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落内円は落ちている  作者: 七風


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銀翼の黎明のホームへ

モンバトを買ったクライブは、冒険者ギルドへやってきた。


「銀翼の黎明に話を聞いてみたいんだが」


「でしたら、パーティーハウスの場所をお教えしますよ」


 受付の職員が地図を取り出した。


「ガレスさんとセリナさんなら、今日は家にいると思います」


「助かる」


「Aランク冒険者でしたら、一度挨拶に行っておいた方がいいかもしれませんね。今後、お付き合いがあるかもしれませんし」


「そうだな」


 クライブは地図を受け取り、銀翼の黎明のパーティーハウスへ向かった。


「ここか」


 扉を叩く。


「はいはーい!」


 出てきたのはセリナだった。


「おや? どちら様?」


「数日前にこの町に来たAランク冒険者だ。クライブという」


「へえ、Aランクなんだ」


「疾風のクライブと呼ばれている」


「ああ、昨日マドカと一緒に仕事した人?」


「……もう知れ渡ってるのか」


「この町じゃ有名な話だからね」


 セリナが笑う。


「まあ入ってよ。ガレスもいるから」


「失礼する」


 中へ入ると、ガレスが振り返った。


「新顔の冒険者か」


「クライブだ。少し聞きたいことがあってな」


「何だ?」


「十九層のことだ」


 その言葉に、ガレスの表情が少し変わった。


「十九層?」


「ああ。この町では十九層のモンスターカードがかなり高値で取引されているらしい」


「まあ、そうだろうな」


 セリナが口を挟む。


「実際に十九層まで行ったパーティーなんて、ほとんどいないんだから」


「そこで聞きたい。お前たちは、どうやって十九層まで行った?」


「俺たちだけなら、五層あたりが限界だった」


「五層?」


 クライブは少し驚いた。


「Sランクなのに?」


「Sランクだからといって、何でもできるわけじゃない」


 ガレスは淡々と答える。


「そもそも、あのダンジョンは普通じゃない」


「普通じゃない?」


「最初に攻略へ向かったSランクパーティーの多くは、帰ってこなかった」


「…………」


「情報を持ち帰るために、何人かが命からがら脱出した。それ以外は全滅だ」


「そんなにか……」


 クライブは言葉を失った。


 十九層まで行ったという話だけ聞けば、銀翼の黎明が圧倒的な実力で攻略したように聞こえる。


 だが、実際は違うらしい。


「俺たちも五層以降は危険だと判断していた」


「じゃあ、どうして十九層まで?」


 ガレスが苦笑する。


「追加のパーティーが来たんだ」


「追加?」


「リゼット様たちだよ」


 セリナが嬉しそうに言った。


「すっごかったんだから!」


「……そんなにか?」


「うん!」


 セリナは身を乗り出した。


「リゼット様は大賢者だし、エレノア様もブリジットも強いし、ニコラは変な武器の命中率やばすぎで次々ハチの巣、カトリーヌは冷静にニコラの兵器を操作するし!」


「そしてマドカだ」


 ガレスが続ける。


「マドカ?」


「お前、昨日一緒だっただろう」


「……あのCランクの少女か」


「そうだ」


 ガレスは頷いた。


「あいつはSランクなんてレベルじゃない」


「そんなに?」


「時間停止スキルを持っている」


「時間停止……?」


 クライブの顔が固まった。


「気づいたらモンスターがバッタバッタと倒れている。時間停止スキルってやばいんだ。俺らが止まっている時間にモンスターを倒す。停止解除したらモンスターは死んでいる。そういう戦い方をする」


「…………」


 クライブは昨日のことを思い出す。


 自分より小さな少女。


 それなのに、戦闘では一瞬で距離を詰め、正確にモンスターを仕留めていた。


「そういや……昨日の討伐でも、俺より速かったな」


「でしょ?」


 セリナが嬉しそうに笑う。


「マドカ、すごいんだから!」


「しかし、あれでCランクというのは……」


「本人が面倒だから上げたくないんだろうな。あいつらの集団はもう発明品やこの町の運営を手伝ったりで忙しい。依頼なんて無視して勝手にダンジョンに行って素材なりデータなり集めればいい。」


 ガレスが呆れたように言う。


「Sランクなんかになったら、国から強制依頼が来るだろ?」


「……なるほど」


 クライブは妙に納得した。


「それに、あの子まだ十二歳だよ」


「十二歳!?」


 今度こそクライブは大声を出した。


「マジで!?」


「マジ」


 セリナが笑う。


「リゼット様に鍛えられてるからね」


「……あれで十二歳かよ」


 クライブは頭を抱えた。


 昨日から何度驚かされればいいのだろう。


「まあ、俺たちもちゃんと戦ったんだぞ」


 ガレスが言う。


「十九層まで行けたのは、俺たちが何もしていなかったからじゃない。俺たちもできることはやった」


「ああ。それは分かる」


 クライブも頷く。


 Sランクパーティーが五層まで進める。


 それだけでも十分に凄い。


 問題は――。


「マドカたちが来てから、進む速度がおかしくなったんだ」


「規格外の連続だったからね」


 セリナが笑う。


「リゼット様の魔法、ニコラの武器、前衛も強い。普通なら苦戦するような敵が、どんどん倒されていくんだもの」


「つまり、十九層まで行ったのは銀翼だけの力じゃない、と」


「そういうことだ」


 ガレスが頷いた。


「俺たちはマドカたちの追加戦力として、一緒に攻略したんだ」


「なるほどな」


 クライブは納得した。


「それなら十九層のカードを持っているのも分かる」


「ああ」


「でも、一度攻略したあと、もう一度潜ったんだよね?」


「そうだ」


 セリナが笑う。


「モンバトが発売されたからね!」


「……やっぱりそうなのか」


「だって、せっかく十九層まで行ったんだよ? モンスターのデータが欲しいじゃない!」


「一回目は命懸けだったんじゃないのか?」


「うん」


「二回目は?」


「モンバトのデータ集め!」


「…………」


 クライブは呆れた。


 だが、少しだけ笑ってしまう。


「なるほど。だから十九層のカードが出回っているわけか」


「そういうこと」


 セリナは楽しそうに答えた。


「マドカたちが集めるついでに、私たちも一緒に集めたんだよ」


「ゲームのために?」


「ゲームは楽しいからね!自分のバトル用 それに売却用 はっきり言って半年依頼するより稼いじゃったわよ!」


「そ そんなに儲かるのか?!小遣い稼ぎ程度に考えていたんだが!」


 クライブはモンバトを思い出す。


 探索機能。


 モンスターのデータ。


 カード化。


 そして、そのカードを欲しがる人間。


「……思ったより、面白い町なのかもしれないな」


 昨日来たばかりだった。


 まだ分からないことも多い。


 だが、少なくとも仕事には困らなさそうだ。


「ところで、十九層まで行かないと高く売れないのか?」


「いや」


 ガレスが首を振った。


「この町の周辺にいるモンスターでも、王都周辺よりかなり強い。珍しい個体もいる」


「それなら、無理にダンジョンへ行く必要はないな」


「その通りだ」


 クライブは頷いた。


「俺はこの町に来たばかりだ。まずは周辺の仕事からやってみるさ」


「それがいいと思うよ」


 セリナが笑った。


「無理はしないでね」


「ああ」


 クライブは立ち上がった。


「今日は助かった。話を聞けてよかったよ」


「また何かあったら来てくれ」


「その時はよろしく頼む」


 こうしてクライブは、銀翼の黎明の家を後にした。


 十九層。


 かつて多くのSランク冒険者が命を落とした場所。


 そこへ自分が挑む必要はない。


 この町には、それ以外にも仕事がある。


「まずは、地道に稼ぐとするか。データ屋のチェックもしないとな。」


 クライブはそう呟き、町へ戻っていった。

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