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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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33話 未来の義父と、それぞれの帰国①

 ノヴァリス側の国境を抜けてから、緩衝地帯を進むこと二日。

 顔が利くロメオのおかげで、パルティーヤには無事入国することが出来た。


 当然、パルティーヤ側の国境でも止められた。

 荷馬車の中を確認した兵士の顔色が変わり、責任者が呼ばれ、最後にはロメオの父親の名まで出すことになった。


 やはりというか、すれ違う人々の視線が荷馬車へ集まってしまう。

 だが、それを気にしている場合ではない。


 首都ヴァレンツァに着いた俺達は、早々にダランテ家に向かった。

 途中にある時計台を見ると、午後二時を過ぎたあたり。

 王女の影達は、《梟》を除いてパルティーヤ国内にある複数の潜伏場所へ散っていった。


 俺とロメオは、そのまま本邸に。

 亜人達とアルマとイライザ、《梟》はロメオが暮らす別邸へ。

 マリカには、亜人達の付き添いを頼んである。

 まずは身体の汚れを落とし、温かい食事を取って、少しでも休んでもらわなければならない。


 フィネスキだけは、別邸には連れていかなかった。

 あいつの姿が視界に入るだけで、亜人達の顔が強張る。

 直接何をしていたのかはさておき、彼女達にとってフィネスキは加害者側の人間だ。助け出したばかりの今、同じ屋根の下に置くわけにはいかない。


 なので、フィネスキはダランテ家が首都で経営している宿屋の一室に隔離した。

 もちろん、自由にさせるつもりはない。

 財布と武器になりそうな物を取り上げた後、ロメオの指示で、信用できる使用人を二人、見張りに付けてもらった。


 幸か不幸か、ロメオの父親であるグイドは屋敷にいた。

 本邸の玄関前で俺達を待っていた彼は、明らかに機嫌が悪そうだった。


 ロメオは引きつった笑みを浮かべ、父親の前に進み出た。


「……ただいま、父さん。先に謝っておく。予定が、かなり変わった」


「ほう、予定か。話してみろ」


「……囚われていた人たちを、助けてきた。リヒトブリックのお姫様に仕える近衛侍女と、亜人の女の人たちだ」


「お前は私に、興行と商談目的でノヴァリスに行くと言ったな? だが、劇団だけが先に帰ってきた。座長のニコレッタにロメオはどうしたと聞けば、はぐらかされるだけ。ようやく帰ってきたと思えば、なんなんだ、これは……!?」


「だから、悪かったって。……でも僕たち、亜人の人たちを沢山救って──」


「このっ……大馬鹿者が!!」


 ロメオの右頬を、グイドは平手で叩いた。


「何をしたか分かっているのか!? これでダランテ家は、ノヴァリスから恨みを買った! あの国の為政者や神官がどんな奴らか、お前が子供の頃から教えてきただろう! なのに、何故……っ!!」


 グイドの視線が俺に向く。

 ここはなるべく、刺激しないような物言いを心掛けねば。


「……グイドさん、ロメオを巻き込んだのは俺だ。出来る限りの責任は取るし、今後はより一層、ダランテ家に利益をもたらすように努力を……」


「ほざくなあっ! 若造がっ!!」


 右頬に痛み。

 ロメオ同様、頬を叩かれた。

 ──口の中が切れたな、これは。

 ノヴァリスじゃ手傷を負わなかったが、人の親には勝てないということか。


「父さん、違うんだ。僕が決めた。ソウマさんだけのせいじゃない」


「……考え無しの、大馬鹿者どもが……!!」


 息を荒げていたグイドは落ち着いたのか、屋敷の中に入っていった。

 俺とロメオは、どうしたものかと顔を見合わせる。


「……二人とも、まずは風呂に入れ。落ち着いたら、リヒトブリックの近衛侍女とやらも連れてこい。詳しい話を聞かせろ」


 グイドはそう言い残し、玄関は閉じられた。


「とりあえず、お風呂ですね」


「……だな」


 俺達は別邸で身体を清めた後、休息していたアルマとイライザに声を掛けた。

 二人は、まず軽く腹ごしらえをしてから話し合いに同席すると言ってくれた。


 ロメオの父親に事情を説明しなければならないのは、二人にとっても同じ。

 リヒトブリックの人間として、エリノアやルガール国王の代わりにダランテ家を守る意思を伝える必要がある。


 それに、俺にとってグイドは未来のお義父さんだからな。

 わだかまりが残らないよう、きちんと納得してもらわなければ。


 何より、協力してくれたロメオに最大限報いたい。

 商人の家という事情も考慮し、話す内容を考えておこう。


 本邸に向かう前にマリカから聞いたが、亜人達は広い浴場を怖がって入ろうとしなかったり、ソファに座らずに床に座ったりと、なかなか大変だったそうだ。

 ……焦らずに、ゆっくりとだな。




 本邸の応接室。

 テーブルを挟んで、反対側のソファにはグイドとロメオ。

 こちら側のソファには俺とアルマ、イライザが座っていた。

 

 俺達はまず、ノヴァリスから持ち出した帳簿の一部をグイドに見せた。

 グイドはしばらく帳簿をめくっていたが、やがてそれをテーブルの上に置いた。


「……実に恐ろしい。あの国の噂は聞いていたが、ここまで腐っていたとは」


 深く溜め息をついた彼の顔には、隠しようのない嫌悪が浮かんでいる。

 アルマはそんな彼の様子を見ながら、慎重に口を開いた。


「申し訳ありません、グイドさま。私たちを救うために、ご子息が危険を冒すような事態になってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。ですが、ロメオさまが力を貸してくださらなければ、私たちも、捕らわれていた亜人たちも、国境を越えることは出来ませんでした」


 一度深く頭を下げてから、アルマは言葉を続ける。


「帰国次第、エリノア王女殿下には必ずその旨を報告いたします。ノヴァリスから報復があった場合、リヒトブリック王家が必要な支援を惜しむことはありません」


 グイドは何も言わない。

 それ自体は当然のことだ。家を危険に晒された以上、守ると約束されただけで納得出来るはずもない。


「その帳簿は、ほんの一部です。荷馬車で運んできた残りの帳簿を含めて、私たちがリヒトブリックに持ち帰ります。これだけの証拠があれば、責任を問うための十分な材料になるでしょう」


 アルマの言葉を聞き終えると、グイドは肩をすくめた。


「当然のことだな。……それで、リヒトブリックは我がダランテ家に対し、どう償うつもりかね?」


 態度を軟化させないグイド。

 彼はただの商人ではない。共和制であるパルティーヤの中枢人物だ。

 しかも、家を危険に晒されたとなればな。


「グイド様。現時点で確約は致しかねますが、私どもから提案がございます」


「……とりあえず、聞くだけは聞こう」


 ダランテ家が用意した衣服に身を包んだイライザ。

 背筋を伸ばし、王女に仕える近衛侍女としての役割を果たそうとしている。


「リヒトブリック王家は、古くからヴァルゲス家と取引を続けてまいりました。ですが、当主であるアマンシオは死亡し、他に跡を継ぐ者も存在しません。加えて、為政者や神官までもが人身売買に関与していた以上、王家がノヴァリスとの交易を見直すのは避けられないでしょう」


「……つまり、ヴァルゲス家に代わる新たな取引先が必要になる、と?」


 グイドの問いをイライザは否定せず、静かに微笑んだ。

 これは流石に食いつくか。商人だしな。


「正式な決定は、エリノア王女殿下が下されることです。ですが、私たちはダランテ家を新たな取引相手として推薦いたします。今回の御恩に報いる意味でも、そして何より、信用出来る方々と取引を続けるためにも」


「ふむ……。それが実現した場合、ダランテ家にとって大きな利益になるだろうな」


 リヒトブリックの対応に、グイドはある程度満足したようだ。

 だが、それで終わりではないらしい。今度は俺に視線を投げる。


「……王家からの話は分かった。では、お前はどうするつもりだ、スタリオン」


「王家からの支援については、アルマ達がエリノア王女に伝えてくれる。だが、俺は今ここで約束出来る。ダランテ家に報復が及ぶなら、スタリオン家は必ず力になる」


「……ふん。ただの貴族に、どこまで出来るかは知らんがな」


「それと、ダランテ家との関係については、もう一つ伝えておくことがある。俺は以前、ロメオと街道整備の話をした。その時に、プリシラさんとの縁談についても話を進めている。つまり、スタリオン家とダランテ家には、繋がりが出来たことになる」


「待て、若造。……縁談? 一体何の話をしている?」


 グイドの隣に座っているロメオに視線をやると、顔を逸らされてしまった。

 ……はあ、そういう事か。


「ロメオ、お前……グイドさんに伝えてなかったのかよ」


「……縁談の話をした次の日には、もうこの国を出てしまったので」


「次の日だと!? ならば、その日のうちに私へ話す時間はあっただろうが!」


 グイドに怒鳴られ、ロメオはばつの悪そうな顔をしている。

 確かに、その通りだ。俺から助け船を出せる話ではない。


「街道の整備の話をしている時、ちゃんと姉貴を呼んで話をしたよ。最後は姉貴が決めた。……父さんは、姉貴を厄介者扱いしてきたじゃないか。家を出ていくなら、その方が都合がいいんだろ?」


「お前という奴は……!! なぜ私に相談しない!?」


「ダランテ家の跡取りは僕だ! ずっと父さんに見放されてた姉貴の面倒を見ていたのも僕だし、姉貴はこの家を出たがってる! 父さんは、姉貴がこの家でどう思って暮らしていたか、ちゃんと見てたのかよ!!」


 グイドは何も言い返さなかった。

 握り締めた拳を震わせ、ロメオを睨みつけている。

 やがて勢いよく立ち上がると、大声で怒鳴った。


「……勝手にしろ!! スタリオン、お前もさっさとこの国を出て行け!!」


「悪いが、それは出来ない。救出した亜人達をもう少し休ませたい。明日まで待ってくれ」


「──っ! ……明日までは待つ。必要な物があれば言え」


 グイドの背中を見送ってから、俺達はソファに身体を預けた。

 怒鳴られたし、頬まで叩かれた。

 それでも、助け出した亜人達まで追い払うつもりはないらしい。

 少なくとも、話の通じない人ではなさそうだ。


 まあ、それはそれとして。

 縁談の話は……決まったと解釈していいのか?

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