学園モンバト
「まあ、そのカード……!」
昼休み。
学園の中庭で、数人の令嬢たちが集まっていた。
その中心にいる令嬢が、得意げに一枚のカードを取り出している。
「国外でしか手に入らないものですのよ」
「まあ!」
「素敵ですわ!」
周囲から上がる感嘆の声。
その様子を少し離れた場所から見ていたガブリエルは、手に持っていたモンバトのカードを一枚、静かにケースへ戻した。
別に興味がないわけではない。
むしろ、かなり興味がある。
だからこそ。
「……そのカード、どちらで?」
思わず口を挟んでしまった。
令嬢が振り返る。
「あら、ガブリエル様」
「少し気になりましたの」
「ふふ。これは父が外国の商人から取り寄せてくれたものですの。なかなか手に入らないそうですわ」
「そうですか」
ガブリエルはカードを見る。
確かに珍しい。
国外データ。
それだけでも価値はある。
しかし――。
「でも、そのカード……」
「何か?」
「戦闘では、それほど強くありませんわよ?」
空気が止まった。
「…………」
「…………」
令嬢がゆっくり笑う。
「まあ」
声だけは穏やかだった。
「ガブリエル様は、カードの価値より強さを重視なさるのですね」
「ええ」
ガブリエルは即答した。
「モンバトですもの」
「ですが、珍しいカードを持っているということも、大切ではなくて?」
「それはそうですわね」
「でしたら――」
令嬢は胸を張った。
「わたくしのほうが、モンバトをよく理解しているのでは?」
ガブリエルは少し考えた。
そして。
「では、対戦します?」
「……え?」
「実際に戦えば、どちらがモンバトを理解しているか分かりますわ」
令嬢の顔が引きつった。
周囲の令嬢たちがざわめく。
「対戦……?」
「この二人が?」
「ガブリエル様って、モンバトになると本当に……」
「いいでしょう」
令嬢がカードケースを取り出した。
「受けて立ちますわ」
「よろしくお願いします」
二人がモンバトを起動する。
周囲の令嬢たちも、興味津々で集まってきた。
やがて幻影が展開される。
「それでは――」
「開始ですわ!」
戦闘が始まった。
最初こそ、令嬢のほうが優勢だった。
「見ました?」
「わたくしのカードは、この魔法が使えますの!」
「お見事ですわ!」
しかし。
ガブリエルは慌てない。
相手の攻撃を受けながら、淡々と盤面を見ている。
そして。
「そこですわ」
一手。
「え?」
もう一手。
「な、なぜ……?」
さらに一手。
令嬢の幻影が崩れた。
「…………」
勝敗が表示される。
ガブリエルの勝利。
「…………負けましたわ」
令嬢が呆然と画面を見る。
ガブリエルは、満足そうに微笑んだ。
「モンバトは、カードの値段で戦うものではありませんもの」
「…………」
「もちろん、珍しいカードを集めるのも楽しいですけれど」
ガブリエルは先ほどのカードを見る。
「そのカード、わたくしも欲しいですわ」
「え?」
「交換しません?」
「……ええっ!?」
さっきまで勝負で負けたことに落ち込んでいた令嬢が、慌ててカードを抱え込む。
「い、いえ! これは父から頂いた大切なカードで――!」
「では、交換ではなく……」
ガブリエルは少し考える。
「次の対戦で勝ったら、譲っていただけます?もちろんレアカードなわけですから相当な金額をお約束いたしますわ!お父様とご相談なさって!わたくしは本気ですわよ!」
「まだやるんですの!?」
「もちろんですわ」
ガブリエルはモンバトを構えた。
その目は、完全に獲物を狙う目だった。
「今度は、もっと強いカードを使ってくださいませ」
「……!」
令嬢は一瞬怯えた。
だが。
「……いいでしょう」
カードケースを開く。
「今度こそ勝ちますわ!」
「楽しみですわね」
その日。
学園では、二人の令嬢による謎のモンバト決闘が何度も繰り返された。
そして翌日。
学園中に一つの噂が広まった。
――第二王女ガブリエル殿下には、モンバトで絶対に喧嘩を売ってはいけない。
なお本人は。
「もっと国外のカードが欲しいですわ……。あの子からも売ってもらえるようですし。やっぱり適正価格+お礼金は当然ですわね!」
そんなことを考えていた。




