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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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31話 奈落の再会、そして別れ④

 別館の二階。

 少し調べただけで、ここの実態が手に取るように分かった。

 そこには、獣人けものびと森人もりびとの女達が暮らしていた。

 暮らしていた、という言い方が正しいのかは分からない。


 彼女達は一部屋に二人ずつ住まわされていて、剣奴の相手をする際は別の部屋を使っていたようだ。

 どの女も目が虚ろで、どこを見ているか分からない。

 恐らく、薬か何かの影響だろう。


「こんばんは。……きょうは、あなたのあいてをすればいいの?」


「……ねえ……わたしのあかちゃんはどこ……?」


「おい、俺たちは違う。……ちっ、くそ面倒くせえ」


「あー、はいはい。お仕事中なんで、離れてくださいっす」


 彼女達に身体を押しつけられ、困惑しながらも引き剥がす影の男連中。

 俺にも森人の女がくっついているが、好きにさせていた。

 押しのけて、倒れて怪我でもしたら困る。


 全部で20人。

 間違いなく、ノヴァリスの被害者だ。


 置いていけるはずがない。

 少なくとも、マール連邦に身を置く俺が、それを選んでいいはずがない。


 だが……。


「連れて行きましょう、この人たちを。何か……何か、方法があるはずだわ」


 イライザの主張そのものは正しい。

 俺だってそうしたい。

 だがこの先、国境を越えるまで何があるか分からない。

 彼女達を同行させる事で、移動時間は増えてしまう。


 ここまで、それなりに上手くいってる。

 なのに──そんなリスクを冒せというのか?


「……みんなの言いたいこと、分かるよ。でも……それでも、ここに置いて行けない。考えようよ、一緒に」


 アルマとイライザ。 

 作戦の成功だけを考えれば、彼女達の提案は受け入れるべきではない。

 だが、そう考えてしまうほどの何かを、きっと経験した。


 ──俺も覚悟を決めるか。


「もう少し欲張りたくなった。作戦を軌道修正して、彼女達を連れていく」


「……この際、徹底的にノヴァリスに打撃を与えましょう。クリフさん、あなた……意外にお人好しね。あなたなりに考えがあるんでしょうけど」


 《梟》のからかうような視線を躱し、作戦を再開した。

 どうしても歩くのが困難な亜人が三人いたので、影の奴らに背負ってもらった。


「……ちょっと、大変かも。なんで女の私が背負ってるの……?」


「少しの間だけだ、我慢しろ。お前、近接戦じゃあんま役に立たねえじゃねえか」


「こういうのは男の役割だが……状況が状況だ。諦めるんだな」


 《白蛇》が抗議するも、同じく亜人を背負った《百舌》と《蜉蝣》に一蹴された。

 

 玄関前で《感応》を使い、周囲の様子を窺う。

 ……この反応だと、戦闘はあらかた終わっているか。


 別館から出ると、辺りには何人もの死体が転がっていた。

 警備兵だけでなく、武器を取った使用人も混じっている。


「こいつは……誰だ? 警備兵でも使用人でもなさそうだが」

 

 ローザ・カルミナ館に向かう途中、気になる死体を見付けた。

 それなりに身なりのいい。貴族だろうか。

 他の死体と比べると、損傷が激しい。


「その人は……ジュスティーノだね。私たちが戦ってる時、賑やかしみたいなことをやってたの。元は貴族らしいけど……」


「……なるほど」


 俺達の世界でいう、スポーツの実況解説みたいな感じか?

 剣奴達からすれば、自分だけ安全な場所から、好き勝手に戦いを煽っていた男だ。

 恨みを買うには十分すぎる。


「あっち、まだ戦ってるみたいっすね。……お知り合い、じゃないっすか?」


「かもな。正直、あまり会いたくない。《梟》と《土竜》は付いてきてくれ。他はここで亜人達と待機だ」


「待って! ……多分、知ってる子たちだから。説得してみる」


「そうね。私たちも付いていくわ」


「……分かった。ただ、無理はしないでくれ」


 ローザ・カルミナ館の正面。

 そこでは、見覚えのある四人が剣奴達に囲まれていた。


「おらおらっ! さっきまでの威勢はどうしたよ!?」


「ははっ、大勢の癖によえーな」


「……ちょっとキツくね? 話し合いしようぜ、話し合い!」


「ねえっ、ウルバノさん! 何で俺たち、戦ってるの……?」


 マリカの報告通り、やはりここにいたな。

 さて。こいつらをどうあしらうか。


(──剣奴が10人、殺されている。やはり神能持ちは厄介だな)


 赤井涼平、久慈蓮司、田上伸幸。

 高校時代、面倒な絡み方をしてきた三人だ。

 もう一人の矢代啓太だけは、俺やマモルとたまに遊ぶくらいの仲だった。


 俺はウルバノに近寄り、声を掛けた。


「止めなくていいのか? あの調子だと、仲間がどんどん殺されていくが」


「あん? 別に構わねえよ。あいつら、止めたのに突っ込んで行きやがった。……これから俺たちは、軍人になる予定なんだぜ? むしろリョウヘイたちが馬鹿を間引きしてくれて、助かってるくらいだぜ」


 マリカの報告だと、あの四人も待遇は良さそうだったと聞いていた。

 となると、ジュスティーノ同様に恨まれていてもおかしくない。


(……さて、どう止めるか。あんな奴らでも、クラスメイトだ。それに矢代、お前にこんな場所は似合わない)


 アルマとイライザも、戦闘中の彼らに声を掛ける機会を探っている。

 武器を振るう者同士の戦いだ。

 下手に声を掛ければ、一瞬の隙が死に繋がる。


 ──そんな事を、暢気に考えていた。

 赤井達の周りには、剣奴の死体が転がっていた。

 その中の一人が、ゆらりと上半身を起こした。


 そいつは歯を食いしばりながら、必死の形相で弓を引き絞る。

 狙いは……赤井だ。

 どう見ても、もう長くはない。

 あいつら、仕留め損ねた……!?


「おいっ! あか──」


 そこまで叫びかけて、俺は言葉を止めた。

 意味を持たずに消えた言葉を、誰も気に留めなかった。


 赤井のすぐ正面には、武器を構えた剣奴が攻撃の機会を狙っている。

 俺がここで大声を出すと、赤井に隙が出来る。

 周りの剣奴達が、それを見逃すはずがない。


「っ!! リョウヘイ、危ないっ!!」


 死にかけの剣奴が放った矢は、赤井の前へ飛び出した矢代の腹に深々と刺さった。


「……あ?」


 ──そんな。

 ──どうして、あいつが。


「てっ……めえええええええええええっ!!!!」


「ケイタくん!!」


「駄目っ……駄目よ!!」


 赤井は叫び、死にかけの剣奴の首を飛ばした。

 アルマとイライザが、矢代の元に駆け寄って行く。


「……お前ら、そこいらで終わっとけ」


 ウルバノは武器を捨て、周りの剣奴もそれに従った。

 戦いは止まり、辺りは静まりかえった。


「は……? なんで……ケイタ、お前……」


「……マジで? これ、どうする? そうだっ、医者を……」


 田上と久慈は立ち尽くし、呆然としている。

 俺はゆっくりと、倒れている矢代の元へ歩いた。

 膝を突き、話しかける。


「矢代……いや、ケイタ。俺だ、ソウマだ。分かるか……?」


 付け髭を剥がし、顔を近づけた。

 荒い呼吸を吐いていたケイタは、目を見開いた。


「……ソウマ? ……ひょっとして……アルマさんたちを助けに来たの……?」


「ああ、そうだ。……だが、こんな事に……」


 何か、言わなければ。

 だが、何を?

 今のケイタに、どんな言葉を掛ければいい。


「ソウマ……くん……?」


 アルマが息を呑む。


「……やっぱり、あなただったんですね」


 イライザの声が、微かに震えていた。

 赤井達三人も、驚いた表情で俺を見ている。


「……そっかあ……アルマさんたち、助かるんだね。良かったあ……」


 ケイタは咳き込み、血を吐いた。

 月明かりに照らされ、腹部の染みが赤黒く浮かんでいた。


 ──矢の刺さった位置が悪い。

 これではもう、手を握るくらいしか出来ない。


「……おばあちゃん……一人にさせてごめん……」


 ケイタの目から光が消えた。

 確か、彼の両親は仕事で海外、祖母と二人暮らしだったはず。


(……馬鹿か、俺は! 何を冷静ぶってる! 目の前でクラスメイトが死んだんだぞ!? 何で俺はっ……こんな奴なんだよ……!!)


 涙は出ない。

 それどころか、早くもこの場の後始末と、亜人達の移動手段を考え始めている。

 最低な人間だ、俺は。


 だが、それでも。

 だからこそ。


 ──絶対に作戦を成功させる。

 させなければ。

 そう思わずにはいられなかった。

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