↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
98/531

ドラゴン討伐

 カンカンカンカン――。


 けたたましい鐘の音が、エキドナ本部に響き渡った。


「何事ですの!?」


 ガブリエルが驚いて立ち上がる。


 エミリア、フローラ、ケヴィン、シェリーも一斉に周囲を見回した。


「ドラゴンだねー」


 マドカは、まるでいつものことのように言った。


「ドラゴン!?」


「ええ。討伐要請でしょうね」


 ティニアも大して慌てていない。


「大丈夫だよ~。現場まで行かなくても、ここから見られるから」


 ニコラが魔道具を取り出した。


 それを起動すると、五人の目の前に大きな映像が浮かび上がる。


「現場に撮影用の魔道具を置いてあるの。そこから映像を飛ばしてるんだよ~」


「なるほど……」


「危険な場所まで見学者を連れていくわけにもいきませんからね」


 エレノアが説明する。


「これなら安全なところから見られますわね」


 ガブリエルが映像へ目を向けた。


 そして――。


「ど、ドラゴンですわあああああああ!?」


 画面いっぱいに映った巨大な姿を見て、五人が一斉に叫んだ。


 大きい。


 想像していたよりも遥かに大きい。


 巨大な翼を広げ、その巨体だけで周囲を圧するような存在感を放っている。


「ほ、本物……」


「こんなの、近くにいたら怖すぎるでしょう……」


 五人が驚いている一方、現場では冒険者たちが次々と集まっていた。


「ドラゴン……」


「本当に勝てるのか?」


 不安そうな声も聞こえる。


 それでも、誰も逃げ出そうとはしなかった。


 それぞれが武器を構え、できる限りの準備を整えている。


 クライブもその中にいた。


「……ドラゴンか」


 町では、現在確認されている最高難易度のモンスターとして、十九層級という話が出回っている。


 クライブ自身は十九層へ行ったことはない。


 ただ、以前に十九層級の討伐へ参加した冒険者から、その時の戦いがどれほど大変だったのかを聞いたことがある。


 だから、クライブの中にある十九層級の戦いというものは、あくまで他人から聞いた話をもとにした想像だった。


「……これが、そういうやつか」


 そう呟きながら、クライブも剣を握り直す。


 そこへ――。


「第一王女、エレノアです」


 冒険者たちの前に、一人の少女が進み出た。


「今この町には第二王女ガブリエルと、その友人がスロリアゴールの見学に来ています」


 エレノアは後方へ目を向けた。


「万が一にも危険が及ばぬよう、私が指揮を執ります」


 冒険者たちがざわめく。


「王女殿下が指揮を……?」


「まあ、第二王女殿下がいるなら、分からなくもないが……」


 その理由自体は理解できる。


 王族、それも第一王女なのだから、妹である第二王女の安全を考えるのは当然だろう。


 だが。


「……第一王女殿下も前に出るのか?」


 その疑問は誰もが持った。


「戦闘可能な方は、私たちの後に続いてください」


 エレノアが剣を抜く。


「無理に前へ出る必要はありません。私の指示に従ってください」


 そして――。


「来ます!」


 ドラゴンが地面を震わせながら突進してきた。


「散開!」


 エレノアの号令と同時に、冒険者たちが左右へ散る。


 ドラゴンの爪が大地をえぐった。


「今です!」


 エレノア自身が駆け出す。


「そこ!」


 ドラゴンが振り下ろした爪を紙一重でかわし、その懐へと入り込む。


 剣が走った。


「――はっ!」


 ドラゴンの鱗が斬り裂かれる。


「……え?」


 後ろで見ていた冒険者が呆然とする。


 王女だ。


 間違いなく第一王女エレノアだ。


 なのに――。


「強すぎないか!?」


 その言葉が飛び出した。


 その横をマドカが駆け抜けていく。


「こっち!」


 ドラゴンの攻撃を軽々とかわし、死角へ回り込む。


「せいっ!」


 剣閃が走る。


「任せろ!」


 さらにブリジットが続いた。


 真正面から力をぶつけるのではなく、ドラゴンの動きを利用して身体を流し、その脇へと潜り込む。


「そこだ!」


 斬撃が鱗を削る。


「なんだ、あれ……」


「王女殿下だけじゃないぞ」


「いや、あいつら全員おかしくないか!?」


 冒険者たちも必死だった。


 剣を振り、槍を突き、魔法を撃つ。


 ドラゴンへ少しでも傷を与えようと、全力で食らいついている。


 クライブも前へ出て剣を振った。


「くそっ!」


 何とか鱗へ食い込ませる。


 しかし、次の瞬間にはドラゴンが振り向いた。


「うわっ!」


 クライブが慌てて飛び退く。


 爪が目の前を通り過ぎる。


 怖い。


 これまで聞いていた話とは違う。


 実際に対峙してみれば、たった一度の判断ミスが命取りになる。


 それでも戦うしかない。


 クライブは歯を食いしばり、もう一度踏み込んだ。


 その時だった。


 ドンッ!


 銃声が響く。


「グオオッ!?」


 アリシアの銃弾がドラゴンの身体へ撃ち込まれた。


 続いて魔法が飛ぶ。


「そこよ!」


 リゼットの魔法がドラゴンの動きを止める。


「こっちもいくよー!」


 ティニアの魔法が翼へ向かう。


 ドラゴンが咆哮した。


 大地が震える。


 普通の冒険者なら、その威圧感だけで動けなくなっても不思議ではない。


 だが、マドカたちは止まらない。


 エレノアが攻撃を誘い、マドカが死角へ回る。


 ブリジットが隙を突き、後方からアリシアが正確に撃ち抜く。


 リゼットとティニアの魔法が、その動きをさらに制限する。


「右です!」


「了解!」


「今!」


 連携が完全に噛み合っていた。


 クライブは剣を握りながら、その戦いを見ていた。


 十九層級の討伐に参加した冒険者から、聞いた話を思い出す。


 危険なモンスター。


 何人もがかりで戦った。


 とても恐ろしかった。


 強敵だった。


 そんな話を聞いて、自分の中で勝手に思い描いていた。


 これが、きっと十九層級の戦いなのだろうと。


「……違うな」


 クライブが呟く。


 目の前にいる連中は、そんな想像より遥かに上だった。


 そして、それだけではない。


「……こいつら、余裕があるのか?」


 気づいてみれば、攻撃が妙に慎重だった。


 ドラゴンを一気に仕留めるような一撃を避けている。


 翼を壊さない。


 鱗を必要以上に傷つけない。


 致命傷になりそうな箇所も狙わない。


「なんで……?」


 自分たちが必死に戦っているその横で、エキドナはまるで別のことを考えているようだった。


「素材にしたいから、壊しすぎないでねー」


 後方からマドカの声が聞こえる。


「分かってるわ」


 リゼットが返した。


 ドラゴンが最後の抵抗とばかりに大きく口を開く。


「ブレス!」


 冒険者の一人が叫ぶ。


 だがエレノアは落ち着いていた。


「下がってください!」


 マドカとブリジットが即座に距離を取る。


 リゼットが一歩前へ出た。


「もう終わりね」


 ドラゴンがブレスを放つ。


「――氷結」


 瞬間。


 ドラゴンの巨体が、一気に白く染まった。


 頭から足まで。


 翼も、爪も、胴体も。


 すべてが凍りつく。


 ドラゴンの動きが完全に止まった。


 やがて冷気が晴れる。


 そこに残されていたのは――。


 ほとんど傷のない、巨大なドラゴンの死体だった。


 静寂。


「……か、勝ったのか?」


 冒険者の一人が呟く。


「ええ」


 エレノアが頷いた。


「まぁ、あまり遭遇したことがない冒険者の方もいるかもしれませんね」


 エレノアは周囲を見渡す。


「ですが、この程度でしたら、スロリアゴールでは月に一、二回はありますよ」


「月に一、二回!?」


 冒険者たちが一斉に驚く。


「我々が討伐に参加するのは、皆さんだけでは対処が難しそうな場合だと思ってください」


 エレノアは穏やかに続けた。


「今回は、第二王女が見学にいらしていますし、万が一のことがあってはいけませんから」


 その言葉に、冒険者たちは改めて後方を見る。


 確かに、重要人物が見学に来ているのだ。


 エキドナが出てきた理由も理解できる。


 ただ――。


 目の前のドラゴンを見る限り、とても「万が一を防ぐための応援」に見えなかった。


 そこへリゼットが歩み寄ってくる。


「死体はこちらで持って帰るけれど、ドラゴンのデータは自由にしてちょうだい」


「……え?」


 冒険者たちが顔を上げた。


「魔力が消えるまでがリミットよ。今ならまだデータ化できるでしょう」


「本当ですか!?」


「ええ」


 リゼットが微笑む。


「横取りのようになってしまったけれど、データで勘弁してちょうだい」


「おおおおおおおおおおおお!!」


 冒険者たちから一斉に歓声が上がった。


 実際にドラゴンを倒したのはエキドナだ。


 だが、データは自由。


 少しでも攻撃に参加した冒険者たちにとっては、思いがけない大きな収入になる可能性がある。


 それどころか、今回の討伐に参加したこと自体が何らかの形で記録されることもある。


 クライブも周囲の様子を見ながら、静かに息を吐いた。


「……ドラゴンか」


 データにできるなら、売れる。


 以前から受けているモンバトのデータ販売の依頼もある。


「……王女殿下、欲しがるだろうな」


 そう呟いて、クライブもデータ化の準備を始めた。


 一方、エキドナ本部では――。


「よいしょっと」


 戻ってきた一行が、巨大なドラゴンの死体を置く。


「さて、これどうするかねぇ」


 グレタが腕を組む。


「鱗は魔道具に使えそうだね~。爪も使えそう~」


 ニコラもさっそく死体を観察している。


「骨も色々できそうだな」


「その辺はあとで調べよう~」


 ドラゴンを倒した直後だというのに、二人の興味はすでに素材の利用方法へ向いていた。


 一方、魔道具を通して戦闘を見ていた五人はというと――。


「す、すごかったですわ……!」


 ガブリエルが目を輝かせている。


「本物のドラゴンって、あんなに大きいんですのね!」


「しかも、本当にあんなふうに戦えるなんて……」


 エミリアも興奮している。


「前衛の動き、凄かったですわ」


 フローラも目を離せない。


「魔法だけじゃないんですね……」


 ケヴィンも呆然としていた。


 シェリーはというと、目を輝かせたままドラゴンの姿を何度も思い返している。


 これまで五人が、本物のモンスターをあんな間近で見ることなどほとんどなかった。


 ましてやドラゴンなど、絵やカードで見る存在だった。


 それが今、目の前で本当に戦っていた。


「……エキドナって」


「やべぇ……」


「本当に、とんでもないところですわね……」


 五人は改めて、エキドナという組織の凄まじさを思い知る。


 その時。


「あら?」


 ガブリエルがドラゴンの死体を見る。


「そういえば、そのドラゴンからデータは取れませんの?」


「んー?」


 マドカが首を傾げる。


「もう冒険者達が魔力抜き取ったから、時間切れだね~」


「……え?」


 ガブリエルの表情が固まった。


「冒険者……」


 そして――。


「冒険者! 汚いですわ!」


「えー?」


 マドカが笑う。


「別にいいじゃん。データは冒険者のものになったんだし」


「よくありませんわ!」


 ガブリエルは本気で悔しそうだ。


 だが、その直後。


「……あら?」


 ふと思い出した。


 冒険者の中には、クライブがいた。


 そして、彼は以前からモンバトのデータを売る依頼を受けている。


「……もしかして」


 ガブリエルの口元が少しだけ緩む。


 もしクライブがドラゴンのデータを手に入れていて、それを買い取ることができれば。


「これで……マドカに勝てるかもしれませんわね!」


 その考えは、口には出さない。


 もちろん、エミリアたちにも教えない。


「ふふ……」


 ガブリエルは、密かに胸の内でほくそ笑んだ。


 そんなこととは知らず、他の四人はドラゴン討伐の話で盛り上がっていた。


 その後、五人はエキドナの転移魔法で王都へ戻ることになった。


 エキドナ本部から直接帰れるのだから、本当に便利である。


 王都へ戻った五人は、そのまま帰宅することなく、近くの喫茶店へ入った。


「それにしても、今日はすごい一日でしたわね」


「まさかドラゴンを本当に見ることになるなんて……」


「エキドナって、普段からあんなことをしているんでしょうか」


「月に一、二回って言ってましたわよね……」


 五人はテーブルを囲みながら、今日見た戦いについて次々と感想を口にする。


 エキドナの戦力。


 エレノアの指揮。


 マドカたちの前衛。


 アリシアの銃。


 リゼットとティニアの魔法。


 そして、最後の冷凍。


 どれを取っても、今日初めて知ったことばかりだった。


「また行きたいですわ」


 シェリーが楽しそうに言う。


「私もです」


 エミリアも笑う。


「モンバトだけのつもりでしたけれど、思った以上に色々ありますのね」


 フローラが言う。


 その横で、ガブリエルは紅茶を一口飲みながら、静かに微笑んでいた。


 ――ドラゴン。


 もし、あのデータが手に入ったなら。


「……ふふ」


 まだ、誰にも教えるつもりはない。


 ガブリエルの中では、すでに次のモンバトの勝負が始まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。