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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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31話 奈落の再会、そして別れ①

「その……さっきも聞いたんですが、本当に大丈夫なんですかい? 俺ら、こんなことしちまって……」


「いつまで言ってんだよ、親父。この人たちに従ってれば、とりあえず今は殺されない。それでいいだろ」


「いや、お前……。まあ、従うしかないんだろうけどよ……」


 作戦決行の夜。

 アルマとイライザの決闘は、二日後に迫っている。

 本当なら、もう一日だけ準備に使いたかった。


 だが、それは出来ない。


 裏闘技場の客である貴族や、支配人であるアマンシオ。

 そいつらがローザ・カルミナ館に集まってしまえば、見張りも増える。

 そうなれば、難易度は一気に跳ね上がる。


 そこで俺達は、アマンシオの住むヴァルゲス邸とローザ・カルミナ館を、同時に攻略する事にした。

 その下準備として、まず――ローザ・カルミナ館の近くにある三つの屋敷を制圧する。


 ここを放置すれば、アルマ達の救出中に背後から増援が来るかもしれない。

 それに、王都へ早馬を出されてしまう可能性もある。

 そうなると、生きてノヴァリスを出るのは難しくなる。


 マリカが集めた情報によれば、この荷馬車は三つの屋敷へ物資を運ぶ定期便のようなものらしい。


 だから、襲った。


 積み荷の一部を捨て、空いた荷台に俺達が潜り込む。やっていることは完全に盗賊だが、今さら綺麗な手段を選べる状況ではない。

 マリカは、ここにはいない。

 王女の影の一人と共に、露払いを任せている。

 

「おっさん、心配しなくて大丈夫っすよ。どうせあんたらを使いっ走りにしてた貴族は、今日で終わりなんで」


「そうね。ただ、今日起きたことについては永遠に秘密。絶対に誰かに言ってはならない。約束……出来るわよね?」


「へっ、へい! もちろんでさあ! おい、お前もそうだろ!?」


「あ、ああ……。絶対、誰にも言いませんから」


 《土竜》と《梟》の言葉で、この二人もある程度は安心しただろう。

 だが、そんな空気をぶち壊す輩がいた。


 《梟》がリヒトブリックから呼んだ彼ら。

 たとえ仕事が出来たとしても、人格の方も優れているとは限らない。


「誰かに言ったら……絶対に見付けて、殺してやる。くひひっ……自分の身体がどろどろに溶けていくの、想像出来る……?」


「けけっ! 脅すなよ、《白蛇》。だが、もしそうなったら……薬で溶かされるか、切り刻まれるかくらいは選ばせてやるぜ」


 《白蛇》は、毒と薬を扱う女だ。

 笑い方からして、まともではない。

 その隣で《百舌》が歯を見せて笑う。こっちはこっちで、拷問や尋問が得意だとか。

 正直、敵に回す以前に、味方としてもあまり近くにいてほしくない。


「……お前たち、無駄口を叩くな。その親子は、俺たちの作戦に巻き込まれた一般人だ……」


 潜入と諜報、暗殺に長けた《蜉蝣かげろう》。

 少し目を離すと消えてしまいそうな存在感。

 それこそが彼の武器なんだろう。


 色々と思うところはある。

 だが今の俺は、長い髭を蓄えたクリフという男だ。

 余計な口は挟まない。

 口を閉ざし、頭の中で作戦内容を再確認する。

 

 やがて、荷馬車は最初の目標のフィネスキ邸に到着した。

 御者の親子が門番と会話している最中に──俺達六人は飛び出した。

 門番を始末した後、正面の扉から侵入。


「なっ……なんだ、お前らっ!?」


「ここがどこだか分かってるの!?」


 武器へ手を伸ばした二人の使用人。

 その一人は《蜉蝣》に喉を裂かれ、もう一人は《白蛇》の針を首に受けて崩れた。

 悲鳴は上がらない。

 《蜉蝣》は大ぶりな円刃を使用人の死体から引き抜き、回収した。


(……流石はエリノアが集めた精鋭。俺の出番はあまり無いな)


 王女の影の戦闘力はかなりのものだった。

 そこへ、騒ぎを聞きつけた別の使用人が剣を片手に駆け込んできた。

 

 だが、そいつは《百舌》の放ったクロスボウの矢に眉間を射貫かれ、駆け込んできた勢いのまま床へ倒れ込んだ。

 それを見た他の使用人達は戦意を失ったのか、武器を投げ捨て両手を上げた。


「……武器には触れるな。そのまま、俺たちの後ろをついてこい。《百舌》と《白蛇》は、そいつらの監視を頼む」


 《蜉蝣》に指示された《百舌》と《白蛇》は、投降した使用人達の背後へ回った。

 使用人達は抵抗することなく、俺達に従って歩き始める。

 一階を制圧し、投降した使用人達を連れて二階へ向かう。


「はいはい、夜遅くに失礼するっすよー」


「大人しくしていれば、殺しはしないわ」


 投降した使用人を二階の一室に集め、手早く拘束。

 仕上げに屋敷の主の寝室へ。

 百舌がドアを蹴破ると、寝間着姿のフィネスキが部屋の隅で震えていた。


「こんばんは、フィネスキ子爵。早速だけど、拘束させてもらうわね」


「……うおっほん! その、なんだ。着替えてからでいいかね? この格好のままでは、他の者に示しが付かん」


「はあ? 殺すぞ、おっさん」


「む、むう……っ! そうはやるな、若造」


 凄む《百舌》にたじろぎながら、それでもフィネスキは主張を曲げない。

 図太いというか、なんというか。


「他の屋敷も襲撃するつもりなのだろう? 私が彼らに呼び掛ければ、大人しくするだろうよ。協力する。だから、私だけは見逃してくれ」


「……ま、こっちは無力化出来れば何でもいいんで。とっとと着替えるっす」


 《土竜》はトンファーらしき武器で自らの肩を叩いてから、俺の方を見た。


「なんか拍子抜けっていうか、あれっすね。楽勝すぎるっていうか」


「だな。ま、怪我の可能性は低くなった。一応、油断させて後で……って可能性に注意は必要か」


 貴族服を身に纏ったフィネスキを引き連れ、残り二つの屋敷へ。

 フィネスキの呼び掛けは、思った以上に効いた。


 アルバーニ邸では門番が戸惑っている間に《土竜》が裏へ回り、グアルディ邸では《梟》の一言で使用人達が武器を捨てた。


 寝間着姿のアルバーニとグアルディは何やら文句を言っていたが、聞く気はない。

 フィネスキと三人まとめて縛り、フィネスキ邸の納屋に押し込んだ。


 フィネスキ邸の前で待っていると、マリカ達が合流した。

 ローザ・カルミナ館周辺の森を徘徊する見張りの排除を頼んでいた。


「ふいー、終わったぜい。《隼》くんも、お仕事頑張ってた!」


「……この女、ほとんど一人で始末しやがった。おまけにお姉さんぶってきて、うざってえ。なあ、誰か俺と変わってくんねえ?」


 小柄で華奢な体格、それが《隼》。

 他の影と同じく、口元を覆う黒布で顔の全体は窺えないが、かなり若く見える。


「諦めなさい、《隼》。それに、仕方ないじゃない。《揚羽》が死んで、あなたが最年少になったんだもの」


「くひひっ……お仕事が終わったら、白蛇お姉さんが添い寝してあげましょうねえ」


「死ねよ、くそばばあ。だいたいお前、女好きじゃねえか」


「……お前たち、任務に集中しろ」


 なんだかんだで、意外に仲は悪くないのか。

 ま、今はどうでもいいな。


「それじゃあ、二人はそのまま馬でヴァルゲス邸に向かってくれ。その後、ロメオが待つ街道沿いの宿屋に行って、俺達を待つんだ」


「うん、了解! アマンシオが証拠みたいなの持ってたら、なるべく回収でいいんだよね?」


「そうだ。ヴァルゲス邸をどう制圧するかは、お前達に任せる。……《隼》も、頼んだぞ」


「……ちっ。しょうがねえ、頼まれてやるよ」


 マリカと《隼》は厩舎から馬で飛び出し、闇の中へ消えていった。

 あの二人なら、大丈夫だ。

 俺達は目の前の作戦に集中する。


「いよいよ、ローザ・カルミナ館ね。みんな、気を引き締めて。クリフさんも、心構えは出来てるかしら」


「問題無い──と言いたいが、少し待ってくれ、《梟》」


「あら、何か気になることでも?」


 今回の作戦、当然ながら失敗は許されない。

 いきなりこんなことを言うのは不躾に感じるだろうが、念には念を入れておくか。


「俺からお前達に、お願いがある。ここからノヴァリスを脱出するまでの間だけでいい。『俺に従う』──心の中でもいいから、そう誓って欲しい。これは最近覚えた、俺の人能に関係する事なんだ」


「別にいいっすけど……どんな人能なんすか? あっ、秘密にしたいんだったら聞かないっす」


「《統率力》って人能だ。俺に従う人間が近くにいると、俺自身の身体能力や判断力が上がるらしい」


 ボズウェルを退けた後、俺の中に芽生えた三つ目の人能。

 存在を自覚し、発動条件を探るまでには時間が掛かった。

 習得に時間は掛かったが、良い能力だと思う。


「……あんたに死なれちゃ姫様に顔向け出来ねえ、従うさ」


 《百舌》は言葉にして、他の五人は頷いた。

 多分、これで効果は発動する。

 この人能に関しては、まだまだ検証が必要だな。


「手間取らせたな。行こう」


 六人で走り、森へ向かった。

 幸い、マリカ達のおかげで楽が出来た。

 暗い森の中を忍び足で歩き、ローザ・カルミナ館を視認出来る距離に。


 ──まずは別館。

 全てはアルマとイライザの無事を確認してからだ。 

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