はっは、大丈夫ですよ。この老いぼれ、何十年と畑仕事をやっておりますので」


「そうか……。俺なんか、こんな日は頭が茹で上がるようで大変だよ。まあ、適度に水は飲んでくれ」


 半年ほど前から、この農場で働き始めたトビアス。

 仕事熱心で、農業の知識も豊富。ミドリ達とは上手くやっているようだ。

 彼の働きぶりを見てからは、グラーネの元配下であるミレイユ達が仕事をさぼる時間が減っているとか。


「ソウマさん、喉渇いてないですか? お水、ありますよ」


「ありがとう、ターニャ」


 ターニャから水の入った皮袋を受け取り、水分を補給していると、彼女は持っていた手ぬぐいで俺の汗を拭いてくれた。


「よっ、熟年夫婦! 早く孫の顔が見たいねえ」


「お前はいつから俺の母親になったんだよ」


 ミドリからのボケを適当に返す。

 周りで農作業に励んでいたミレイユ達が笑っている。

 平和なもんだな。


「……おや、ソウマさん。屋敷の方から、誰かが走ってきていますよ」


「お? ……ああ、あれはタリアだな。悪いみんな、ちょっと行ってくる」


 トビアスのやつ、年寄りの癖に目が良いな。

 俺なんかスマホ世代のせいか、この距離だとぼんやりとしか見えないのに。


「ソウマ様ー! リヒトブリックからの先触れが来たよー!」


「そうか、分かった! これから屋敷に帰るよ!」


 タリアが持ってきた知らせにより、俺の畑仕事はお開き。

 屋敷に戻り、汗を流して着替えた。


 ノヴァリスとの話し合いもまとまっただろうし、その辺りをアルマ達から詳しく聞かせてもらうか。




「みんな、久しぶり! そっちは元気してた?」


「ようこそ、アルマ。こっちは相変わらず元気だ。……そっちも、元気そうだな」


「……お久しぶり」


 俺の屋敷の玄関で、アルマとウルスラを出迎えた。

 出迎えたのは、俺とマモルとグラーネ。

 それと、せっかくだから森人の使用人達にも並んでもらった。


 客人を迎える練習になるし、俺もちゃんと貴族をやっているんだと示せるからだ。


 手紙には書いてあったが、アルマ達は大人数でマールを訪れた。

 侍女の二人が乗ってきた馬車とは別に、八人のリヒトブリック兵が二台の荷馬車を護衛していた。


「アルマさんもウルスラさんも、久しぶり。僕たちの方は、ソウマといろいろ頑張ってるよ」


「マモルくん、元気そうで良かったよー! ね、ウルスラ」


「うん。……ちょっと痩せた?」


「そうかな……? 脂肪は減ったかもしれないけど、筋肉が増えたからなあ。体重は前より重くなってるかも」


 ウルスラのやつ、相変わらずマモルには優しいな。

 ちょっと笑顔だし。


「……ねえ、マリカって人はどこ? 同僚がお世話になったから、お礼を言おうと思ってたんだけど」


「マリカは出かけてる。夕方までには帰るって言ってたぞ」


「……そう」


「この子、ちゃんと大人になったから! ソウマくんとも仲直りするつもりで来たもんねー?」


「……ちっ」


 おいエリノア、大丈夫か?

 なんかこいつ、仲直りする気なさそうだぞ。

 

 そんな俺とウルスラを見ながら、グラーネは笑いを堪えていた。


「くっく……。さあ、お前達、中に入れ。……なあソウマ、どっちの屋敷に泊まらせる?」


「俺の屋敷でいいだろ。アルマとウルスラの荷物は使用人に運ばせるけど、後ろの荷馬車の方は……?」


「ふっふっふ。荷馬車の積み荷は、国王様と姫様から。ソウマくんにご褒美だよ」


「そりゃ助かる。じゃあ、そっちの積み荷は外にある倉に運ぶか。ダフニー、お前は兵達を倉に案内してやってくれ。他のみんなは侍女の二人をもてなすんだ」


「「「「「「かしこまりました」」」」」」


「おおー。なんかソウマくん、貴族っぽい!」


「……いやらしい」


「いやらしいのはどっちだよ」


 まあそんな感じで、アルマとウルスラを無事屋敷に迎え入れることが出来た。


 肝心の積み荷だが、箱を下ろす時の重さと鈍い音からして、どうやら金貨らしい。

 箱を倉に運び終えた後、俺も箱の数と封印の確認に立ち会った。


 受け取りの書類にサインをした後、兵達に休息を勧めたが断られてしまった。

 兵達は短い休憩の間に馬へ水と飼料を与えると、こちらが用意した携行食を受け取り、すぐに帰路へ就いた。


 仕事とはいえ、すぐに帰国か。

 街道沿いの宿に泊まったり、馬を休ませたりはするんだろうが。

 公務員みたいなもんだし、なかなか大変だよな。


 


 アルマとウルスラの部屋に荷物を運んだ後、二人を応接室に案内した。

 俺とグラーネで話を聞くことにした。

 書類か何か入っているのか、アルマは応接室の中に鞄を持ち込んでいる。


「それじゃ、早速本題に入らせてもらうね」


「ああ、頼む」


「……アルマ、その前に。先に渡しておいたら?」


「ん? ……あっ、そうだね! じゃあ、ええっと……」


 アルマは鞄を開け、両手に収まる大きさの木箱と手紙をテーブルの上に置いた。


「それは?」


「これはね、ルガール国王陛下から。手紙はソウマくん宛てで、木箱の方を預かって欲しいんだって。あっ、手紙はソウマくん一人で読んでね。手紙の中に鍵も入ってるみたいだけど、木箱も開けちゃ駄目だってさ」


 ルガール国王から、俺にか。

 気になるが、まあ今はいい。


「分かった、預かっておく。……それで、本題の方は?」


「うん、それじゃあ──ソウマくんは本日より、男爵から子爵へと陞爵しょうしゃくになります、やったね! ……はい、これが国王陛下からの書状だよ」


 アルマから陞爵の書状を受け取り、軽く目を通す。

 どうやら、ノヴァリスから亜人の奴隷を解放した功績に対するものらしい。

 侍女を救出した事については、やはり公表を避けるようだな。


 リヒトブリック国王からの、正式な爵位授与。

 五つの亜人部族と人間達が寄り集まっただけのマールには、それを正面から否定するだけのはっきりした仕組みが無い。


 実際、数年前にも俺は男爵の位をルガール国王陛下から授かっている。

 なら、俺は今日から子爵様ということになるんだろう。


「……ついにお前が子爵か。ふふっ、並ばれてしまったな」


 先輩貴族のグラーネに肩を叩かれたので、肘で小突き返した。

 爵位自体には興味は無いが、肩書きとしては使える。

 

「陞爵の書状、ありがたく頂戴する。それで、倉に運んだ木箱の中身は?」


「なんとなんとっ……金貨二万枚でーす! どう? びっくりした?」


「ほお……! 良かったじゃないか、ソウマ」


「ああ。……流石に額が大きいな」


 金貨二万枚。

 これだけあれば、ひとまず高炉や銃の製造費には困らない。

 安心して軍備増強を進められるな。


「……まあ、そっちの話はもういいでしょ。ノヴァリスからの賠償金、さっさと言っちゃいなさいよ」


「もう、ウルスラったら……。こういうのはね、順序が大事なの!」


 アルマは衣服を整えてから、小さく咳払いをした。

 それから応接室のドアをちらりと振り返り、顔を寄せろと身振りで伝えてくる。

 俺とグラーネは膝に手を乗せながら、テーブルの方に身体を近づけた。


「……姫様がノヴァリスと交渉した結果、金貨一千万枚を賠償金として支払わせることで、話がまとまったの。分け前をどうするか、ソウマくんに聞いてきてってさ」


 ──最初は、アルマが何を言っているか分からなかった。 

 現実離れし過ぎている。


「……いっ、いっせん、まん……?」


 隣のグラーネを見ると、我が妻ながらずいぶんと間の抜けた顔をしている。

 多分、俺も同じ顔になっているだろう。


 そんな俺達に対し、侍女二人はそれぞれの態度を見せる。

 アルマはただ、にこにこと微笑むだけ。

 ウルスラは茶菓子に手を伸ばし、口に放り込んだ。

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