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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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33話 未来の義父と、それぞれの帰国②

 次の日、ダランテ家の別邸前。

 俺とマリカはマールへ、アルマとイライザはリヒトブリックへ。

 それぞれの国に帰るという事で、別れの挨拶だ。


 見送りは、ロメオとプリシラが。

 あの頑固親父は、朝早くに出かけていったらしい。


「……ソウマくん、今回は本当にありがとう。もっとゆっくり話したいけど、私たちも早く姫様に報告しないといけないからさ。マリカさんも、助けに来てくれてありがとうね」


「ああ、分かってる。色々あったが、久しぶりに会えて良かった。元気でな」


 アルマと握手を交わすと、俺の手は彼女の両手で包まれた。

 だが、なかなか離してくれない。


「二人とも、無事で何より! そいじゃねー! ……アルマさん、アタシとも握手しよっかー!」


 横からマリカが俺の手を引き抜き、にこにことアルマに手を差し出した。


「あっ! そ、そうだねー!」


 どこかぎこちない様子で握手を交わす、アルマとマリカ。

 二人とも笑顔なのに、妙に空気が張り詰めている。

 俺にはよく分からないが、女同士には色々あるらしい。

 

「ソウマさん、お元気で。マリカさんも、またお話しましょうね。……しばらく見ないうちに、すっかり女泣かせになったみたいですね」


 イライザと握手中、小声で囁かれた。

 突然何をと思ったが、アルマがなんだか照れくさそうにしているのだけは分かった。


「……ああ~~、もうっ! さっさと帰るよ、ソウちゃん!」


「だな。それじゃあロメオ、世話になった。プリシラも、またな」


「こちらこそ。落ち着いたら、僕が姉貴をマールまで送り届けますので」


「じゃあね、ソウマ。……ほんとに、結婚してくれるんだよね?」


「親父さんには、もう一発くらい殴られるかもしれないけどな。俺の気持ちはもう決まってる、安心してくれ」


「……うん。またね」


「ああ。……そっちも、元気でな!」


「ええ、あなたたちも!」


 アルマ達の荷馬車の御者台にいる《梟》。

 彼女に手を振ると、向こうも振り返してくれた。


 荷台には、例の帳簿が詰まった木箱がしっかり乗せられていた。

 雨風を凌ぐほろもあるので、木箱もアルマ達も大丈夫だろう。


 俺とマリカはそれぞれ御者台に座り、ダランテ家を後にした。

 二台の荷馬車には、亜人達が10人ずつ乗っている。

 幌付きの荷台の床には藁が敷かれ、人数分の毛布もある。

 数日分の水と食料も。


 意外と言っては失礼だが、グイドが朝早く出かける前に用意させていたようだ。

 有り難い。


 お次は宿に泊まらせていたフィネスキを回収。

 マールから乗ってきて、ダランテ家に預けていた早馬の一頭へ乗せる。

 あいつが亜人達の近くにいると不安がらせるからな。


 もう一頭の早馬は、荷馬車の後ろに繋いで連れていくことにした。

 二頭とも不満そうな顔をしている。

 行きのように走れないのが、よほど気に入らないらしい。

 帰る途中、なるべく休憩を挟んで、少しは脚を伸ばさせてやるか。


「分かってると思うが、逃げても無駄だ。マリカなら、すぐに追いつく」


「……ふん、今さらどこへ行けというのだ。そら、さっさとマールに連れて行け」


「先頭を歩かせるが、俺達から離れすぎるなよ」


 フィネスキは軽やかに馬へ跨がった。

 こういうところだけは、さすが貴族育ちというべきか。

 軽口を叩く余裕もあり、馬にも難なく乗れる。体調の方は問題無さそうだな。


 悪徳貴族を先頭に、俺達はヴァレンツァの街を進む。

 そんな時、横から声が掛かってきた。


「おーい、ソウマ! 俺だ、俺! ちょっと話さないかー!?」


「……タチバナか! 久し振りだが、もう帰るところだ!」


「うわっ、タチバナくんじゃん! おひさー!」


 しばらくぶりに会った級友。

 俺とマリカは驚きつつ、挨拶を交わした。


 実はこの国には、アサクラの他にもう一人クラスメイトが住んでいる。

 それがこいつ、たちばな 理央りお

 争いが嫌いな奴なので、巻き込まないようにと接触は避けていた。


「マジかー! でもせっかくだし、ちょっと話そうぜ! つーわけで……ほいっと!」


 そう言うなり、タチバナは走る荷馬車の横に並び、俺の御者台へ飛び乗ってきた。

 ひらひらした服を着ているが、車輪に裾を巻き込まれたらどうするつもりだ。


「……危ないぞ、お前」


「へへっ、悪い悪い。……びっくりさせちゃった? ごめんね、可愛い子ちゃんたち☆」


 タチバナは荷台の亜人達にウインクをかました。

 長い黒髪に長いまつげ、目元と口元のほくろが無駄に艶やかだ。


「……神能、使ってないよな?」


「だーいじょうぶだって。……なんかワケありって感じか、やっぱり」


「そうだ。そっちは、相変わらずで安心したよ」


 こいつの神能は《歌姫》。

 間違いなく男だが、そういう能力を神柱石から授かっている。

 小さい頃から母と姉に女っぽい服を着せられたりしているうちに、自分自身もその格好が気に入るようになっていったらしい。


 歌声には軽い魅了効果がある。

 もっとも、歌っていなくてもこの見た目なので、男から声を掛けられることはあるんだとか。


「……その人たち、ノヴァリスから?」


「ああ。これ以上は、今ここで話せることじゃない」


「そっか」


 タチバナは荷台を振り返った。

 さっきまでの軽い笑みを消し、亜人達へ申し訳なさそうに頭を下げる。


「大変だったのに、空気読めなくてごめんね。驚かせちゃったよな」


 まあ、悪い奴じゃないのは知っている。

 目立つ入国の仕方をしてしまったことで、こいつにも噂が聞こえてきたらしい。


 俺達に会うために、ダランテ家の近くにある宿屋で動きを見張っていたそうだ。 

 ストーカーかよ。


 タチバナはしばらく荷台を見ていたが、やがて俺へ顔を向けた。


「……なあ、ソウマ。俺もマールまで行っていいか?」


「……理由は?」


 何となく見当は付くが、本人の口から聞いておきたかった。


「お前、ノヴァリスで相当派手なことやったんだろ。この先、マールがどうなるか分かんないじゃん。今のうちに、クラスメイトに会っとこうかなって。それに、まあ……安全なうちに観光もしてみたいし?」


「なるほどな。構わないが、ただ乗りは無しだ。荷馬車の御者くらいはやってもらうぞ」


「いいぜ、馬車なら扱えるし。……おーい、マリカ! そっちの荷馬車、俺が代わるから! ソウマの隣に行っていいぞ!」


「あ、ほんとに!? ありがとー! ……みんな、アタシに何か用があったらこいつの頭、ひっぱたいて教えてね」


「そうそう! ひっぱたくなり噛み付くなり、好きにしていいからさ」


 俺達は街道へ出る前に、一度荷馬車を止めた。

 タチバナはマリカの乗っていた荷馬車へ移り、代わりに手綱を握る。

 マリカは俺の隣に座ると、にこりと微笑んだ。


 パルティーヤの国境を越えた頃には、太陽が真上に昇っていた。

 俺達は一旦休憩を取ってから、また荷馬車を走らせた。

 ここからマール連邦の入り口であるマール大要塞までは、まだ六日ほど掛かる。

 行きは早馬を使えたが、帰りは亜人達を乗せた荷馬車二台を連れている。

 彼女達に無理をさせるわけにもいかない。


「ねえ、ソウちゃん」


「ん?」


「マールに帰る前にさ、ちょっとだけ……聞いてほしい話があるんだけど」


 今までとは違う、妙に真面目な声だった。

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