モンバト部設立
「では、ガブリエル様。ごきげんよう」
「ごきげんよう、エミリアさん」
放課後。
廊下で顔を合わせたエミリアは、いつもより少し嬉しそうだった。
「実は、新しいカードが手に入りましたの」
「……新しいカード?」
ガブリエルの目が、ほんの少しだけ動く。
「ええ。この間、ガブリエル様が買ってくださったおかげで、わたくしのデッキもかなりパワーアップしましたわ」
「そうですの?」
「はい。あのときは本当にありがとうございました」
エミリアが取り出したカードを見て、ガブリエルの目が輝いた。
「……これは」
「ふふっ。なかなかでしょう?」
「……いいですわね」
「でしょう?」
「エミリアさん」
「はい?」
「一戦、いかがです?」
「もちろんですわ!」
二人はそのままモンバトの対戦スペースへ向かった。
エミリアが新しいカードを投入したことで、以前とはまるで違う戦いになった。
「そこですわ!」
「まだです!」
「この組み合わせなら……!」
互いにカードを切り替え、相手の動きを読み合う。
しかし――。
「……そこまでですわね」
最後に立っていたのは、ガブリエルだった。
「……やはり、敵いませんか」
エミリアは悔しそうにしながらも、どこか楽しそうだった。
「ですが、以前よりはかなり戦えるようになりましたわ」
「ええ。とても良かったですわ」
ガブリエルも満足そうに頷く。
そしてエミリアは、ふと周囲を見渡した。
「こうして考えますと……」
「?」
「モンバトというのは、貴族に圧倒的に有利ですわね」
「……まあ、そうですわね」
カードを集めるにはお金がかかる。
珍しいカードなら、なおさらだ。
一般の生徒にはなかなか手が届かないカードでも、貴族なら購入できる。
だからこそ、学園内では自然と貴族の生徒たちが強くなっていた。
「それにしても」
エミリアが笑う。
「ガブリエル様とこうしていつでも対戦できるというのは、いいものですわね」
「……」
ガブリエルが少しだけ考える。
「そう、ですわね」
「でしたら――」
エミリアが提案した。
「部活でも立ち上げませんか?」
「……なんですって?」
ガブリエルの目が、ぴくっと動いた。
「モンバトの部活ですわ」
「部活……」
「ええ。学校なら、対戦相手も見つけやすくなりますでしょう?」
「…………」
ガブリエルは考え込む。
自分から部長になりたいわけではない。
そもそも、そこまで大げさなことをするつもりもなかった。
けれど――。
自分と対戦したいと思ってくれる人がいる。
一緒にモンバトを遊びたいと思ってくれる人がいる。
そう考えると、少しだけ嬉しかった。
「部長は……」
ガブリエルが口を開く前に、エミリアが言う。
「ガブリエル様ですわ」
「え?」
「ガブリエル様が一番詳しいではありませんか」
「ですが……」
「それに、わたくしたちはガブリエル様と対戦したくて入るのですもの」
「……」
ガブリエルは少しだけ頬を緩めた。
そして、顔を逸らす。
「し、しょうがありませんわね!」
こうして、モンバト部の設立が決まった。
しかし、学校の部活動には一つ条件があった。
「五人以上の部員が必要です」
「五人……」
ガブリエルが呟く。
するとエミリアがすぐに言った。
「わたくしは入りますわ」
「では、わたしも」
声を上げたのはフローラだった。
「エミリア様がお入りになるのでしたら、わたしも入りましょう」
「フローラ……」
その隣にいたケビンが、ため息をつく。
「俺も入る」
「ケビン?」
「フローラは俺がいないと何をするかわからんからな」
「何それ?」
「……何でもない」
ケビンは呆れたような顔をしていた。
だが、その視線はどう見てもフローラを気にかけている。
そして最後の一人。
「……わたくしも?」
シェリーが自分を指差した。
「はい」
「わたくし、モンバトはそんなに詳しくないのですが……」
「五人目が必要ですから」
「……そういうことですか」
少し考えたあと、シェリーは頷いた。
「では、可愛いモンスターを集めることにします」
「目的が独特ですわね……」
こうして五人の部員が揃った。
モンバト部は、無事に設立されたのである。
そして、最初の部活動の日。
ガブリエルは部員たちを前にして、真剣な顔をしていた。
「まず皆さんに、知っておいていただきたいことがありますわ」
「何でしょう?」
エミリアが尋ねる。
「このモンバト界には、とんでもない方がいますの」
「とんでもない?」
「ええ」
ガブリエルは頷いた。
「その名は――マドカ」
「……マドカ?」
フローラが首を傾げる。
「彼女は十九階層ダンジョンの攻略者ですわ!」
「十九階層!?」
全員の声が重なった。
「そうですわ!」
ガブリエルは勢いよく続ける。
「普通なら命懸けで挑む場所ですのよ!」
「それを攻略した……?」
「ええ。そして、あの方は遊び感覚でカードを掘りに行くんですの!」
「…………」
「やばすぎですわ!」
ケビンが腕を組む。
「十九階層攻略者ってだけでも相当だろ……」
「さらに、お父様のお話では――」
ガブリエルはそこで一度、間を置いた。
「マドカさんは、SS級冒険者になるのは確定らしいのですわ」
「SS級!?」
「ですが本人がやる気がないらしくて、今はC級で止めていますの」
「…………」
「なんですかそれ」
ケビンが思わず呟いた。
「おかしいではありませんか!」
「そうでしょう!?」
ガブリエルも強く頷く。
「普通、SS級とか言ったら、ヤバいとかそういう次元じゃないぞ。伝説だぜ?」
「その通りですわ!」
ガブリエルは力強く同意した。
「なのに本人は、まるで気にしていませんの!」
「変人ですね……」
フローラが呟く。
「そして、あの方が立ち上げた組織の名は――」
ガブリエルが、さらに声を落とす。
「《エキドナ》ですわ!」
「なんですって!?」
「災厄じゃねぇか!」
ケビンが即座に反応した。
「エキドナって、神話の……」
エミリアも少し不安そうな顔をする。
「ええ。恐ろしい怪物の母ですわ」
「そんな名前の組織を……?」
「ですが、実際にはそこまで恐ろしい組織ではありませんわ」
ガブリエルが慌てて付け加える。
「会うのは難しくありませんもの。あの方、いつも屋台で買い食いしていますし」
「十九階層攻略者が屋台で買い食い……?」
ケビンが呆れる。
「そこで、部員の皆さんが直接交渉して、データを買うというのは許可いたしましょう」
「本当ですか!?」
「ええ。ただし――」
ガブリエルは胸を張った。
「**わたくしは買いませんわ!**」
「なんでです?」
フローラが尋ねる。
「決まっていますわ!」
ガブリエルは悔しそうに言った。
「あの方、適正な値段以下でばらまくように売ってくれるでしょう」
「……ああ」
エミリアが納得する。
「十九階層攻略者なら、そのくらい痛くないということですか?」
「ええ」
「つまり……」
ケビンが考える。
「いくらでも量産できる立場なのでしょうね」
「…………」
ガブリエルは黙った。
そして――。
「……なんか」
ぎゅっと拳を握る。
「**なんか、悔しいんですわ!!!**」
部員たちは思わず顔を見合わせた。
その後、彼女たちはエキドナ本部を見学することになる。
そしてそこで、さらに驚くことになるのだった。
「わたくしの紹介といえば、お姉様がエキドナ本部に住んでいますし、あなた達も顔なじみでしょう?」
「エレノア様が!?」
「ええ。見学もさせてくれるでしょう」
「本当に?」
「もちろんですわ」
ガブリエルは得意げに続ける。
「なんと、モンバトの開発者はエキドナ所属のニコラ様なのですわ!」
「な、なんですって!?」
「開発者に会える!?」
「それより――」
ガブリエルが言う。
「エキドナのメンバー、ほぼ全員が十九階層参加者と思えばよろしいですわね」
「な――」
「ほぼ全員!?」
「エレノア様もかよ!」
ケビンが叫ぶ。
その横でシェリーだけが目を輝かせた。
「かわいい子、いますかねー」
「シェリー、そこですの!?」
こうして五人のモンバト部員は、エキドナ本部へ向かうことになる。
そこで彼女たちが見たのは――。




