便利なものは、いくらあってもいいよね
「ねえ、お姉ちゃん」
「何?」
「この世界ってさ」
王都の大通りを歩きながら、マドカが周囲を見渡す。
「魔法があるのに、生活が不便じゃない?」
「…………」
リゼットが立ち止まった。
「今、なんて?」
「だから、生活が不便」
「魔法があるのよ?」
「うん」
「火も出せる」
「うん」
「水も出せる」
「うん」
「明かりもつけられる」
「うん」
「それで何が不満なの?」
「全部!」
マドカは力強く答えた。
◆
「例えば洗濯!」
「洗濯?」
「そう!」
マドカは指を立てる。
「服を一枚ずつ手で洗うの面倒じゃん!」
「魔法で洗えばいいでしょう」
「魔法使える人だけじゃん!」
「…………」
「あと掃除!」
「魔法で――」
「それも魔法使える人だけ!」
「…………」
「料理!」
「火魔法で――」
「火力調整が難しい!」
「…………」
「冷蔵庫!」
「れい……?」
「冷蔵庫!」
マドカの目が輝く。
「食べ物を冷やして保存する箱!」
「氷魔法でいいでしょう」
「魔力使うじゃん!」
「あなた、本当に細かいわね」
「便利なものは便利にするべきなの!」
マドカは拳を握る。
「人類は便利さを追求してきたんだよ!」
「……前世の人類、何と戦っていたの?」
「不便!」
「壮大なのか小さいのか分からないわね……」
◆
その日の帰り。
二人は魔道具店に立ち寄った。
店内には様々な魔道具が並んでいる。
「これ見て!」
マドカが指差す。
「魔導式湯沸かし器」
「お湯を沸かすだけ?」
「そうみたい」
「電子ケトル!」
「違うわ」
「こっちは?」
「魔導式照明」
「ライト!」
「……あなた、何でも地球の名前を付けるわね」
「分かりやすいから!」
リゼットが商品を手に取る。
しばらく眺める。
「…………」
「どう?」
「魔力変換効率が悪い」
「やっぱり?」
「術式も無駄が多いわ」
「じゃあ直せる?」
「少し改良すればね」
マドカが目を輝かせる。
「作ってみよう!」
「いいわ」
その場で二人の研究が始まった。
◆
森の家。
テーブルの上には魔道具。
紙。
魔石。
工具。
そして。
「ここをこうして……」
「それでは熱が逃げるわ」
「じゃあこっち?」
「それなら効率が上がる」
「じゃあ――」
二人で試行錯誤。
数時間後。
「完成!」
マドカがスイッチを入れる。
カチッ。
魔道具が動く。
ブオオオオオ……。
「おお!」
風が出る。
「扇風機!」
「送風機ね」
「扇風機!」
「はいはい」
マドカは満足そうに風を浴びる。
「最高……」
リゼットも少し驚いていた。
「確かに便利ね」
「でしょ?」
「ただ」
「何?」
「私たちだけで作るのは少し大変ね」
マドカが頷く。
「もっと魔道具に詳しい人がいたらいいのに」
「そうね」
ふと。
以前、町で見た魔道具を思い出す。
「……ニコラ」
「うん」
マドカが答える。
「あの人なら詳しいかも」
「調べてみましょうか」
「会いに行く?」
「まだ早いわ」
「えー」
「まずはその人がどんな人物なのか調べる」
「慎重だね」
「あなたが何も考えず突っ込むからよ」
「それは否定できない」
◆
翌日。
ギルドで依頼を受けた帰り。
マドカは魔道具店の前で立ち止まった。
「……あれ?」
店先に新しい魔道具が並んでいる。
「この名前……」
そこには。
『ニコラ式・自動魔力調整器』
と書かれていた。
「やっぱり、この人すごいんじゃない?」
「…………」
リゼットが魔道具を見る。
そして。
「ええ」
珍しく、興味を示した。
「この術式は面白いわ」
「でしょ!」
「一度、本人と話してみたいわね」
「よし!」
マドカが拳を握る。
「ニコラさんに会いに行こう!」
――ただし。
この時の二人はまだ知らなかった。
ニコラが。
自分の研究に没頭しすぎて、人付き合いを完全に面倒くさがるタイプだということを。
そして。
そんな彼女が。
後に二人にとって、とんでもなく重要な仲間になることを。




