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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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33話 未来の義父と、それぞれの帰国④

「よう、アルマ。姫様に呼ばれたのか?」


「どうも、ライエルさん。はい、お呼ばれしてます」


 リヒトブリック城にある、エリノア王女殿下の私室。

 用事が終わったら来るように言われていた私は、扉の前に立つライエルさんに軽く頭を下げてから、ドアをノックした。


「姫様、アルマです」


「ええ、入ってちょうだい」


 部屋の中に入ると、姫様は壁際にあるソファで本を読んでいた。

 本を閉じた姫様は、ソファの端に寄ってから自分の太腿を指し示している。


 ……ここ最近、ずっとこんな感じなんだよね。

 別に嫌じゃないんだけど、やっぱり落ち着かない。

 私たちが帰ってきて、姫様が喜んでくれてるのは嬉しいんだけどさ。


「じゃあ、その……失礼しますね」


 靴を脱いで、ソファに上がる。

 それから足を畳んで、姫様の太腿に頭を乗せて膝枕。

 昨日はイライザだったから、今日は私の番。


「……それで、どう? 近衛侍女の仕事、思い出してきたかしら」


「はい、姫様。しばらくリヒトブリックを離れてましたけど、なんとか。でも、お城の中とかは迷ったりしないです」


「へえ、そうなの。あなたたちがここで働き始めて、結構長いわよね」


 私は頭の中で指を折りながら、お城での生活を思い返した。

 最初はただの侍女だったけど、色々あったなあ……。


「ええっと……十二年になります。最初、私たちが姫様にお会いしたのが十五歳でした。私と、イライザと、エメリンの三人で」


「そうね。それから、私がウルスラを連れてきて……。あなたは二十七、私は今年で二十三になったのね」


「……お互い、大人になりましたねえ」


「ふふっ、本当ね。私なんか、子供まで産んだもの」


 姫様はそう言って、自分のお腹を撫でた。

 今の姫様は十代の頃と違って、全体的に程よい肉付きで健康的な体型。

 昔はあまりご飯食べてくれなかったから、本当に良かった。


 特に、この太腿がいいよね。

 むっちりしてて、頭が幸せ。


(……おおっと、いけないいけない! 変なこと考えちゃった)

 

 そんな感じで、しばらく姫様に頭を撫でられていた。

 ノヴァリスで囚われていたのが、まるで嘘みたい。


 目を閉じて、でも眠ったりしないように。

 戻ってきた日常を噛み締める。


 ──私とイライザがリヒトブリックに帰ってから、二週間が過ぎた。

 姫様や同僚のウルスラ、エメリンはもちろん、カール様やヘクトル王子、ライエル隊長も私たちの帰還を喜んでくれた。


 ルガール国王陛下も、私たちの手を握ってくれた。

 私にとって、ここが居場所。

 守るべき人を守る。改めてそう思った。


 姫様の指が、私の髪から離れた。

 ……なんだろう、真面目な話かな。


「……ああ、そうだわ。ここにあなたを呼んだのは、膝枕だけじゃないのよ」


「そうなんですか?」


「あなたとウルスラに、マール連邦に行って欲しいの。ノヴァリスとの交渉も終わったし、今回の件についてソウマに報告しないと」


「私と……ウルスラですか? 行くなら、イライザかと思ってました」


「良い機会だし、ソウマとウルスラに仲直りしてもらおうかなって。あなた、ウルスラをちゃんと見ていてちょうだいね」


「……確かに、良い機会ですね」


 同僚の私たちをソウマくんが助けてくれたんだし、ウルスラも前よりは大人になった。まあ、多分大丈夫でしょ。


「それと以前、リヒトブリック王家からソウマに対して、爵位をあげたでしょう? 今回の件の報酬として、男爵から子爵に陞爵しょうしゃくさせるわ。……もちろん、表向きは奴隷を救い出した功績として。金貨二万枚と一緒にね」


「二万枚……! 私とウルスラだけじゃ怖いので、リヒトブリックの兵隊さんも連れて行きたいです」


「ええ、手配しておくわ」


 私たちがノヴァリスに囚われていたことを公表出来ないのは、政治的な問題だ。

 事実を伏せたこと自体が、今回の賠償交渉でも大きな材料になったはず。


 交渉はもう終わったみたいだけど、詳しい内容までは聞いていない。


「ソウマくんが子爵、かあ。……その、ところで姫様。ノヴァリスからの賠償の話、結局どうなったんですか?」


「……気になるわよね? じゃあ、ちょっと耳を貸してちょうだい」


 顔を傾けて、気になっていた話を聞く。

 ぼそりと告げられた金額に、私は目を見開いた。


「ほっ……本当ですか、それ……!?」


「ええ、本当よ。だって、あの帳簿の山は、使い方次第でノヴァリスを滅ぼせるんだもの。向こうから金額を提示してきたけど、私も流石に驚いたわ」


 確かに、国が滅ぶかどうかの不祥事だ。

 だから、あの国は差し出した。

 たとえ大きな代償を払ってでも、国を動かす力を手放すわけにはいかない。


「……あなたやイライザ……そして、今までの被害者にとって、私の選択が受け入れがたいものだというのは理解しているつもりよ。それでも、これがリヒトブリックにとって、最善のやり方だと思ったの」


「はい……。私も、国に携わる仕事をしているので。理解しているつもりです」


 今回の事実を公表すれば、ノヴァリスと戦争になるかもしれない。

 もしノヴァリスと戦争になったとしても、リヒトブリックなら互角以上に戦える。


 でも、そこにアドラーが横やりを入れてくる可能性がある。

 アドラーがどう動くか分からない以上、姫様にはこれ以外の選択肢がなかったんだと思う。


 結局、私たちが囚われていたあの場所も、変わらず続いていくのかもしれない。

 今度はどこかに場所を移したり、出来る限り証拠を残さないようなやり方で。


 私は息を一つ吐いてから、起き上がった。

 そろそろお仕事に戻らないと。


「それじゃあ、私はこれで」


「待って、アルマ。私からあなたに、提案があるの。……主としてではなく、あなたを昔から見てきた一人としてね」


「なんでしょうか?」


 姫様は私の手を握り、真面目な顔になった。


「イライザからあなたのこと、相談されたわ。……ソウマのこと、好きなのよね?」


「……いやっ、あの。とっ、突然そんなこと言われても……」


 イライザのやつ、余計なことを……!!

 私が困惑していると、立ち上がった姫様から抱き締められた。


「あなた、意外に乙女だもの。そんなあなたにとって、ソウマは白馬の王子さま。いいのよ、自分の気持ちに正直になって」


「……でも、姫様は……」


「私とソウマは友人、かけがえのない盟友よ。彼と出会った時から、ずっと。今の私にはカールと、マリアンヌとラファエルがいる。……あなたが望むなら、近衛侍女だって辞めていいの」


「そんな……! 私もイライザも、ずっと姫様にお仕えしたいと思っています……。だから、どこにも行きません」


 私から離れた姫様は、優しく微笑みかけてくれた。

 ──まるで、お母さんとかお姉ちゃんみたい。

 私の方が年上なのに。


「ありがとう、アルマ。……それはそれとして、ソウマには抱かれてきなさい。その方が、色々とすっきりするでしょう?」


「ええー……」


 命令ではないけれど、有無を言わせないような雰囲気。

 まあ……今までそういう機会にも恵まれなかったし?

 もし、初めての相手がソウマくんだったら──。

 

 それは凄く、幸せなことだと思う。


「……姫様のおかげで、決心が付きました。いい感じの下着とか準備して、マールに行ってこようと思います」


「ええ、行ってらっしゃい。……それと、お父様からソウマ宛てに、渡して欲しい物があるそうよ。私が預かっているから、出発の時に渡すわね」


「国王陛下から、ソウマくんにですか……? 分かりました、しっかりとお届けしますので」


 姫様の私室を出て、中庭を通りかかった。

 マリアンヌ様とラファエル様が、カール様に見守られながら遊んでいる。


 そんな三人の側で控えている、私の大好きな同僚たち。

 私に気付いたイライザが、こっちに向かって手を振っている。


「アルマ、あなたもいらっしゃい!」


「うん、今行くー!」


 やっぱり私、今の仕事が好き。


 《鴉》さん、《揚羽》ちゃん、ケイタくん。

 そして、私とイライザを助けるために死んだ人たち。

 ……あなたたちの分も、頑張って生きるから。


 それが私なりの、恩返しと罪滅ぼしです。

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