表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/127

30話 揺れる王女と、夫の過ち①

 リヒトブリック城内、執務室。

 私は父であるルガール国王に、王女の影の動向に関する報告書を提出した。

 状況は良くなっているのか、悪くなっているのか分からない。

 それでも、これが今の私に出来る全て。


 もっと情報が欲しいけれど、影のみんなは最善を尽くしてくれている。

 ……焦っては駄目。じゃないと、アルマたちを助けることなんて出来ない。


 一通り目を通したのか、お父様は報告書を机に置いた。


「こちら、お預かりしますね」


「うむ」


 控えていたエメリンが報告書を受け取る。

 私はソファに座ったまま、お父様の言葉を待つ。 

 

「報告書、確かに目を通した。……思ったより、上手くやれているのではないか?」


「そうかしら。……まさか、ソウマがノヴァリスに行くなんて。はあ……アルマとイライザだけでも心配なのに……」


 ソウマと離れてから、数年経った。

 今のあなたは、何を考えているの?

 二人のため? それとも、二人に守られている私のため?


 分からない。

 ──体を重ねて、子供まで産んだ相手なのに。


「あやつの事が分からない、という顔をしているな。お前がソウマに対して抱く気持ちは、我々が普段お前に対して抱いている気持ちと同じであろうよ。くくっ……」


「茶化さないで、お父様」


「そう怒るな。だが、まあ……ソウマの奴、大したものだ。報告書によれば、奴はエリオドロ教皇に謁見し、近衛侍女が捕らえられている場所を聞き出したらしいではないか。教皇がノヴァリスの現体制に反発しているという噂、あれは本当だったのだな」


「それは……確かに、ソウマのおかげね。今は王女の影と協力して、アルマたちの救出手段を考えているんでしょうけど」


 数日前に連絡を受けて、私は残っていた王女の影を全員ノヴァリスへ送った。

 生き残っている六名の影は、これで全員がノヴァリスに入った。

 《鴉》と《揚羽》は死んでしまったけど、彼らならきっとやれる。

 後はもう、信じるしかない。


「王女の影とその協力者達に犠牲が出たのは痛い──が、フェリクス将軍を討てたのはいい。いざとなった時、我が国もマール連邦も、多少は楽になる」


「……そうね。将軍討伐に関わった者たちの遺族には、きちんと補償をしないと」


「だが、死んだ彼らがどういう仕事をしていたか、遺族は知らぬ。その辺りを気取られぬよう、補償にも工夫はいるがな」


 お父様は息を吐いてから、机の引き出しからある物を取り出した。

 ──ソウマとその友人たちが作った、最新式の銃の弾。

 銃と一緒に弾の作り方を教わって、リヒトブリックでも作り始めている。


「これが、彼らの世界で使う銃の弾らしい。確かに、この形の方が貫通する力は高いのだろうな」


 三ヶ月ほど前、ソウマが大量の資材と共に、技術者を派遣してくれた。

 技術者の中には彼の友人であるコタロウ、ヨシトもいた。

 あまり時間は掛けられない事情がありつつも、突貫気味で技術移転が行われた。


 おかげで、リヒトブリックに最新式の高炉と鋳造技術、銃と火薬がもたらされた。

 我が国にとっては、素晴らしいこと。

 今もマールの職人が数人残り、現場を監督してくれている。


 その間、マール側の兵器開発が滞ってしまったのは心苦しい。

 これからはもっと、二国間で連携していかなければ。


 ──せっかくだし、エメリンにも会話に参加してもらおうかしら。

 

「向こうの世界の物を完全には再現出来ないみたいだけど、鎧を着た相手にも十分な威力が出せるとか。……エメリンは、使ってみてどう思った?」


「ふえっ!? ええっと、そのっ……音にびっくりしますけど、とても素晴らしいと思います。私は主に格闘術を使っていますが、あの銃があればもっと姫様をお守り出来ますから」


 報告書を胸に抱えながら、エメリンは拳を握った。

 手袋には薄い金属の板が縫い付けられていて、攻めと守りの要になっている。


「ほう、そうか。以前の報告だと、銃の方は二十丁ほど量産出来たと言っていたな。……百丁、二百丁と増えれば、戦場の常識が変わるな」


「最近は、ウルスラも銃の訓練を始めたのよ。二人の訓練をたまに見るけど、支給された弾をエメリンがすぐ撃ちきっちゃうって、ウルスラが小言を言っていたわね」


「あ、あはは~……。すみません、なんだか楽しくって……」


 弾を指先でつまみ、興味深そうに眺めるお父様。

 やがて飽きたのか、弾を引き出しの中に仕舞った。

 そしてまた別の引き出しから、木箱と手紙を取り出した。

 木箱の方は、男の人の両手に収まるくらいの大きさ。


 何かしら、あれ。


「エリノア、お前に頼みがある。これをな、ソウマに預けて欲しい。まあ、今回の件……成否はともかく、ソウマの所へ人を行かせる必要があるだろう。あやつが無事に戻らなかった場合は、グラーネに預かってもらう。手紙の方はそれを想定した内容になっている」


「別に、構わないけど……中身は何?」


「それは言えぬ。だが、念の為だ。私が持っているより、どこか国外の安全な場所で保管した方が良いと思ってな」


「……お父様、どこか悪いの? もしそうなら──」


 ソファから立ち上がろうとする私を、お父様は制止した。

 体の問題じゃないみたい。


「個人的な……そう。私自身の、個人的な問題だ。お前が気にする必要は無い」


「分かった。とりあえず預かっておくわ」


 両手で報告書を持ちながら、あたふたするエメリン。

 私は彼女を落ち着かせてから、木箱と手紙を受け取った。


「それじゃ、お父様。また何かあったら報告するわ」


「ああ。エメリンも、いつも娘が助かっているぞ。外にいるウルスラにも伝えてやってくれ」


「はっ……はい!」


 執務室を出て、外で見張りをしていたウルスラと合流した。


「姫様。そちら、私がお持ちします」


「ううん、いいのよ。ふふっ、それに……あなたたち二人とも手が塞がっていたら、護衛にならないんじゃないかしら」


「……確かに。それでは、お部屋まで向かいましょう」


「そうね。こういうのは、金庫に入れておくのが一番だもの」


 自室に向かう途中、中庭に夫のカールがいるのを見付けた。

 最近は忙しくて、別々の寝室で寝る事が多い。

 こういう時に、ちゃんと話しておかないと。

 

「やあ、エリノア! 今、時間あるかな?」


「ええ、大丈夫よ。さっき、お父様とお話してきたの」


 カールの方から声を掛けてきた。

 彼の側近であるオイゲンが、私に対して恭しく頭を下げた。


「へえ、そうなんだね。……少し、こっちで話さないかい? 最近、あまり話せていなかったからさ」


「ええ、もちろん」


 それから中庭のテーブルで、しばらく世間話を楽しんだ。


 子供たちのこと。

 落ち着いたらどこに行きたいか。

 お互いの家族のこと。

 久しぶりにゆっくり話したら、なんだか安心した。

 私たちは、形だけの夫婦なんかじゃない。

 そう思えた。

 

 去り際に、カールから夜にワインを勧められたけど──断ってしまった。


 気分じゃないのもあるけど、もし、アルマたちが無事に帰ってきたら。

 ノヴァリスに対してどう対応するかを、今のうちに考えておく必要がある。

 相談役のハンスも呼んで、その辺りを詰めておくのもいいわね。


「……カール様、少し寂しそうでしたね」


 廊下を歩きながら、エメリンが遠慮がちに呟いた。

 彼女なりの進言。私は昔から、そう解釈している。


「そうね……。落ち着いたら、埋め合わせしないと。それと、ウルスラ。アルマたちの救出がどういう結果になっても、あなたにはマールへ向かってもらうから。そのつもりでね」


「その……木箱と手紙を渡しに行けという話、ですよね? ご命令でしたら、きちんと従います」


「それだけじゃないって、分かるでしょう? あなた昔、ソウマにきつく当たってたじゃない。ちゃんと仲直りしてきなさい」


「……はい。ですが──いえ、なんでもありません」


 ウルスラの言いたいことは分かる。

 そもそも、ソウマが無事にマールに帰国出来る保証はどこにもないということ。

 お父様は、そんな彼に対して何を預けたいんだろう。


 ──はあ。考えることが一杯だわ。

 自分ではあまり意識していなかったけど、もし私が王位を継いだ場合。

 きっと、今以上に忙しくなる。


 ……もう少し、お父様の仕事を手伝ってあげないとね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ