新人冒険者の初仕事
「……これだけ?」
マドカは掲示板を見上げていた。
冒険者ギルドの依頼掲示板。
そこに並んでいるのは――
『薬草採取』
『街道の清掃』
『倉庫整理』
『迷子の猫の捜索』
「…………」
マドカは振り返る。
「お姉ちゃん」
「何?」
「私、冒険者になったんだよね?」
「そうね」
「もっとこう……」
マドカは腕を広げる。
「ドラゴン討伐とか!」
「新人が受けられると思う?」
「……思わない」
「じゃあ諦めなさい」
「はい……」
リゼットは掲示板から一枚の依頼書を剥がした。
「これにしましょう」
『薬草採取・十束』
「……地味」
「報酬は?」
「銀貨一枚」
「やる!」
「切り替え早いわね」
「お金は大事だから!」
リゼットが少しだけ笑った。
「そうよ」
◆
二人は森へ向かった。
「薬草ってどれ?」
「この葉よ」
「これ?」
「違う」
「じゃあこれ?」
「毒草」
「危なっ!」
「これは?」
「食べられるけど薬草ではないわ」
「ややこしい!」
リゼットは薬草を次々に見つけていく。
マドカはそれを採取する。
「お姉ちゃん、これなら一瞬で終わるね」
「ええ」
「じゃあ帰ろう」
「まだ時間があるわ」
「何するの?」
「ついでに素材を集める」
「…………」
マドカは少し嫌な顔をした。
「お姉ちゃん」
「何?」
「冒険者って、こういう地味なことばっかり?」
「最初はね」
「……ゲームだともっと派手なのに」
「現実はそんなものよ」
「夢がない!」
「生活するにはお金が必要でしょう?」
「うっ」
反論できなかった。
◆
そのとき。
森の奥から物音がした。
「……魔物」
リゼットが言う。
「どのくらい?」
「ゴブリンが三体」
「じゃあ私がやる」
マドカは木剣を抜いた。
「時間停止は?」
「使わない」
「いい心がけね」
「三年間の成果、見せる!」
茂みからゴブリンが飛び出した。
「ギャッ!」
「せいっ!」
マドカの木剣が一体目を吹き飛ばす。
二体目。
横から棍棒。
マドカはしゃがんで避ける。
「遅い!」
木剣が腹へ。
三体目が背後から襲いかかる。
マドカは振り返りざまに蹴り飛ばした。
ドンッ!
「…………」
三体とも倒れた。
「……終わり?」
「ええ」
リゼットは頷く。
「かなり上達したわね」
「やった!」
「ただし」
「何?」
「最後の蹴りはいらなかったわ」
「格好よかったから!」
「戦闘に格好よさを求める必要はないでしょう」
「大事だよ!」
マドカは胸を張った。
◆
ギルドに戻る。
「薬草十束です」
「はい、確認しますね」
受付嬢――サリーが数える。
「……問題ありません」
「やった!」
「それと、ゴブリン三体の討伐も確認しました」
「はい!」
サリーは少し困った顔をする。
「マドカさん」
「はい?」
「あなた、今日が初依頼ですよね?」
「そうです!」
「……そうですか」
サリーは記録をつける。
「戦闘試験でも思いましたが……」
「?」
「新人らしくないですね」
「よく言われます!」
「褒めてません」
「えっ」
サリーがため息をつく。
◆
依頼料を受け取る。
銀貨一枚。
「…………」
マドカは銀貨を眺めた。
「これで何が買える?」
「食材なら数日分」
「おお!」
「でも装備を買うなら、まだまだ足りないわ」
「そっか」
マドカは銀貨を大事そうにしまった。
「じゃあ貯金だね」
「そうね」
「いつか強い武器を買おう」
「ええ」
「防具も」
「ええ」
「あと――」
マドカが少し考える。
「週一くらいで、ごちそう食べたい」
「いいわね」
「お姉ちゃんも?」
「もちろん」
リゼットが笑う。
その日の夜。
二人はいつもより少しだけ豪華な夕食を食べた。
とはいえ。
「……これだけ?」
「今はこれが限界よ」
「もっと稼がないと!」
「そうね」
マドカは決意した。
強くなる。
お金も貯める。
装備も良くする。
そして――
「いつか絶対、Sランクになる!」
「三年後くらいかしら」
「もっと早く!」
「焦らないことね」
「この国、怠惰の魔神が国教だからって、私までのんびりさせないで!」
森の家に。
二人の笑い声が響いた。




