オタクお嬢
銀翼の黎明から話を聞いたクライブは、その後もしばらく町を歩いていた。
武器屋や防具屋を見て回り、魔道具店にも立ち寄った。
スロリアゴールには、王都では見かけないような商品が多い。
辺境の町だというのに、品揃えだけなら王都にも負けていない。
その理由は、この周辺に生息するモンスターが強いからだ。
強いモンスターがいる。
ならば、そこから得られる素材も珍しいものが多い。
冒険者としては、悪くない町だ。
そして、もう一つ。
クライブには気になっている店があった。
「データ屋……か」
商業ギルドが運営しているという、モンスターのデータを扱う店。
昨日買ったばかりのモンバトを持って、クライブは店へ入った。
「いらっしゃいませ」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「はい、なんでしょう?」
「モンスターのカードって、実際どのくらいの値段になるんだ?」
店員は慣れた様子で説明する。
「モンスターによってかなり違いますよ。珍しい種類なら高くなりますし、同じ種類でも生息地や能力によって価格が変わることがあります」
「同じ種類でも?」
「はい。生息地によって能力が違う個体もいますから」
「へぇ……」
クライブがカードを眺めていると、横から声がした。
「そうなんですの!」
「ん?」
「そこがモンバトの面白いところなんですのよ!」
振り返る。
そこには、一人の少女がいた。
上品な服装。
整った顔立ち。
見るからに裕福な家の令嬢だった。
少女はカードを見ながら、目を輝かせている。
「同じゴブリンでも、王都周辺のゴブリンと、この辺りのゴブリンでは強さが違うんですの! もちろん個体差もありますし、持っているスキルや魔法まで違う場合がありますのよ!」
「……詳しいな、お嬢さん」
「当然ですわ!」
少女は嬉しそうに胸を張った。
「モンバトをやるなら、そこを見ないと駄目ですもの!」
「そこまで違うのか?」
「違いますわ!」
食いついた。
「例えば同じランクのモンスターでも、攻撃系のスキルを持っている個体と補助系のスキルを持っている個体では、戦わせた時の使い方がまったく違いますの! それに魔法を持っているかどうかでも変わりますし、同じ魔法でも組み合わせ次第で戦い方が変わりますでしょう?」
「……そうなのか」
「そうなんですの!」
少女は止まらない。
「だからカードの価値も単純に強さだけでは決まりませんのよ! 珍しいスキルを持っているとか、珍しい魔法を覚えているとか、そもそもそのモンスター自体が珍しいとか、生息地が珍しいとか! そういうのが全部関係してくるんですの!」
「なるほどな」
「それにですわ!」
「まだあるのか?」
「ありますわ!」
即答だった。
「国外のモンスターなんて、今は特に貴重なんですのよ!」
「国外?」
「ええ!」
少女は嬉しそうに身を乗り出す。
「モンバトは今や国外にも輸出されていますでしょう? ですから国外の生息地のデータは、まだほとんど出回っていませんの!」
「なるほど」
「王都のデータ屋さんですと、どうしても王都周辺のモンスターが多くなりますでしょう? もちろん王都周辺にも珍しい個体はいますけれど、同じ種類のカードばかりでは面白くありませんもの!」
「……お嬢さん、かなり好きなんだな」
「大好きですわ!」
即答だった。
「わたくし、珍しいカードなら何でも欲しいんですの!」
「何でも?」
「ええ、何でもですわ!」
少女の目がさらに輝く。
「強いモンスターも好きですし、珍しいスキルを持っているモンスターも好きですし、見たこともない魔法を使うモンスターも好きですわ! それに生息地が特殊なモンスターも集めたくなりますでしょう? 国外のカードなんて、持っているだけで自慢できますもの!」
「自慢するためなのか?」
「もちろんですわ!」
まったく迷いがない。
「学園のお友達と対戦するときに、見たことのないカードを出した時のあの瞬間が最高なんですの!」
「……」
「『それどこのカード!?』って聞かれるでしょう? そこで『ふふっ、内緒ですわ』って言うんですの!」
少女は楽しそうに笑う。
「そして実際に戦わせてみたら、見たことのないスキルを使って勝つんですのよ! 最高でしょう!?」
「……そういう楽しみ方もあるんだな」
「そうですわ!」
クライブには、だんだんこの少女のことが分かってきた。
強さを求めているというより。
珍しいものを集めることそのものが好きなのだ。
「そういえば、国外のカードは持ってるのか?」
「もちろんですわ!」
少女は嬉しそうに答えた。
「わたくしも一枚、おみやげにいただきましたの!」
「おみやげ?」
「ええ!」
少女は少しだけ得意げになる。
「とっても珍しいカードですのよ!」
「どんなモンスターなんだ?」
「それは秘密ですわ!」
「なんでだよ」
「だって、お友達に知られたら狙われますもの!」
「……そこまでか?」
「そこまでですわ!」
カードを大事そうにしまう。
「レアカードは、簡単に人に見せるものではありませんの!」
「そういうものなのか……」
クライブには、いまいち理解できない。
だが、この少女が本気でモンバトのカードを集めていることだけは、よく分かった。
「ところで、あなたは冒険者なのでしょう?」
「ああ」
「何ランクですの?」
「俺か? Aだ。昨日この町に来たばかりでな。モンバトも買ったばかりだから、まだよく分かってないんだ」
「まぁ!」
少女の目が輝く。
「Aランクですの!?」
「ああ」
「でしたら、かなり強いモンスターも倒せますのね!」
「まぁ、それなりにはな」
「それは素晴らしいですわ!」
また食いついた。
「でしたら、珍しいモンスターを見つけたら、ぜひカードにしていただきたいですわ! 特にまだ出回っていない生息地のカードなんて最高ですの! 同じ種類でも違うスキルを持っていたり、珍しい魔法を使ったりする個体なら、なおさらですわね!」
「分かった分かった」
「本当に分かってますの?」
「分かってるよ」
「なら安心ですわ!」
少女は満足そうに頷いた。
「わたくし、レアな物なら何でも好きですの!」
「例えば?」
「そうですわねぇ……」
少女は少し考える。
「ミノタウロスとか!」
「ミノタウロス?」
「筋肉ムチムチで、とっても格好いいですわぁ~!」
「おいおい。ミノタウロスなんてダンジョンにしかいないぞ」
「いませんの?」
「少なくとも、この辺りにはいないな」
「でもデータでは売っていましたわよ?」
「データなら、まぁ……」
「それに、お父様も持っていますし」
「…………」
クライブは少女を見る。
そして思った。
――やべぇ。
このお嬢さん、かなり金持ちなんじゃないか?
「ミノタウロスみたいなモンスターは、さすがに一人じゃ厳しいぞ」
「まぁ、そうなんですの?」
「ああ。俺も今、パーティーを探してるところだ」
「そうでしたの!」
少女は少し残念そうな顔をした。
だが、すぐに笑顔に戻る。
「でも、冒険者の方は今とっても美味しい職業だと聞いていますわ!」
「美味しい?」
「素材も手に入りますし、カードにして売ることもできますでしょう?」
「確かに、素材とデータの両方を売れるなら、小遣いにはなるな」
「でしょう!」
少女は嬉しそうに頷く。
「ですから、わたくし、いつでもレア物カードを待っていますわ!」
「待ってるって……」
「珍しいものを見つけたら、ぜひわたくしに売ってくださいませ!」
「……分かったよ」
「楽しみにしていますわね!」
少女は満面の笑みを浮かべた。
クライブは苦笑する。
どうやらこの町には、冒険者に依頼してまでモンバトのカードを集める人間もいるらしい。
その時だった。
「ガブリエル!」
店の外から、少女を呼ぶ声が聞こえた。
「お姉様!」
少女――ガブリエルが振り返る。
店へ入ってきたのは、クライブも知っている人物だった。
「また勝手に王城を抜け出してきたのね」
「だって、スロリアゴールに来たかったんですもの!」
少女は悪びれもせず答える。
「……お姉様?」
クライブが呟く。
ガブリエルは嬉しそうにクライブを指差した。
「お姉様、この方、Aランク冒険者なんですの!」
「そうなの?」
「ええ! カード収集を手伝ってくださるかもしれませんの!」
ガブリエルは楽しそうに笑った。
「これからが楽しみですわ~!」
「もう……」
エレノアは呆れたように妹を見る。
そしてクライブに向き直った。
「紹介するわね」
「はい?」
「私の妹、ガブリエルよ」
「…………」
「スロリア王国の第二王女です」
「…………王女?」
クライブの顔が固まった。
「ええ」
「…………」
クライブはガブリエルを見る。
先ほどまで、楽しそうにレアカードの話をしていた少女。
国外の激レアカードをおみやげにもらったという少女。
そして、父親がミノタウロスのカードを持っているという少女。
クライブはゆっくりと理解した。
――王族だったのか。
そして、もう一つ。
――この町、王族が普通にウロウロしてるのか?
「では、お姉様。わたくしはもう少しカードを見てから帰りますわ!」
「ほどほどにね」
「はーい!」
ガブリエルは楽しそうに店内へ戻っていく。
クライブは、その背中を眺めながら思った。
――まぁ、カードの難易度次第だな。
王女に会ったことにも驚いた。
だが、それ以上に。
王女が普通に歩き回っているスロリアゴールという町に、クライブは別の意味で驚いていた。




