やべぇ村に入っちゃったよ!
レアモンを探して、マドカとティニアは森の中を走っていた。
「んー……こっちかなー」
マドカは時折立ち止まりながら、手にしたレーダーを確認する。
「まだ遠い?」
「うーん。結構遠いね」
「そう……」
ティニアが肩を落とす。
マドカも少し疲れていた。
「お腹すいた」
「私も」
「なんか食べたい」
「食堂とかないかなー」
二人はレアモンを探している途中だった。
別に急いでいるわけではない。
だからこそ、腹が減ったなら食べる。
そんな軽い気持ちで走っていると、森の向こうに家々が見えてきた。
「村だ!」
「ラッキー」
二人はそのまま村へ入っていった。
そして。
「……我が身に宿りし力が、再び疼いている……」
「闇が……近い……」
「選ばれし者よ、ここで立ち止まるがいい!」
「ククク……今宵もまた、禁断の力を解き放つ時が来たか……!」
「…………」
「…………」
マドカとティニアは顔を見合わせた。
村人たちが、ものすごく真剣な顔で妙なことを言っている。
「……何やってるんだろ?」
「……さあ?」
マドカが首を傾げる。
すると、近くにいた村人が二人に気付いた。
「むっ!」
「何者だ!」
「この村に何用で訪れた!」
妙に芝居がかった声だった。
「えっと……」
マドカが答えようとした、その前に。
「ふ……」
ティニアが一歩前に出た。
「我らが目的を、そう簡単に語ると思うか?」
「!」
村人の目が見開かれる。
「なるほど……」
「もしや……」
「同胞か!」
ティニアは得意げに胸を張った。
「我が名はティニア。遥かなる空より舞い降りし妖精なり」
「おお……!」
「妖精……!」
「しかも自ら正体を……!」
村人たちがざわめく。
マドカはしばらく眺めていた。
そして、ようやく理解した。
――ああ。
――これ、そういう遊びなんだ。
「なるほどね」
マドカもティニアの隣に立つ。
「私はマドカ。時を越えし者……」
「おおおおおっ!」
「時を!」
「やはり選ばれし者!」
村人たちの反応が凄い。
マドカはちょっと楽しくなってきた。
「そう。私たちは今、あるものを探して旅をしているの」
「あるもの……?」
「そう」
マドカは遠くを見つめる。
「この世界のどこかに存在すると言われる、幻の存在を……」
「レアモン?」
ティニアが普通に言った。
「そう、それ」
「…………」
「…………」
村人たちが静まり返る。
「……レアモン?」
「うん」
「幻の存在を……探しているのか?」
「そうだよ」
「なるほど……」
村人の一人が腕を組む。
「神々に導かれし旅……」
「うん」
「選ばれし者が、世界の理に触れようとしている……」
「うん?」
「そして、その先に待つのは――」
「食堂」
「…………」
「お腹すいたから」
マドカは普通に言った。
村人たちは顔を見合わせた。
「……深い」
「深すぎる」
「食こそ力……」
「力を得るための食……」
「なるほど。そういうことか……!」
「いや、たぶん違うよ」
マドカは笑った。
結局、二人は村の食堂へ案内された。
「本日のおすすめはステーキだ」
「ステーキ!」
マドカの目が輝く。
「それ!」
「我が腹も、今まさに血肉を求めている……」
ティニアも乗っかった。
「おお……!」
店員が感動したような顔をする。
「さすがは妖精殿……!」
「そういうことじゃないと思うけどね」
しばらくして。
目の前に大きなステーキが運ばれてきた。
「いただきまーす!」
「……いただこう」
二人は食べ始めた。
そして。
あっという間に皿が空になった。
「ふぅー。おいしかった!」
「満足」
ティニアも満足そうに頷く。
そんな二人を、村人たちは感慨深そうに眺めていた。
「見事な食べっぷり……」
「力を蓄えているのだ」
「これから始まる戦いに備えているのだろう」
「そうに違いない」
マドカは聞こえてきた言葉に首を傾げた。
「ねえ」
「なんだ?」
「なんでみんな、さっきからそんな言葉使ってるの?」
すると、村人の一人が笑った。
「これか?」
「うん」
「数日前、この村に流れの勇者様が来られたのだ」
「勇者?」
「勇者様は、この村を襲った巨大な魔物をお一人で倒してくださった」
「へー」
「そして何日か村に滞在されてな」
「うん」
「神々から伝わりし言葉を、我らに教えてくださったのだ!」
「神々から……?」
「そう!」
村人が力強く頷く。
「闇!」
「光!」
「選ばれし者!」
「宿命!」
「禁断の力!」
「覚醒!」
「漆黒の――」
「それ、勇者が教えたの?」
「もちろんだ!」
村人たちは真顔だった。
「勇者様は、我らに新たな生き方を示してくださったのだ」
「そうなんだ……」
マドカは村を見回した。
大人も子供も、なんとなく中二病っぽい言葉を使っている。
どうやら、この村ではそういう遊びが流行っているらしい。
「じゃあ、これからも頑張ってね」
「おお!」
マドカが立ち上がる。
「私たちは、まだ探さなきゃいけないものがあるから」
「レアモン……!」
「そう!」
マドカは格好をつけて言った。
「まだ見ぬ存在を求め、私たちは旅を続ける!」
「おおおおお!」
村人たちが沸き立つ。
「我らも忘れない!」
「闇を!」
「光を!」
「選ばれし者の宿命を!」
ティニアがふっと笑った。
「では、我らは行くとしよう」
「うむ……」
マドカも頷く。
「汝らに祝福を」
「「「おおおおおおおっ!」」」
二人は村を後にした。
しばらく歩いてから。
「ティニア」
「なに?」
「楽しかったね」
「うん。ちょっと格好よかった」
「だよね」
二人は顔を見合わせて笑った。
そして再び、レアモン探しを始める。
「んー……」
マドカがレーダーを見る。
「こっち!」
「いた?」
「たぶん!」
二人は森の中を進んでいく。
やがて。
茂みの向こうに、小さな光が見えた。
「あれ?」
マドカが足を止める。
そこにいたのは、小さな魔物だった。
赤い宝石のようなものを額に宿し、丸くてふわふわした身体を持っている。
「…………」
マドカの目が輝いた。
「カーバンクル!」
ティニアも目を丸くする。
「レアモン……!」
「うわー! レアモンだー!」
マドカは嬉しそうに駆け寄った。
「かわいい!」
カーバンクルは警戒するようにマドカを見つめている。
「大丈夫だよー。捕まえたりしないから」
マドカはしゃがみ込み、ゆっくり手を差し出した。
「一緒に来る?」
しばらく見つめ合う。
やがてカーバンクルが、そっとマドカの手に鼻先を寄せた。
「……!」
マドカの顔がぱっと明るくなる。
「よしよし。うちにおいで」
カーバンクルは逃げなかった。
むしろ、そのままマドカの腕へ身体を預けた。
その瞬間。
マドカの中に、不思議な感覚が走った。
「……あれ?」
レアモンとして認識された。
「登録された?」
「たぶん」
ティニアが頷く。
「仲間になったのね」
「うん!」
マドカはカーバンクルを抱き上げた。
「かわいいなー!」
こうして。
レアモンを探しに出かけたマドカとティニアは、妙な中二病村でステーキを食べ、流れの勇者が残していった謎の文化に触れたあと。
目的だったレアモン、カーバンクルを連れて帰ることになった。
なお。
このカーバンクルが後にモンスターゲット・バトラーの人気カードとなり、さらに様々な商品へ姿を変えることになるのだが。
それは、もう少し先の話である。




