新人、時間を止めずに戦ってみる
「お姉ちゃん」
「何?」
「そろそろ、もうちょっと強い魔物と戦いたい」
朝。
朝食を食べながら、マドカが言った。
「薬草採取ばっかりじゃ飽きた」
「では、少し上の依頼を受ければいいわ」
「受けられるの?」
「条件を満たしていればね」
マドカはすぐに立ち上がった。
「ギルド行こう!」
「食べてからにしなさい」
「はい」
◆
「こちらの依頼はいかがでしょう?」
サリーが依頼書を差し出す。
『街道付近に出没するホーンウルフの討伐』
「ホーンウルフ?」
「角を持つ狼型の魔物です」
「強い?」
「新人が単独で相手をするには少々危険ですね」
マドカがリゼットを見る。
「やってみたい」
「いいんじゃない?」
「じゃあこれ!」
サリーが少し驚いた。
「本当に大丈夫ですか?」
「三年間修行したから!」
「……そうでしたね」
サリーは苦笑しながら依頼を受理した。
◆
街道から少し離れた森。
「いる」
リゼットが言った。
「何匹?」
「五匹」
「結構いるじゃん」
「どうする?」
マドカは剣を抜いた。
「今日は時間停止なしでやる」
「分かったわ」
「危なくなったら助けて」
「もちろん」
茂みから。
ホーンウルフが飛び出した。
「来た!」
一匹目。
マドカは横へ跳ぶ。
牙を避ける。
「せいっ!」
剣の柄で頭を叩く。
ドンッ!
二匹目が横から飛び込んでくる。
マドカは剣で受ける。
「重っ……!」
腕が痺れる。
それでも踏ん張る。
「負けるか!」
押し返す。
そして一閃。
倒す。
「よし!」
三匹目。
四匹目。
連続で襲ってくる。
マドカは走った。
木々の間を抜ける。
地面を蹴る。
身体が軽い。
三年間の修行。
その成果が、今になってはっきり分かる。
「――そこ!」
一匹を斬る。
振り向く。
最後の一匹が迫っている。
マドカは剣を構えた。
「来い!」
激突。
そして――
ドンッ!
ホーンウルフが地面に倒れた。
◆
「終わった……」
マドカは息を切らしながら座り込んだ。
「お疲れさま」
リゼットが水を渡す。
「……時間停止なしで倒せた」
「ええ」
「私、ちゃんと強くなってる?」
「かなりね」
「やった!」
マドカは嬉しそうに笑った。
「じゃあ次はもっと強いやつ!」
「焦らないこと」
「はい」
リゼットは倒れたホーンウルフを見る。
「それに、いい戦い方だったわ」
「本当?」
「ええ」
「じゃあ今日は――」
「ごちそうね」
「分かってるじゃん!」
◆
ギルドへ戻る。
「ホーンウルフ五体です」
「……五体?」
サリーが固まった。
「はい!」
「時間停止は?」
「使ってないよ」
「…………」
サリーはマドカを見る。
「本当に?」
「本当に!」
ギルド内がざわつく。
「新人だろ?」
「十二歳だよな?」
「ホーンウルフ五体って……」
「しかも一人で?」
マドカは周囲を見回した。
「……なんか注目されてない?」
「されてるわね」
「どうしよう」
「気にしなくていいでしょう」
「主人公っぽい?」
「その発想をまず捨てなさい」
「はい……」
◆
その日の夜。
マドカは買ってきた肉を焼いていた。
「今日はごちそう!」
「いいわね」
「ちゃんと稼いだし!」
「そうね」
肉を食べる。
「うまい!」
「…………」
「お姉ちゃん?」
「何?」
「最近、冒険者楽しくなってきた」
「それは良かったわ」
「もっと強くなりたい」
「なれるわ」
「本当に?」
「ええ」
リゼットは静かに頷いた。
「あなたはまだ十二歳でしょう」
「うん」
「これから先、いくらでも強くなれるわ」
マドカは笑った。
「じゃあ、目指すはSランク!」
「まずはFランクを卒業してからね」
「現実的!」
二人は笑った。
◆
翌日。
ギルド職員の報告書。
少し前に登録した二人の名前の横に。
小さなメモが貼られていた。
『要注意新人』
その下には。
『十二歳少女――近接戦闘能力、極めて高い』
そしてもう一つ。
『同行者リゼット――過去の記録に要注意』
サリーはそれを見て、頭を抱えた。
「……この二人、これからどうなるんでしょう」
誰も答えられる者はいなかった。




