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落内円は落ちている  作者: 七風


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新人冒険者、試験でやらかす

「では、戦闘技能試験を行います」


 冒険者ギルドの訓練場。


 マドカとリゼットは、試験官と向かい合っていた。


「試験官は私、ギルド所属のBランク冒険者です」


 大柄な男が剣を構える。


「まずはマドカさんから」


「はい!」


 マドカも木剣を構えた。


 周囲には、暇を持て余した冒険者たちが集まっている。


「新人の試験か」


「十二歳だろ?」


「まあ、すぐ終わるだろ」


 そんな声が聞こえる。


 マドカは少しだけ笑った。


 三年間。


 毎日。


 リゼットに鍛えられた。


「それじゃ――」


 試験官が踏み込む。


 速い。


 普通の十二歳なら、反応することすら難しい。


 だが。


 マドカは――


「よっと」


 ひらり。


 横に避けた。


「……!」


 試験官の剣が空を切る。


 マドカはそのまま懐へ。


「せいっ!」


 木剣が胴へ入る。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 試験官が数歩下がった。


「……今の、見えたか?」


「いや……」


「子供だろ?」


「何だ今の……」


 マドカは木剣を構え直した。


「まだやります?」


「もちろんだ!」


 試験官が今度は本気で踏み込む。


 上段。


 横薙ぎ。


 フェイント。


 連撃。


 マドカは全て避ける。


 受ける。


 流す。


 そして。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 試験官の手から木剣が飛んだ。


「…………」


 静寂。


「終わりですか?」


「……ああ」


 試験官が呆然とする。


「君、本当に十二歳か?」


「はい!」


「何をして育った?」


「修行です!」


「誰に?」


 マドカが振り返る。


「お姉ちゃん!」


「…………」


 リゼットは本を読んでいた。


「私?」


「そう!」


 周囲の冒険者たちの視線がリゼットに集まる。


「…………」


 リゼットは本から顔を上げた。


「何?」


 マドカが笑う。


「次、お姉ちゃん!」


「私も?」


「だって試験受けるんでしょ?」


「面倒ね……」


 リゼットが立ち上がった。


     ◆


「では、リゼットさん」


 試験官は少し緊張していた。


 先ほどのマドカを見た後だ。


「同じ試験内容で?」


「ええ」


「武器は?」


「何でもいいわ」


 試験官が木剣を渡す。


 リゼットはそれを一度握り――


「……軽すぎるわね」


「え?」


 ポイッ。


 木剣を捨てた。


「素手でいいわ」


「いや、それは――」


「早くして」


 試験官が構える。


「……では」


 踏み込んだ。


 次の瞬間。


 試験官の視界からリゼットが消えた。


「――え?」


 背後。


「遅いわ」


 肩を軽く叩かれる。


 試験官が振り向く。


 いない。


 右。


 左。


「こっちよ」


 背後。


「…………」


 観客が静まり返る。


 試験官は歯を食いしばった。


「……まだだ!」


 全力で突っ込む。


 リゼットは避けない。


 ただ右手を前に出した。


 ドンッ!


「ぐあっ!」


 試験官が吹き飛んだ。


 訓練場の壁際まで転がっていく。


「…………」


「…………」


「…………」


 誰も喋らない。


 リゼットは手を払った。


「終わり?」


 試験官が起き上がる。


「……何をした?」


「押しただけよ」


「押しただけで人間があそこまで飛ぶか!」


 マドカが横で小声になる。


「お姉ちゃん」


「何?」


「ちょっとやりすぎじゃない?」


「そう?」


「うん」


「じゃあ次は弱くするわ」


「最初からそうして!」


     ◆


 受付へ戻る。


 サリーは完全に固まっていた。


「…………」


「サリーさん?」


「はい」


「大丈夫?」


「大丈夫ではありません」


 即答だった。


「マドカさん」


「はい」


「十二歳ですよね?」


「はい」


「本当に?」


「はい」


「……そうですか」


 サリーは記録を書く。


「マドカさんは、身体能力と近接戦闘技術が非常に高いですね」


「三年間鍛えました!」


「なるほど……」


 そして隣。


「リゼットさん」


「何?」


「あなたの記録――」


 サリーは百年前の資料を見る。


 そして現在のリゼットを見る。


「……本物だったんですね」


「だからそう言っているでしょう」


 サリーは深く息を吐いた。


「再登録とはいえ……」


 そして呟く。


「この人たち、本当に新人なんでしょうか……?」


 マドカが笑う。


「新人ですよ!」


「そういう問題じゃないんです……」


 ギルド中から視線が集まる。


 期待。


 警戒。


 好奇心。


 そして――


「……あの二人、何者だ?」


 そんな声まで聞こえてくる。


 マドカは少しだけ嬉しくなった。


 ついに。


 自分も冒険者になった。


「お姉ちゃん」


「何?」


「私たち、目立ってるね」


「そうね」


「これ、主人公っぽくない?」


「あなたは本当に漫画が好きね」


「だって異世界だよ?」


 リゼットは呆れながらも笑った。


 その一方で。


 サリーは百年前の記録をもう一度確認していた。


 そこには、今ではほとんど伝説として扱われている名前。


リゼット。


 百年前。


 数々の災害級事件を解決し。


 国の歴史にすら名前を残した賢者。


 その本人が。


 今。


 新人冒険者としてギルドに戻ってきた。


 ――そして。


 その隣には。


 まだ誰も知らない十二歳の少女がいる。


 冒険者ギルドの新しい騒動は。


 ここから始まった。

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