ついに来たぞ!冒険者ギルド
「……ここか」
マドカは王都スリーピアの冒険者ギルドを見上げた。
大きい。
立派だ。
そして何より――
「冒険者がいっぱい!」
「声が大きいわよ」
隣ではリゼットが呆れている。
「だって今日から私も冒険者だよ!?」
「そうね」
「三年間待ったんだから!」
「分かったから、早く入りなさい」
「よし!」
マドカは勢いよく扉を開けた。
◆
「冒険者登録をお願いします!」
受付嬢が微笑む。
「はい。では、こちらの書類に――」
「はい!」
必要事項を記入。
簡単な能力確認。
そして――
「登録完了です」
カードを渡された。
「…………」
マドカはカードを両手で持つ。
「これが……」
冒険者カード。
「私の冒険者人生……!」
「大げさね」
「お姉ちゃん、これ大事だから!」
「はいはい」
マドカはカードを眺めながらニヤニヤしていた。
そのとき。
「おい」
後ろから声がした。
「……?」
振り返る。
そこには三人の冒険者。
見るからにベテラン――ではなく。
見るからに絡んできそうな人たちだった。
「ガキが冒険者登録か?」
「十二歳です!」
「まだ子供じゃねえか」
「十二歳から登録できるんだから問題ないでしょ」
男が笑う。
「その姉ちゃんも冒険者か?」
「そうよ」
リゼットが答える。
「二人だけ?」
「そうだけど」
「へえ」
男たちは顔を見合わせた。
「初心者なら、俺たちと組まないか?」
「結構です」
即答。
「なんでだよ」
「知らない人と組む理由がないから」
「……生意気だな」
男の顔が変わった。
マドカが小声でリゼットに聞く。
「お姉ちゃん」
「何?」
「これって……」
「ええ」
「テンプレ?」
「おそらく」
「キター……」
マドカの目が輝いた。
「何を喜んでるのよ」
「いや、異世界冒険者ギルドといえば、やっぱりこういうイベントかなって」
「あなたの前世、相当偏っていたのね」
男が机を叩いた。
「ガキが調子に乗るなよ!」
ギルド内が静かになる。
「…………」
マドカは男を見る。
「お姉ちゃん」
「何?」
「私、どうすればいい?」
「自分で考えなさい」
「えー」
男が腕を掴もうとする。
「来い!」
その瞬間。
世界が止まった。
◆
音が消える。
人が止まる。
投げ出された酒の雫まで、空中で静止している。
「…………」
マドカは男の手を見る。
「触る直前だったか」
少し考える。
「……まあ、やめとこ」
男の腕を軽く外す。
そして三人の立ち位置を確認。
武器。
足場。
距離。
「ゲームならまず敵の行動パターン確認っと」
マドカは三人の後ろへ回った。
床に落ちていた木製のジョッキを拾う。
「これでいいかな」
そして。
一人の背中に軽く――
コン。
もう一人の足元に――
コツ。
最後の一人の武器を遠くへ――
ポイッ。
「よし」
時間が動き出す。
◆
「……え?」
男が固まった。
自分の手が空を掴んでいる。
目の前にいたはずのマドカがいない。
「どこだ!?」
「ここ」
「うわっ!?」
背後。
マドカが立っている。
「何をした!?」
「何も?」
「嘘つけ!」
男が剣を抜く。
「おい!」
ギルド内がざわつく。
マドカは剣を見る。
「……」
そして。
ニヤッ。
「やっちゃいましたー?」
「は?」
「剣、抜いちゃいましたー?」
男が怒鳴る。
「ふざけるな!」
「じゃあ――」
マドカが構える。
「ちょっとだけ相手してあげる」
男が斬りかかる。
時間停止。
「…………」
マドカは剣の軌道を確認。
避ける。
男の懐へ。
そして木剣を一発。
時間が動く。
「ぐっ!?」
男が吹き飛ぶ。
「な……」
残り二人が動く。
時間停止。
マドカが二人の武器を叩き落とす。
時間が戻る。
ガンッ!
ガンッ!
「え?」
「は?」
二人とも呆然としている。
マドカは木剣を肩に担いだ。
「…………」
三人を見る。
せっかく異世界の冒険者ギルドに来たのだ。
絡まれて。
喧嘩を売られて。
これはきっと――。
「……テンプレイベントだ!」
そう思っていた。
なのに。
「…………弱っ」
「なっ!?」
思わず口から出た。
「いや、ごめん。もっとこう……強敵が出てくるのかと思ってた」
「てめぇ……!」
「ざ~こ、ざ~こ」
「おい!」
マドカはニヤニヤしながら木剣を振った。
「せっかく冒険者になった初日なのに、出てきたイベントがこれって……」
少しだけ頬を膨らませる。
「私、もっとカッコいい冒険者デビューを期待してたんだけど」
「……完全に舐めてやがる」
「だって弱いんだもん」
「マドカ」
リゼットが呆れた声を出す。
「煽るのはそのくらいにしなさい」
「はーい」
マドカは素直に引いた。
そして受付嬢を見る。
「……これ、私が悪いの?」
「いえ……その……」
受付嬢は困ったように三人の男を見る。
「喧嘩を売ったのは、あちらです」
「だよね!」
マドカは満足そうに頷いた。
そして倒れた男たちを見下ろす。
「じゃあ、私の勝ちってことで」
「……そうね」
リゼットが小さく笑った。
こうして。
マドカの冒険者人生は――
本人が期待していた以上に、騒がしいスタートを切った。




