冒険者は地味に稼ぐ
「次の依頼は――」
マドカは掲示板を眺めていた。
「薬草採取」
「却下」
「倉庫整理」
「却下」
「街道のゴミ拾い」
「却下!」
「じゃあ選ばないで」
「だって私、冒険者だよ!?」
マドカは掲示板を指差した。
「もっとこう……魔物とか! ダンジョンとか!」
「今の私たちのランクでは受けられないでしょう」
「……そうだった」
冒険者にはランクがある。
どれだけ強くても、登録したばかりの新人には新人なりの仕事しか回ってこない。
「仕方ないわね」
リゼットが一枚の依頼書を剥がした。
「これにしましょう」
『街道沿いの薬草採取。納品数五十束』
「多くない?」
「報酬も多いわ」
「……やります!」
マドカは即答した。
◆
森。
「一、二、三……」
マドカが薬草を数える。
「四十八、四十九……」
「五十」
「お姉ちゃん、採るの早すぎ!」
「見つけたものを採っているだけよ」
「私なんて最初、毒草と区別つかなかったのに」
「三年もあれば覚えるでしょう」
「それはそうだけど」
マドカは薬草を袋に詰める。
「……ねえ」
「何?」
「こういう素材って、売ったら結構お金になる?」
「種類によるわ」
「じゃあ魔物の素材は?」
「もっと高いものもあるわね」
マドカの目が輝いた。
「……素材集め」
「何?」
「これから素材集めを中心にしよう」
「いいんじゃない?」
リゼットも頷く。
「魔道具や装備の材料にもなるもの」
「じゃあ無駄がない!」
この時の二人はまだ知らない。
後にこの「素材集め」が、ある女性との出会いに繋がることを。
◆
ギルドへ戻る。
「薬草五十束、確認しました」
サリーが数える。
「問題ありません」
「やった!」
「報酬はこちらです」
銀貨が何枚か渡される。
マドカはそれを眺める。
「……増えた」
「ええ」
「前よりいっぱいある」
「貯めておきなさい」
「でも――」
マドカは武器屋を見る。
「そろそろ装備、良くしたくない?」
「必要なら買えばいいわ」
「よし!」
その日の午後。
二人は武器屋に向かった。
◆
「これ!」
マドカが手に取ったのは一本の剣。
前まで使っていた粗末な木剣より、ずっと立派だ。
「いくら?」
「銀貨十枚」
「…………」
マドカは財布を見る。
「無理」
「でしょうね」
「じゃあこっちは?」
「銀貨七枚」
「…………」
「こっちは?」
「三枚」
「これ!」
即決だった。
新品の剣。
新品とはいっても、安物だ。
それでもマドカにとっては初めて自分で買った武器だった。
「……いいなぁ」
「嬉しそうね」
「うん!」
マドカは剣を腰に下げた。
「これからよろしく!」
「剣に話しかけてるの?」
「相棒だから!」
「……そう」
リゼットは少し笑った。
◆
家に帰る。
「今日はごちそう!」
「何を買ったの?」
「肉!」
「……」
「お姉ちゃん?」
「予算は?」
「…………」
「マドカ?」
「銀貨一枚分」
「使いすぎよ」
「だって週一のごちそうだよ!?」
「まあ……いいでしょう」
「やった!」
その日の夕食。
普段より少しだけ良い肉。
少しだけ良いパン。
そして少しだけ高い果物。
「うまい!」
「そうね」
「冒険者って最高!」
「まだ薬草しか採ってないけど」
「細かいことはいいの!」
二人で食卓を囲む。
こういう日が増えていった。
◆
ある日。
王都で買い物をしていると、マドカが妙なものを見つけた。
「……これ」
店先に置かれた小さな魔道具。
手で回すと風が出る。
「扇風機みたい」
「簡易送風機ね」
「前にも似たの見たよね」
「ええ」
マドカは魔道具をじっと見る。
「でも、これ……」
「何?」
「構造がちょっと違う」
マドカは前世の知識を思い出す。
「もっと小さくできそう」
「そうね」
リゼットも魔道具を見る。
「魔力の流れが無駄だらけだわ」
「やっぱり?」
「ええ」
二人は顔を見合わせる。
「……作ってみる?」
「面白そう!」
リゼットが珍しく興味を示した。
だが。
「待って」
マドカが商品を裏返す。
「製作者の名前が書いてある」
「誰?」
「えーっと……」
そこには。
見慣れない女性の名前が記されていた。
「……ニコラ?」
「そうみたいね」
「この人、他にも作ってるのかな」
「調べてみましょう」
その日。
二人の中に初めて――
ニコラ
という名前が残った。
◆
しかし。
その頃の二人には、まだ知る由もなかった。
そのニコラという女性が。
王都の片隅で。
誰にも理解されない魔道具を作り続ける――
一人の変わり者の天才だということを。




