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【4章執筆中】グローリー・スタリオン ―亜人国家に流れ着いた俺は、平穏のために大陸の覇権を争う―  作者: 桐沢清玄
第3章 二人の侍女

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29話 その頃、マール連邦では④

 ヴォルック家が持て余していた町をソウマが買い取り、新たに再建した。

 それがこの町、アンテリナだ。


 以前は人間と獣人けものびとが暮らしていたが、あまり活気が無く、寂れていたらしい。

 管轄権がソウマに移ってからは、全ての種族に移住を呼び掛け、町を再建させた。

 今では他国から来る旅人や商人も足を運ぶ、ちょっとした観光地になっている。


 商店街を適当にぶらつきながら、道行く人々の往来を眺める。

 仕事帰りの若い男や、子供連れの夫婦。

 そんな彼らに対して、店主や店員が大声で食材や出来合いの惣菜を勧めている。

 なかなか良い雰囲気だ。


(……いかん、腹が減ってきた。だが、屋敷に帰ればピーターとカミラの食事が待っているしな。ここは我慢……ん?)


 商店街の一角で、見知った顔を見付けた。向こうもこちらに気付いたようだ。

 彼女達は左手に買い物袋、右手に焼き串を携えながら駆け寄ってきた。


「あれっ、グラーネ様! 夕飯の買い出しですか?」


「んなわけないっしょ。見回りとかじゃない?」


「ミレイユとカティアか。そっちは買い出しついでに買い食いだな」


「はい、そんな感じです! ミドリさんに頼まれたんですよ。それと、なんかリサナとベティにもお使い頼まれちゃって。あいつら、なんか最近調子乗ってるっていうか……」


「今日はうちら、仕事さぼって稽古してたからしゃーない」


 ミレイユ、カティア、リサナ、ベティ。

 獣人の彼女達は、我がジンバール家に昔から付き従ってくれている。


 族長争いに敗れた時、私は彼女達を一度手放した。

 ヴォルック家の手が及ばぬように。

 だが結局、こちらの都合で再び声を掛けた。


 そして彼女達は、二つ返事で応えてくれた。

 ソウマの友人であるミドリの農場に住処を移し、毎日の畑仕事で汗を流している。

 ミドリと共に暮らすターニャを、不埒な男共から守る為だ。


 まあ、そんな男共は、あろう事かソウマに暴行を働き、まとめて始末されたが。

 その後も変わらず、ミレイユ達は農場で生活を続けてくれている。


「そういえば、あの爺さんの様子はどうだ?」


「トビアスさんですか? 特に問題ないです! 男っていっても、おじいさんですからね。農業にも詳しいんで、いろいろ教わりながら楽しくやってますよ」


 少し前、トビアスという老人がミドリの元を尋ねてきた。

 一人で畑を耕していてもつまらないから、ここで働かせてくれないかと。

 ミドリはソウマにも確認をしてから、トビアスが暮らせる小屋を農場に建てた。


 彼の家から農場に毎日通うとなると、大変だろうしな。


「!! うげっ……何であいつら、ここに来てんの。最悪なんだけど」


「……しかもなんか、こっちに歩いてきてる……」


 向かい合って話していた、二人の顔が曇った。

 視線の先は──私の後ろか。


 振り向いて、すぐに分かった。

 こんな所に、ヴォルック家の面々が勢揃いとは。

 少し前に生まれた、親帰りの子を除いて。


「やあ、オズワルド。お前がこの町に来るとは珍しいな。それと──随分と久し振りじゃないか、フェリシア。生まれた子供は元気か?」


「やあ、グラーネ。近くを通って、何となく様子を見たくなった。……お前達、挨拶はどうした」


「……どうも」


「お久しぶりです、グラーネさん」


「「……」」


 次男のチェスターと長女マーシャは、それなりに。

 三男のニコラスと四男のジョスランは軽く頭を下げた。

 やれやれ、うちの子供達の方がまともな挨拶が出来るんじゃないか?


 次男と長女は、もう十を超えているはずだ。

 三男と四男も八つ。


 我々獣人(けものびと)の体は、人間の倍ほど早く育つ。

 もっとも、早いのはあくまで体格だけで、心の成長は人間と変わらない。


 だからこそ、躾次第できちんとした挨拶くらいは出来る。

 人様の家庭に口を挟むのもどうかと思うが、こいつらの父は族長を務めている。


 ──もっとも、ヴォルック家が子に甘くなる理由は分からなくもない。

 族長争いの後に広がった疫病で、あの家は長男と次女を失った。

 我がジンバール家も、母上を失った。


 それでも、ボズウェルとの戦に一人も出さなかったのは過保護が過ぎる。

 あれは勝ち戦だったし、四人とも体格だけなら十分に戦場へ出せる年頃だ。

 若い獣人に、戦場の空気を覚えさせるには悪くない機会だったはずだ。 


「久しぶりねえ、グラーネ。相変わらず族長の真似事かしら?」


「ははっ、まさか。夫が不在だし、代わりに見回りを少々」


「それが余計なのよ。……この町、私たちへの当てつけのつもり?」


「……おいおい、勘弁してくれ。我々は対価を払って、この町を買った。その結果、以前よりも民が生き生きと暮らしている。これの何が悪いんだ?」


 周囲の者達が動揺している。

 はあ、すまんな。

 気まぐれで立ち寄ってみたが、こんな事になるとは。


「あんたらが失敗して、ソウマさんとグラーネ様が上手くやった。どっちが有能か、馬鹿でも分かると思うけど?」


「煽るな、カティア。……ミレイユも、そんな顔をするな。美人が台無しだぞ?」


「……分かりました」


 別にこっちが悪いという訳ではないが、面倒だな。

 さっさと退散しよう。


「それじゃ、我々は失礼させてもらうとしよう」


 ミレイユとカティアの肩を叩き、帰ろうとしたところで呼び止められた。


「グラーネ、お前達がこの町を再建出来た理由はなんだ? 後学の為に教えてくれ」


「金と人望、信頼だ」


 オズワルドは私の言葉を、ただ呑み込んだ。

 フェリシアは私に対し、剥き出しの敵意を向ける。


「私が産んだ親帰りのアルセナが、次の族長になるわ! あなたが産んだ親帰りの出番なんて無い! ジンバールはそのまま落ちぶれていくだけ!」




 馬を引きながら、三人で歩いて帰る途中。

 カティアが不意に口を開いた。


「……グラーネ様は、いつになったらヴォルック家とやり合うんですかね?」


「なんだ、カティア。いきなり物騒な話をするじゃないか」


「──ぜんっぜん、いきなりじゃない! あのクソ女に、どうしてもっと言い返さなかったんですか!?」


 歩みを止めたカティアは、私を睨みながら吠えた。

 馬がびくりと首を上げたので、手綱を引いて落ち着かせる。


 怒鳴られてしまったな。

 ミレイユも彼女の隣に立ち、不満げな表情を浮かべている。


「グラーネ様の祖父母である、サイラス様とエルザ様。そしてお父上であるグレン様に、私たちはとても可愛がっていただきました。大恩あるお三方をむごたらしく殺したヴォルック家を、私は許すことが出来ません。……グラーネ様は、違うのですか?」


 ミレイユとカティアは涙を流していた。

 悔しさ、怒り、やるせなさ。

 この場にリサナとベティがいたら、同じような反応をするだろう。


 ……有り難う。

 私と同じ気持ちを持ち続けていてくれて。


「獣人でありながら、耳を犠牲にしてでも銃の訓練に励んでいるお前達だ。分かっているだろう? ヴォルック家を滅ぼすのは難しくないと」


「だったら……!!」


「カティア、私はな──ソウマに嫌われたくないのだ」


「「……へっ?」」


 困惑する二人に対し、言葉を続ける。

 私の正直な気持ちを聞いてもらうとするか。


「打算であいつと結婚したが、思った以上にいい男だ。だから、こう思っている。私情だけで先走って、幻滅されたくない」


 私は、二人に頭を下げた。

 臣下への礼と、友としての願いを込めて。


「時は必ず来る。それを待って欲しい。……頼む」


「ちょっ……頭を上げてくださいよ、グラーネ様! 待ちますから、ちゃんと! ミレイユも、ほら!」


「私たち、大人しくしてるので! ……でも、ふふっ……。意外と可愛いところありますよね、グラーネ様」


「分かってくれたなら結構。……そら、帰るぞ」


「「あっ、照れてる」」


 一悶着あったが、まあこんな一日もありか。

 ソウマが帰ってきたら、二人で買い物にでも行こう。

 たまには子供を屋敷の者達に任せて、な。

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