冒険者登録と、伝説
「冒険者登録をお願いします!」
王都スリーピア。
冒険者ギルドの受付で、マドカは元気よく声を上げた。
「はい。お任せください」
受付嬢がにこりと笑う。
「私はサリーと申します。これから登録についてご説明しますね」
「よろしくお願いします!」
「まず、冒険者にはランクがあります」
サリーは説明用の板を取り出した。
「下から順に、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなります」
「おお……!」
「一般的な冒険者が目指す最高峰はSランクです」
「S!」
「はい。Sランクともなれば、国から直接依頼を受けることもあります」
「じゃあ、SSは?」
「伝説級です」
サリーの声が、少しだけ真剣になる。
「SSランクは、長い冒険者史の中でも極めて少数。国を代表する英雄や、歴史に名を残すような冒険者が認定される領域です」
「じゃあ、SSSは?」
「……伝説の中の伝説です」
サリーは一度言葉を区切った。
「SSSランクは、単純な強さだけでは認定されません」
「ほう」
「国そのものを救った。災害級の魔物を討伐した。あるいは世界規模の功績を残した――」
サリーが説明を続ける。
「そういった、後世まで語り継がれる存在にのみ与えられる特別なランクです」
「なるほど……」
マドカは真剣に頷いた。
「じゃあ、私たちはまずSを目指せばいいんだね!」
「気が早いですよ?」
「でも最高級なんでしょ?」
「一般的には、そうですね」
「よし!」
マドカが拳を握る。
その隣で。
「…………」
リゼットが、何とも言えない顔をしていた。
「それと、登録時には簡単な能力測定があります」
「能力測定?」
「はい」
サリーが受付の奥から、小さな水晶球を持ってきた。
「こちらの簡易鑑定器を使います」
「おお……!」
マドカの目が輝く。
「ステータス見られる!?」
「ステータス?」
「何でもない!」
サリーは気にせず説明を続ける。
「これは冒険者の能力を大まかに測定する魔道具です。筋力、体力、魔力、魔法適性などを簡易的に確認できます」
「どのくらい分かるの?」
「詳しい能力値や特殊技能までは分かりません。あくまで、最初の格付けをするための目安ですね」
「なるほど」
「例えば、身体能力が高く魔力も十分なら、最初から少し高いランクで登録されることもあります」
「便利だね!」
「はい。ですが、実際の冒険者ランクは依頼達成実績や戦闘能力なども含めて決定されます」
「じゃあ、これだけでSランクとかにはならないんだ」
「そういうことです」
マドカは水晶球を見る。
「じゃあ、やってみよう!」
「では、手を置いてください」
マドカが水晶球に手を触れる。
淡い光が走った。
水晶の中に、いくつかの文字が浮かび上がる。
「…………」
サリーが表示を確認する。
「えっと……」
「どう?」
「身体能力……非常に高い」
「おお!」
「体力……非常に高い」
「おお!」
「防御適性……高い」
「よし!」
「魔力……低い」
「…………」
「魔法適性……低い」
「…………」
マドカの顔が曇る。
「そこは知ってる」
「そうですか?」
「三年間ずっと言われてるから……」
リゼットが横から口を挟む。
「この子は身体能力に特化しているのよ」
「なるほど」
サリーが頷く。
「でしたら、前衛向きですね」
「そう! 脳筋戦士!」
「自分で言うのね……」
リゼットが呆れる。
「でも、総合的には……」
サリーが表示を確認する。
「Fランク相当ではありませんね」
「!」
マドカの目が輝く。
「じゃあE?」
「いえ」
「D?」
「……それ以上ですね」
「おお!」
マドカが嬉しそうに拳を握る。
サリーは少し困ったように笑った。
「ただし、簡易鑑定器では細かい部分までは分かりませんので、最終的には実技確認が必要です」
「分かった!」
マドカは元気よく答えた。
その隣で。
「…………」
リゼットが水晶球を見ていた。
「どうしたの?」
「いえ」
「何か気になる?」
「この魔道具、ずいぶん性能が落ちているわね」
「え?」
サリーが驚く。
「これでもギルドでは最新型ですが……」
「そうなの?」
「ええ」
「昔のもののほうが精度は良かったわ」
「…………」
サリーが固まった。
マドカがリゼットを見る。
「お姉ちゃん」
「何?」
「百年前って、これより凄い鑑定魔道具あったの?」
「あったわよ」
「なんで?」
「私が作ったから」
「…………」
「…………」
マドカとサリーが同時にリゼットを見る。
「お姉ちゃん、何者なの?」
「賢者よ」
「そういう意味じゃない!」
◆
「では、お二人の登録を確認します」
サリーが改めて書類に目を落とす。
「お名前は?」
「マドカです」
「はい」
「リゼット」
「…………」
サリーの手が止まった。
「……リゼット、さん?」
「ええ」
「失礼ですが……」
サリーが記録端末を操作する。
そして――
「…………え?」
「どうしたの?」
マドカが覗き込む。
「リゼットさん……以前、登録されていますね」
「そうね」
「それも……かなり昔に」
「まあ、昔だから」
サリーが記録を確認する。
「最後の依頼達成記録が――」
目を見開いた。
「約百年前……」
「そうね」
「百年前!?」
マドカが勢いよくリゼットを見る。
「お姉ちゃん、冒険者やってたの!?」
「昔ね」
「なんで言わなかったの!?」
「聞かれなかったもの」
「そうだけど!」
サリーはさらに記録を読み進める。
「……登録ランク、S」
「おお!」
「ですが……」
サリーの顔が引きつった。
「こちらの記録……」
「何?」
「討伐対象が……」
サリーが一枚の記録を取り出す。
「災害級魔獣、三体」
「…………」
「古代遺跡の封印解除」
「…………」
「王都近郊の大規模魔法災害の鎮静化」
「…………」
「そして――」
サリーがページをめくる。
「当時、国家機密扱いとなった案件が複数……」
マドカがゆっくりとリゼットを見る。
「お姉ちゃん?」
「何?」
「何したの?」
「昔のことよ」
「絶対ろくなことしてない!」
「失礼ね」
サリーは震える手で記録を閉じた。
「……リゼットさん」
「何?」
「この記録、本当にご本人ですか?」
「そうよ」
「…………」
サリーは改めてリゼットを見る。
見た目は、どう見ても若い女性。
とても百年以上前から生きているようには見えない。
「えっと……」
「何か?」
「年齢をお聞きしても?」
「嫌」
「ですよね……」
サリーは素直に諦めた。
◆
「ただ、問題があります」
サリーが気を取り直す。
「リゼットさんは百年以上、依頼を受けていません」
「そうね」
「ギルド規定では、長期間活動実績がない場合、現在の冒険者ランクをそのまま維持することができません」
「知ってるわ」
「そのため――」
サリーが説明する。
「今回は再登録扱いになります」
「つまり?」
「現在の実力を確認して、改めてランクを決定する必要があります」
「分かったわ」
「えっ」
マドカが声を上げた。
「お姉ちゃんも新人から?」
「そうなるわね」
「伝説級の記録残ってるのに?」
「規則だから仕方ないでしょう」
リゼットは平然としている。
マドカは、だんだんと口元を緩ませた。
「お姉ちゃんも新人冒険者かぁ」
「何?」
「いやぁ?」
「…………」
「私と一緒だね!」
「……そうね」
リゼットが微笑む。
その笑顔を見て、マドカは少しだけ嫌な予感がした。
この人。
絶対に何か隠している。
◆
「では、まずマドカさんの簡易実力確認から――」
「それなら大丈夫です」
「?」
リゼットが口を挟む。
「この子は私が三年間鍛えたから」
「そうなんですか?」
「ええ」
「では、実技試験を――」
「いらないと思うわ」
「え?」
「この子、かなり強いわよ」
「…………」
マドカは胸を張った。
「三年間、毎日修行しましたから!」
サリーは苦笑する。
「でも、お二人とも試験を受けていただきましょうか」
「はい!」
マドカが元気よく答える。
リゼットも静かに頷いた。
こうして二人は――
百年前の伝説と。
三年間鍛え続けた新人。
二人そろって、冒険者として再出発することになった。
――そして数十分後。
ギルド中が、同じ疑問を抱くことになる。
「新人って何だ?」




