変なシステムだな
冒険者ギルドを出たクライブは、教えられた通り村長の家へ向かった。
町の中心から少し離れた場所にある、大きな屋敷。
以前は村長が暮らしていた家らしい。
「ここか」
クライブは扉を叩いた。
「どうぞ」
中から声がする。
「失礼する」
クライブが中へ入ると、そこには一人の老人が座っていた。
「冒険者の方ですかな?」
「ああ。依頼を受けたい」
「そうですか」
村長はクライブを見る。
「それでは、まず実力を確認させていただきましょう」
「……あんたが?」
「はい」
「お前が試験官なんかい!」
思わずクライブが突っ込んだ。
「冒険者ギルドの職員はどうした?」
「冒険者ギルドは、冒険者の登録や依頼達成の報告、報酬の清算などを担当しています」
「依頼の斡旋は?」
「町の依頼については、こちらで管理していますので」
「……本当に冒険者ギルドいらないんだな、この町」
「あると便利なこともありますからな」
「そういうものか……」
クライブは頭を抱えた。
どうにも変な町だ。
「それで、俺の実力をどうやって確認する?」
「簡単です」
村長は立ち上がった。
「少し戦っていただきます」
「分かった」
クライブも立ち上がる。
そして二人は、屋敷の外へ出た。
広い場所まで移動すると、村長が周囲を確認する。
「では、お願いします」
「手加減は?」
「必要ありません」
「分かった」
クライブが剣を抜いた。
村長が合図をする。
次の瞬間。
クライブが地面を蹴った。
「はっ!」
鋭い踏み込み。
一気に距離を詰める。
剣が振り下ろされる。
村長はそれを見て、頷いた。
「なるほど」
速い。
そして無駄がない。
何度か打ち合う。
クライブの攻撃は重く、速い。
冒険者として長く戦ってきたことが分かる。
「十分ですな」
村長が手を上げた。
「え?」
「もう結構です」
クライブは剣を収めた。
「どうだ?」
「十分に強いと思います」
「……本当に?」
「ええ」
クライブは少しだけ安心した。
自分の実力が通じる。
それが分かっただけでも悪くない。
「では、仕事をお願いしましょう」
「何をすればいい?」
「近いうちに、周辺のモンスターの間引きを予定しています」
「なるほど」
「それに参加していただければと思います」
「ああ、それなら任せてくれ」
クライブは自信を持って答えた。
その時だった。
「村長~」
遠くから声が聞こえてくる。
「マドカです~」
「おお、ちょうどいいところに」
村長が振り返る。
そこには、白い髪の小柄な少女がいた。
「ん?」
マドカはクライブを見る。
「誰?」
「新しく来られた冒険者の方です」
「へえ~」
マドカはクライブをじっと見る。
「お兄さん、結構つよいね」
「……!」
クライブは少し驚いた。
一目見ただけで分かるのか。
「俺はAランク冒険者だ」
「そうなんだ」
「『疾風のクライブ』と呼ばれている」
「ふーん」
マドカは特に興味がなさそうだった。
「私はCランク冒険者のマドカ。よろしくね」
「……Cランク?」
クライブの眉が動いた。
「そうだよ」
「……俺はAランクだぞ?」
「うん」
「俺より二つも下じゃないか」
「そうだね」
マドカはあっさり頷く。
「……舐めているのか?」
「なんで?」
「Aランクの俺を前にして、その態度は――」
「だって知らないし」
「…………」
クライブは固まった。
「疾風のクライブだぞ?」
「知らない」
「…………」
「有名なの?」
「……かなり有名だ」
「ふーん」
マドカは首を傾げる。
「まあ、いいや」
そしてクライブを見る。
「お兄さん、戦えるなら一緒に間引きしてみる?」
「ああ。望むところだ」
クライブは剣を握った。
そして数時間後。
「……」
「……」
クライブは、地面に座り込んでいた。
周囲には大量の魔物。
倒した数は、かなりのものだった。
クライブ自身も、確かに戦えている。
苦戦はする。
だが、問題なく倒せる。
「これが辺境のモンスターか……」
「そうだよ~」
マドカが答える。
「普通のところより、ちょっと強いんだよね~」
「ちょっと……?」
クライブは周囲を見る。
これまで戦ってきた魔物とは明らかに違う。
動きが速い。
地形を使う。
こちらの隙を狙ってくる。
それでも。
「……まあ、問題ない」
クライブは立ち上がった。
「これくらいなら、俺一人でも十分やれる」
「うん。強いね」
マドカも素直に認める。
「なら、俺もこの町で役に立てそうだな」
「そうだね」
「よし」
クライブは満足そうに頷いた。
すると村長が近づいてきた。
「では、今後の仕事についてですが――」
「おう」
「依頼を受ける場合は、私のところへ来てください」
「分かった」
「そして達成した依頼については、あちらの冒険者ギルドで報告してください」
「……ああ」
クライブは頷く。
「報酬の清算も、あちらでお願いします」
「なるほど」
クライブは少し考えた。
「つまり、依頼を探すのはここで、達成報告や報酬の受け取りは冒険者ギルドということか」
「その通りです」
「……」
クライブは小さな冒険者ギルドを思い出した。
あのプレハブのような建物。
「そういうシステムなら仕方ない!」
納得するしかなかった。
そしてクライブは、マドカを見る。
「おい、マドカと言ったな!」
「ん?」
「いつか俺とパーティーを組まないか!」
マドカは少し考える。
「んー」
そして、あっさり答えた。
「間に合ってます」
「…………」
クライブは固まった。
「……そうか」
「うん」
マドカは気にした様子もない。
「じゃあ、またね~」
「おう……」
マドカが去っていく。
クライブは、その背中を眺めながら思った。
この町。
どうやら、自分が思っていた以上に変な場所らしい。




