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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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31話 奈落の再会、そして別れ②

 別館を近くで観察すると、ある特徴に気付いた。

 建物の窓だ。

 その殆どに、鉄格子が付けられている。


 ローザ・カルミナ館と別館は丘の下に建っていて、マリカの調べによると、丘をくり抜いて裏闘技場が作られているらしかった。

 ただ、今回はそちらに侵入する予定は無い。

 

 建物の配置としては、別館の玄関がローザ・カルミナ館の左側面と向かい合う形だ。

 さらに、別館はかなり大きい。

 むしろ、別館の方がローザ・カルミナ館よりも大きい。


 使用人や見張りが寝泊まりする場所──それだけではなさそうだ。


 ローザ・カルミナ館からは死角になる、丘に面した別館の側面。

 そこに一つだけ、鉄格子の無い窓があった。


(この場所は、ローザ・カルミナ館の裏手でもある。潜り込むには良い場所だな)


 俺達はしばらく、見張りの動きを舐めるように観察した。

 幸い、巡回の間隔は一定だった。

 丘側の側面で二人の見張りがすれ違う瞬間だけ、周囲の目が薄くなる。


「……二人の見張りが丘側ですれ違ったら、行動開始ね。《白蛇》、やるわよ。いい? 私は左、あなたは右をお願い」


「ふひっ……お任せあれ」


 《梟》と《白蛇》が鞄から取り出したのは、吹き矢だった。

 二人は小瓶の中に針を浸し、吹き矢を構えた。


 ──来たな。


 それぞれ反対方向から歩いて来た見張りは、足を止めて言葉を交わす。

 固唾を呑み、機会を待つ。


 二人が放った吹き矢は、見事に命中した。

 崩れ落ちる二人を素早く森の中へ運び、息の根を止める。

 その間、鉄格子の無い窓に《土竜》が取り付き、鍵開けを試みる。


 難なく窓を開けた《土竜》。

 彼は慎重に中を確認した後、こちらに向かって手招きをした。


 俺達は窓を乗り越え、別館の内部へ。

 ここは……倉庫か。

 武器の他に、みすぼらしい衣服、手枷や足枷が乱雑に納められていた。


「……近くに人がいないか調べる。お前たち、音を立てるな」


 《蜉蝣》が倉庫の扉に近づき、耳を当てた。

 しばらくしてから、《蜉蝣》はこちらを振り返り頷いた。


「そんじゃ、また俺の出番っすね。……なるほど、この型か……」


 《土竜》が鞄から取り出したのは、柄の付いた薄い鋸刃(のこぎりば)だった。

 彼は小瓶から液体を鋸刃に垂らし、布で両面に塗り広げた。


(あれは……油か? 消音グリースみたいなものだろうか)


 《土竜》は扉と枠の隙間に鋸刃を差し入れ、扉の外側に掛けられているらしい木の閂を慎重に切り始めた。

 これはある程度、時間が必要だな。


(倉庫にある物で何が出来るか、今のうちに考えておこう)


 しばらく思考に耽っていると、鋸の音が止んだ。

 《蜉蝣》がもう一度扉に張り付き、耳を澄ませる。

 そして彼は扉をゆっくり押し開け、倉庫から出た。


「……左方向に大勢の気配があるが、ほとんど動いていない」


「……多分、あれでしょ? ここで剣奴が生活してる。アルマさんとイライザさん、近くにいる。ふひっ……!」


「見張りもいるでしょうし、周囲の警戒を怠らないで」


「けけっ。ついに感動のご対面、だな」


 曲がり角の先には、物々しい両開きの扉があった。それを守る、二人の見張り。

 念の為、俺も《感応》を使う。

 少なくとも、この近くで見張りらしき気配は二つだけだ。


「……俺が一人やる。《百舌》は残りを。いいな?」


「ああ、任せな」


 《蜉蝣》が円刃を構え、《百舌》は小型のクロスボウに矢を番えた。

 ぬるりと前へ出た《蜉蝣》。投げた円刃は見張りの胸に沈む。

 すぐさま《百舌》がクロスボウを放ち、もう一人の喉元を射抜いた。


 いつの間にか駆け出していた《梟》と《土竜》が、倒れ込む見張りを受け止める。

 音は最小限に。息の合った連携だ。


「えーっと……こっちが扉で……残りは牢と枷の鍵っすかね。《梟》、そっちの見張りは?」


「……一本だけ持っていたわ。形はそれと同じね」


「なら、枷の鍵で間違いなさそうっす。預かっとくっす」


 《土竜》は二人分の鍵をまとめると、鍵束から一本を選び、扉の鍵穴に差し込んだ。

 かちりと音が鳴り、扉が開く。

 立て付けが悪いのか、重い扉がそれなりに音を立てた。

 これはまあ、仕方ないな。


 扉の先は通路になっていて、その両側にはいくつもの鉄格子。

 幸い、窓から差す月明かりのおかげで、内部の様子はそれなりに把握出来た。


 ──ここだ。

 アルマとイライザはここにいる。


「……なんだあ? こんな時間に……」


「勘弁してくれよ……」


 扉の音が原因で、寝ていた剣奴の何人かが起き始めてしまった。

 騒がれると困る。

 

 俺は近くの牢へ歩み寄り、口元に指を当てた。

 静かにしろ。

 声には出さず、そう伝える。


 鉄格子の向こうで、男が眉をひそめる。

 だが、俺達の格好と武器を見て、すぐに口を閉ざした。


 命のやり取りに慣れているせいか、周りの奴らも状況を察したようだ。

 こちらに訝しげな視線を向けつつも、騒ぎ立てる様子は無い。


 ざっと人数を数えた限りだと、ここには30人ほどの剣奴がいる。

 一つの牢屋はそれなりに広く、そこに二人か三人。中には、一人だけで使っている者もいる。

 剣奴としての扱いや立場で、分けられているのかもしれない。


「……みんな、こっちっす」


 《土竜》が立っている牢屋の前に行くと──探していた二人がいた。

 ……はあ、全く。心配させやがって。


「夢じゃ……ないんだよね? 《土竜》さん……《梟》さん……」


 少し痩せているが、アルマがそこにいた。

 倉庫にあった服とも呼べないものに身を包み、手足には枷がはめられていた。


「……私たちの為に、こんな所まで……」


 イライザは憔悴しているようだった。

 目元が腫れているのが、薄暗いこの場所でも何となく分かる。

 気丈な性格の持ち主だと思っていたが、それでも辛い思いをしていたようだ。


(再会した時に何を言うか考えていたが、この状況ではまだ正体を明かせないな。とにかく、この数の剣奴をどうするか……)


 その時、通路を挟んで反対側の牢から欠伸が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには粗末なベッドの上で胡座をかいている大男がいた。

 牢も一人で使っている。少なくとも、他の剣奴とは扱いが違うらしい。

 

「騒がしいと思ったら、お客さんかい。良かったじゃねえか、お嬢ちゃんたち」


「……そう、だね。ええっと、この人はウルバノ。私たちは大斧さんって呼んでたけど」


「彼は他の剣奴から私たちを守ってくれていたの。でも、私たちだけここを逃げるのっていうのも、なんだか……」


 俺達がここに来るまで、二人には色々あったんだろう。

 だが、再会を喜んでいる時間はない。

 ノヴァリスから脱出出来なければ、全てが無意味だ。

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