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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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32話 悪因悪果と、夜明けの脱出②

 ──だんだん夜が明けてきた。

 だが、国境には確実に近づいている。

 もう一踏ん張りだ。


 フィネスキ達の屋敷で馬と荷馬車を用意して、なんとかここまで来た。

 荷馬車は二台。流石に大人数だからな。


 馬の疲労を考え、荷馬車一台につき二頭ずつ馬を付けている。

 その甲斐あってか、なかなかいい速さだ。


 ……ついでに、逃げるに逃げられず馬鹿正直に俺達を待っていた、あの親子だが。

 それなりの額の金貨を渡し、今日の事は忘れろと言っておいた。


「……あと少しだね、ソウマくん」


「ああ、そうだな。……寒くないか?」


「うん、平気だよ。でも……もう少しだけ、近くに寄ってもいいかな……?」


「……まあ、構わないが」


 二台の荷馬車は、俺と《梟》がそれぞれ御者を務めている。

 俺の隣にはアルマが、《梟》の隣にはフィネスキが。


 俺はアルマに教わりながら、どうにか手綱を握っていた。

 フィネスキに関しては、国境が近づいたら御者を交代するため、先ほどから《梟》が厳しく指導している。


「……全く、なぜ私がこんな雑用のような真似を……」


「つべこべ言わない。ほーら、ちゃんと前を見なさい」


 亜人達は相変わらず静かだが、影の連中はそれなりにくつろいでいるようだった。

 時折、周囲を警戒してくれている。


 途中の村で、《土竜》とは別れた。

 あいつはノヴァリスに残る。花屋という設定を活かし、何食わぬ顔で王都に戻る予定らしい。


 街道を道なりに進んでいると、ロメオと待ち合わせ予定の宿屋が見えてきた。

 ──さて、マリカ達は合流しているか……?


「……いるぜえ、きっちり三人! ヴァルゲス家の方は、片付いたみてえだな!」


 《百舌》がロメオとマリカ達を目視したようだ。

 良かった、これで後は脱出するだけ。

 身体の力がほんの少しだけ抜け、楽になった気がした。


「……でも、なんだか大荷物のような……?」


 目をこらした《梟》も、三人を確認したらしい。

 まあ、とりあえず宿に着いてからだ。




「お疲れ様です、みなさん。……そっちはなんだか、大所帯ですね……?」


「待たせたな、ロメオ。それとマリカ、《隼》。アマンシオは問題無く始末したか?」


「うん、ばっちし!」


「安心しな、種馬さんよ。ついでに、証拠の方もばっちりさ。……こっちで何枚か見繕っといたから、見てみな。とんでもなくヤバい代物だからよ」


 宿屋の前に停まっている、マリカ達が乗ってきた荷馬車。

 荷台には、今回の件に関する証拠入りの木箱が大量に積まれていた。

 《隼》から渡された書類の中に、ひときわ目を引くものがあった。


(これは──帳簿の一部か。大昔の記録だが、アドラーの貴族の娘が売られている)


 備考欄によると、縁談を断られたノヴァリスの貴族が、協力者を使って相手の娘を誘拐。

 その後、娘は当人の屋敷へ運ばれ、地下室で“丁重に飼われた”らしい。


 《隼》が見せてきた帳簿の中には、大昔のものだけではなかった。

 ここ数年の日付が記されたものもある。


 売られていたのは、貴族や王族に連なる者だけではない。

 亜人達に交じり、ごく普通の人間も大勢いた。

 名も知られていない、数え切れないほどの犠牲者。


 胸糞が悪い。

 だが、同時に一つ分かったことがある。


 これは、アマンシオ一人が始めた悪事ではない。

 ローザ・カルミナ館を利用してきた連中が、代々積み上げてきた記録だ。


 そして、買い手や仲介者として記されている名も、軽いものではなかった。

 貴族、商人、神官。

 ノヴァリスの権力と富を支えている者達。


 まさに、大陸における負の歴史そのもの。

 それが目の前にあった。

 ノヴァリスという国の存亡に関わる、巨大な火薬庫。


 だが、この帳簿の山を俺一人で扱うのは無理だ。

 どう使うかは、エリノアに任せるしかない。


「……待て、待て待てっ! きっ、貴様ら……これを、国外に持ち出すのか……?」


 木箱の中身を確認したらしく、フィネスキの顔は真っ白になっていた。

 面白い顔になってるな、こいつ。


「そのつもりだ。フィネスキ、お前が門番を上手く言いくるめてくれよ」


「ふっ……ふざけるなッ!! こんな物が国外に持ち出されては、いくらアマンシオたちがいなくなったとしても! 私は……ノヴァリスにいられないだろうがッ!!」


「……お前、この国に残るつもりだったのか? 俺はてっきり、亡命するから手を貸してくれという話だと思ってたんだが」


「な……に……?」


 状況を飲み込めていないフィネスキに対し、俺は優しく諭すように語りかけた。


「いいか? そもそも、お前が生き残るには最初から亡命しかない。そして俺が、ソウマ・スタリオンの名において、お前を保護してやる。ただし、あまり自由は無い。ノヴァリスの悪事を洗いざらいぶちまける証人として、役に立ってもらうぞ」


「スタリ……オン……? 貴様が……? 私は、マールなどに行くつもりは……」


「なら、ここで降りるか? アマンシオも、アルバーニも、グアルディも死んだ。証拠は国外へ出る。お前が一人で残って、何日生きていられるかは知らないがな」


 呆然とするフィネスキを放置し、ちらりと空を確認する。

 国境はすぐそこで、夜明けは近い。

 だが、ここまで来て詰めを疎かにする訳にはいかない。


 心苦しい気持ちはあるが、この役目が出来るのは彼だけだ。

 俺はロメオの両肩を叩いた。


「すまない、ロメオ。悪いが、俺達が連れてきた亜人達と、奴隷に成りすました影達を、お前がフィネスキから買い付けたことにしてくれ。襲撃の主犯が俺とエリノアだという話は、別の人間から広めさせる。人を運んだだけとはいえ、ダランテ家がノヴァリスに目を付けられることにはなるが……」


「……分かりました。そのフィネスキという貴族から、僕が買い付けたことにしましょう。ちょうど鞄の中に、書類とインクもあります。代金は一部だけ先払い。残りはダランテ家に到着してから支払う、という形にしておきましょう。それなら、フィネスキさんが同行しても不自然ではありません」


「……いいのか? その、本当に……」


「父さんには……怒鳴られるでしょうね。下手をすれば、家ごと危険に巻き込むことになる。……でも、関わった以上、きちんと背負わせてください」


 ロメオは俺の手を握り、頷いた。


「僕はずっと、お金儲けのことばかり考えてきました。でも……今回のことを、損得だけで片付けるつもりはありません。さあ、出発の準備を」


 照れくさそうに笑うロメオは、そう言って離れていった。

 フィネスキに話しかけ、商売人の顔で接している。


(ありがとう、ロメオ。今回は、本当に沢山の人間に助けられた。そして──俺がこの世界でやるべき事。それが何となく、分かってきた気がする)


 ロメオとフィネスキの商談を見届け、俺達は宿屋を後にした。

 出発前に話し合った結果、ロメオが乗ってきた荷馬車は宿屋の主人に譲ることにした。

 荷馬車が四台となると、移動も国境での言い訳も難しくなる。

 引いてきた馬だけは、残り三台に回している。


 残るは国境。

 門番を傷付けずに突破するのみ。

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