↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/127

32話 悪因悪果と、夜明けの脱出③

「とっ……止まれっ! お前たち、止まれっ!!」


 俺達は国境に辿り着いた。

 流石に怪しかったらしく、門番達に周囲を囲まれてしまった。


 三台の荷馬車の御者台には、先頭から順にロメオ、護衛に扮した俺、フィネスキが座っている。


 ロメオの荷馬車には、証拠の木箱が。

 残り二台には亜人達を乗せ、王女の影やアルマ、イライザ、マリカも二手に分かれて同乗していた。

 不安がっている亜人達を落ち着かせるため、女性陣を中心に側にいてもらっている。


 後ろを振り返り、フィネスキへ目配せする。

 出番だ、しっかりやれ。

 こちらの意図を察したのか、フィネスキは小さく頷いた。


 彼は先頭まで歩いて行くと、横柄な態度で門番と話し始めた。


「……うおっほん! お前たち、何をしている? こいつはダランテ家のせがれだ、通してやれ」


「ええっと……すみません。自分はこの春に配属されたばかりで、どこの貴族様で……?」


「貴様っ……!? フィネスキだ、フィネスキ!! ……あんな僻地に住んでいては、知らぬのも仕方無いのか……?」


 フィネスキはこちらを振り返り、必死の形相で目配せしている。

 どうも頼りないが、あいつに任せるしかない。

 頑張ってくれ。


「……フィネスキ家の方、ですね。……いや、今はそっちの荷馬車だ! あんたら、後ろの奴らは何なんだ!! ……奴隷……なのか……?」


「僕がフィネスキさんから買い付けたんですよ。奴隷ではなく、“奉公人”ですが。ほら、ここに契約書類もあります。確認しますか?」


 ロメオが援護射撃をしてくれたが、門番達は困惑している。

 ……なるほど。


 ノヴァリスで暮らしている人間でも、人身売買の実態までは知らない者がいるのか。

 表向きは、ただの奉公人の取引ということになっているらしい。


 契約書類を見せたものの、門番達は相変わらず道を塞いでいた。

 ──どうする? 俺とマリカで戦うか?

 いや、駄目だ。ロメオの立場が悪くなる。


 それどころか、パルティーヤとノヴァリスの間で小競り合いが起きる可能性もある。


「……契約書は確認しました。……では、そちらの木箱は? 奉公人の取引にしては、随分と荷物が多いようですが……」 


「彼女たちの引き渡しに伴う品と、今回の取引に関する帳簿です。中身を精査した後で、残りの代金を支払う契約になっています」


「申し訳ありませんが、一応、中身を確認させていただいても……」


「ええい、さっさと道を空けろ!!」


 フィネスキが、門番の言葉を遮って怒鳴った。


「我がフィネスキ家とダランテ家の取引品を、貴様ら如きが漁るつもりか!? 奉公人ごときにいちいち騒ぎ立て、挙げ句に商談まで邪魔をする! この国で生きていく気があるのか!?」


「……こんなの……許されない……」


 新米らしき青年の呟き。

 ぐるりと首を青年に向けたフィネスキは、つかつかと歩み寄っていった。


「貴様か。今、許されないと言ったのは」


「……」


 フィネスキは青年の襟首を掴むと、鬼のような形相で捲し立てた。


「このっ……愚か者があっ!! 貴様ら、他国の兵がいくらもらっているか知っているか!? 自分たちが如何に恵まれているか!! 我々がどれほど手を汚し、貴様らを食わせてきたと思っている!! それをその空っぽの頭で少しでも理解したのであれば…………そこをどけえっ! 間抜けども!!!!」


 青年は唇を噛み締めたまま、何も言い返せなかった。

 隣にいた年嵩の門番が、その肩を掴んで後ろへ下がらせる。


「し、しかし……フィネスキ様まで国境を越えられるのですか……?」


「これだけの品を引き渡すのだぞ!? 道中に何かあれば、我がフィネスキ家の信用に傷が付くだろうが! ダランテ家に商品を届け、残りの代金を受け取ったら戻る! 貴様らは余計な詮索をせず、門だけ開けていればいい!!」


 悪徳貴族の剣幕に圧倒されたのか、門番達は道を譲った。

 門が開く。

 そして荷馬車は──無事に国境を越えた。


 国境の門が、ゆっくりと後ろへ遠ざかっていく。


 荷台の中から、かすかな嗚咽が聞こえた。

 振り返ると、獣人の女が胸元を押さえながら、震えている。

 隣の森人の女も、何が起きたのか理解出来ていない顔で、門の方を見ていた。


 自由になった。

 そう理解するには、まだ時間が必要なのかもしれない。


(やっとだ、やっと。帰れる、マールに帰れるんだ……)


 朝日を浴びながら、俺達はパルティーヤへ続く道を進む。

 アルマとイライザの方を見ると、穏やかな表情を見せていた。


 ──だが、そんなアルマは、ふと思い出したかのように。

 ある二人の名を口にした。


「……あれ。そういえば、《鴉》さんと《揚羽》ちゃんは? 私たち、二人と一緒に行動してたからさ。何か、他の作戦中だったりする?」


「そうね。あの二人にお礼を言わなくちゃ」

 

 俺が伝えていい話ではない。

 幸い、ここにはその役割に相応しい存在がいる。


「……アルマさん、イライザさん」


 《梟》の声が、いつもより低かった。

 荷台の中で、二人が顔を上げる。


「無事に国境を越えたばかりで、こんな話をするのは酷だけど。伝えなければならないことがあるの」


 アルマの表情から、少しずつ笑みが消えていく。

 イライザは何も言わず、《梟》の顔を見つめていた。


「《鴉》と《揚羽》は、役目を果たして死んだわ」


「……嘘、だよね……?」


 アルマの声が震えた。

 《梟》は、何も答えずに首を横に振る。


「把握している範囲で話すわね。《鴉》は、仲間たちと共にマールへ向かう途中、フェリクス将軍との交戦で死亡した。《揚羽》はその場を抜け、ソウマさんの元まで辿り着いて協力を要請した後、息を引き取ったそうよ」


「そんな……私たちの、ために……」


 アルマは両手で口元を覆い、俯いた。

 隣にいたイライザは、唇を噛んだまま黙っている。


 俺は前を向いて、手綱を握り直した。

 泣いている二人に、俺が掛けられる言葉はない。


 ただ、心の中で《揚羽》に伝える。


(お前の最後の願いは、無事に叶った。アルマとイライザは、生きてノヴァリスを出たぞ)


 墓も作った。

 弔意も示した。

 ひとまず、俺に出来るのはここまでだ。


「……帰らなければ」


 やがて、イライザが呟いた。


「私たちは、エリノア王女殿下の元へ帰らなければなりません。あの二人が命を賭けて繋いでくれたものを、ここで終わらせるわけにはいきません」


 誰も、それ以上は口を開かなかった。

 荷馬車の車輪だけが、朝の街道を軋ませながら進んでいく。


 俺は俺で、他に考える事がある。

 ケイタの死、救出した亜人達。

 そしてノヴァリスで見付けた、俺の願い。

 

 ……ああ、そういえば。

 ロメオの父親に、今回の件をどう説明するかもだ。


 ──やれやれ、気が重くなってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。